見出し画像

Sarah Recordsについて vol.2 あの頃のこと by 小出亜佐子

KKV Neighborhood #148 Column - 2022.09.21
あの頃のこと by 小出亜佐子

わたしにとっての始まりは1986年、primal screamの「it happens」でありthe pastelsでありthe june bridesでした。イギリスのインディが熱い!something going on!!(何かが起きている!)とミニコミ「英国音楽」の片隅に好き勝手なことを書いていたら、あっこちゃん(後のsugarfrost)やゆきのさんと文通するようになり、sha-la-laという見たことも聞いたこともないけれど新鮮な可愛い曲ばかりのフレキシ・ディスク(ソノシート)のシリーズを教わったのです。なんと、彼女たちはイギリスのファンジン・ライターたちと直接やりとりして、まだ世に出ていない最新インディバンドのフレキシを入手しているというではないですか。輸入盤店や音楽誌も決して伝えない、どこよりも早い現地最新情報でした。SNSで世界中時差なく情報が伝わるこの現代に、このありがたみがお分かりいただけるのか甚だ心配ではありますが、誰も知らない自分たちだけの最新ヒット曲を発見する興奮がありました。正規のレコードを出す前のバンドの曲は、ファンジンの付録フレキシやコンピレーション・カセットでしか聴くことが出来なかったのです。わたしたちがjohn peelのラジオ番組を聴けたら話はまた別だったのかもしれませんが、逆にお手紙を書けば、都会に住もうが田舎に住もうが、ファンジンライターとは繋がれたのです。このファンジン付録フレキシからインディレーベルデビューへ~という流れは70年代後半から続くUKポストパンクの実に正統的なやり方だったということは、後から学習しました。

そのsha-la-laの一員であったmattくんと、別のファンジンでthe sea urchinsのフレキシを作ったclareちゃんが新たに立ち上げた「レコード」レーベルがSarah recordsだという話もあっこちゃんたちから教わりました。1988年2月2度目の渡英で、確かROUGH TRADEで最初の5枚のシングルが買えてホッとした記憶があります。今思えば、特に1987年11月発売のthe sea urchinsの最初のシングルが翌年2月にまだ買えたとは、現地ロンドンとは言え、なんてのんびりした時代だったんでしょう。

ミニコミ「英国音楽」11号では、この時の自分と仲間たちの再渡英レポに加え、あっこちゃんが直でやり取りしていたsubway organization、medium cool、ゆきのさんによるsha-la-laとSarahの書簡インタビューを含めた特集を載せることができました。更に、アコガレのフレキシ付きです!その内容は我々仲間のバンドであるlollipop sonic、penny arcade、the bachelorsと、ロンドンで声をかけてその場で快諾してくれたmedium coolの新人the rain。夢にまで見たフレキシ付きファンジン!究極の理想形ができあがって意気揚々と、いろんな人に週末ごとに送り付けました。もちろんSarahのmattとclareにも送って、クレアからのお返事がいくつか残っています。今度のファンジンに書くね~という手紙があった後に、1989年の8月の消印でSARAH14のファンジン、Lemonade/ColdとSARAH13の小さなフレキシのセットが送られています。クレアのLemonadeのchapter twelveにしっかり「英国音楽」というロゴが、一体どうやって?と思うくらい小さく縮小されて載っています。コレはインディ・ファンジンライターとして最高にクールで名誉なことでした。

英国音楽11号より


talulah gosh
the sea urchins

その後もぽつぽつと手紙のやり取りは続き、今度talulah goshのメンバーの新バンドHeavenlyを出すよ!なんて情報も書かれています。このころ正直自分はSarahの出すもの全部を買うことはなくなっていたけど、Heavenlyなら全部買うというヒドイやつでした。Heavenlyは2ndアルバムからアメリカ盤はKが出すようになっていましたし、自分の興味はそちら方向に向かっていました。自分の不義理さに胸が痛みます……。

デビュー後人気がうなぎ上りだった(lollipop sonic改め)フリッパーズ・ギターが宝島で連載を始めた時の写真に、たくさん広げたレコードの中にthe field miceのsensitiveのシングルが目を引いて、サラのレコードが人気出て高騰しちゃうかもと思った覚えがあります。そのせいもあったのかはわかりませんが、輸入盤で一部ファンにSarahが注目されるようになり、1992年にはquattroレーベルから「ここはブリストル:IN THIS PLACE CALLED NOWHERE」という日本限定コンピを皮切りに日本盤も発売され、heavenlyやblue boyの素晴らしい作品の日本盤ライナーを書かせていただく機会にも恵まれました。クワトロでのサラ・レコーズ・ナイトではやっとクレアとマットに挨拶することもできました。この時代以降については記憶の整理をしていないのですが、フリッパーズ及びネオアコ的なものの人気があまりにすごくて、その喧騒から少し距離を置きたいと思っていたことと、サラのすべてを揃えているわけではないという後ろめたさがありました。

