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日本海④

 このシベリア高気圧がもたらす北西風は、日本海にもう一つ変化をもたらせます。ロシアに近い北側の海では、この北西風の冷気が表層の海水を冷やします。

 表層の海水温度は、どんどん下がっていき、最後には、海水を氷結させます。凍った海水からは塩分が流出し、その周りにある海水の塩分濃度があがります。こうしてできた塩分が多く、温度の低い海水は、比重が重くなって、重力で、海の底へと沈んでいきます。十分な重さをもった海水は、海底まで達し、重い海水に押し出される格好で、比重が軽くなった海水が海底から押し出されます。こうして、日本海の中を海水が巡回しています。

 海水が循環することによって、海水の温度が均一になっていきます。ちょうど、風呂場で桶を使って浴槽をかき混ぜたのと同じ状態を北西風の冷気が作っているのです。

 また、日本海の表層にあった豊かな酸素もいっしょに海底へと沈んでいきます。こうして、海底にも酸素が行き届き、生物が暮らせる環境が整っているのです。

 この循環は、「熱塩循環」と呼ばれています。日本海という小さな海の中で海水が上から下に沈み込み、また下から上へあがってきて、ぐるぐると巡回します。それでは、どのくらいの期間をかけて循環しているかというと、100年とか200年とかとの単位です。

 一方、地球上にある太平洋とか大西洋などを含めた全ての海もまた、同じ原理で循環しています。こちらは、海洋学者のウォリー・ブロッカーの名にちなんで「ブロッカーのコンベアベルト」と呼ばれています。この地球規模のコンベアベルトを約2000年かけて海水が循環しているそうです。

 日本海は、100年単位、世界の海は数千年単位で循環している。そう、日本海は、世界の海の縮図のようなかたちをしているのです。そのため、日本海は、今日問題になっている地球温暖化などの環境問題が海にどう影響を及ぼしているのかという問題をいち早く伝えてくれる可能性があります。そういう意味で、世界の海の縮図である日本海は、世界中から今注目を集めているのです。

 次回は、日本海の過去を遡って、縄文時代以前の日本海から見えてくることを考えてみたいと思います。

日本海①

日本海②

日本海③

参考文献 蒲生俊敬著『日本海』(ブルーバックス)

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