1995年、サラが100番で終わりになるというお知らせのフリーペーパーは、マットから届きました。ずっと手紙をくれてたのはクレアだったのに。翌年にはShinkansenを始めるというお知らせも。もっと英語できちんとやりとりできたなら……と後悔と痛みばかり残ります。

それから約20年後の2014年にサラの映画が製作され、2021~22年大阪の若い女性たちによって日本で公開されるなんて。未だに新たなファンが世界中で生まれ続けていることに改めて驚いています。これを読んでいる方には当然のことかもしれませんね。

サラの存在した1987年~1995年のUK音楽って、マンチェブームが始まって終わり、ブリットポップに移行してますからね。そんなシーンの移り変わりをきっと肌で感じながら、マッチョなプレスにひどい扱いを受けたり、不条理な思いもたくさんしたことでしょう。よくがんばったと思います。ファンと音楽への忠誠心とも言えるような、インディペンデントでまっすぐな姿勢には、誰もが背中を押され、背筋が伸びるような気持ちになりますよね。
サラの公式HPがまたカッコいいんですよ。ebay何それ?と言わんばかりの大盤振る舞い。音源もファンジンもフライヤーも……あらゆる関連品が公式でアップされているのです。カッコいい。こうでありたい。何が?と言われると答えられないけれど、こうなりたいと強く思うのでありました。



Space Kelly 6年ぶりのアルバム・リリースは伝説のインディー・レーベルSarah Recordsに残された楽曲のカバー集!
ギター・ポップ・シーンで長く活動を続けているSpace Kellyが自身のルーツに立ち返ったカバー・アルバム。

10月28日発売
Space Kelly / Come To My World : a tribute to SARAH
KKV-125VL
LP+DLコード
3,850円税込

収録曲
Side A
1. Pristine Christine (The Sea Urchins cover)
2. You Should All Be Murdered (Another Sunny Day cover)
3. Are We Gonna Be Alright (The Springfields cover)
4. Killjoy (Brighter cover)
5. Emma’s House (The Field Mice cover)
Side B
1. Tell Me How It Feels (The Sweetest Ache cover)
2. Shallow (Heavenly cover)
3. Ahpranhran (The Sugargliders cover)
4. Dogman (East River Pipe cover)
5. River (BlueBoy cover)

レーベル予約受付中
https://store.kilikilivilla.com/v2/product/detail/KKV-125VL

90年代中旬から20年以上にわたってヨーロッパのインディー・シーンで活動を続けてきたSpace Kellyが2020年のロックダウンの期間に自身のルーツを振り返った時に再発見したSARAH RECORDSの数々の音源。はじめてギターを手にした日をもう一度思い出しながら振り返った時に輝きだした珠玉の名曲の数々を丁寧に磨きだしたコンセプト・アルバム。

Space Kelly
ヨーロッパを中心に90年代から活動を続ける日系ドイツ人KEN STEENのソロ・ユニット。これまでに8枚のオリジナル。アルバムと数多くのシングルをリリース、そのサウンドはいつもエバー・グリーンなインディー・ポップであり爽快でカラフルなギター・ポップ。UKインディー・シーンとは古くから交流があり、とくにティーンエイジ・ファンクラブを中心としたグラスゴーのシーンとは関係が深い。 これまでに2回の国内ツアーを行っており、彼にとって日本は第二の故郷ともいえる。

SARAH RECORDS
ブリストルを拠点に1987年に活動をスタートし1995年に最後のリリースとなったカタログ・ナンバー100でレーベル活動を停止、その活動は世界中のインディー・ファンに計り知れない影響を与えた。70年代末から80年代中旬にかけてラフトレード、クリエイション、ファクトリーなどのインディー・レーベルが次々と革新的なリリースを行い、インディー・レーベルがイギリスの音楽シーンをリードし、90年代はもはやインディー・レーベルがメイン・ストリームとなる。そんな状況の中、マットとクレアというファンジンを作っていた2人の出会いによってSARAH RECORDSはスタート。完全なD.I.Yスタイルで運営されたレーベルは世界中のギター・ポップ、インディー・ファンを虜にした。サウンドはC86と同世代の素朴なギター・ポップが中心だが、すべての作品に通底する手作りで直接語りかけてくるような感覚は他のレーベルの作品とは違い独特の趣があった。 SARAHからリリースした代表的なバンドはHevenly、The Field Mice、The Orchids、The Sea Urchins、Brighter、Another Sunny Dayなど。 2014年にはSARAH RECORDSのドキュメンタリー映画『My Secret World』が制作され2022年には映画チア部大阪支部により日本でも公開となった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?