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COALTAR OF THE DEEPERS x Boris対談、Live Report

KKV Neighborhood #209 Dialogue & Live Review - 2024.2.9
対談進行、構成 by 与田太郎
Live Report by 恒遠聖文
Photo by Emily Inoue

hello there

Coaltar Of The DeepersとBorisはどちらも90年代初頭に活動をはじめ、そのキャリアは共に30年を超える。どちらもエクストリームなスタイルを貫き通し、今もシーンを超越した存在感を放つ。先月スプリットとしてリリースされたアルバム『hello there』は音楽好きやお互いのファンにとっても違和感のない組み合わせだった。2月15日に新代田FEVERで行われる合同ツアーの追加公演を前にその経緯について、メンバー同士の対談という形で語ってもらった。

ー今日はよろしくお願いします。今回のスプリット・アルバムはそれぞれのファンやバンドのことを知っている音楽好きにとってはとても腑に落ちる組み合わせだと思いました。そこで実際のメンバーの言葉でこれまでの経緯などを聞かせてもらいたいと思います。まずそれぞれがお互いのことを認識したのはいつ頃のことですか?

TAKESHI もうそれこそ『WHITE EP』のころからで、DOLLの広告で見て、なんだったかなー、すごくツボにはまる煽り文句が書いてあったんですよ、なので古いです。

ATSUO ぼくはBorisの初期にTAKESHIから教えてもらいました。

ーそれは1991年あたりですよね、ほんとに初期ですね。

NARASAKI まだショウちゃん(初代のボーカル)がボーカルの頃

ーショウちゃんがボーカルの時の音源があるんですね。

TAKESHI だからボーカルの人の名前が違うんですね。

NARASAKI そう、ナベって言ってた。

TAKESHI そうそう、NABEっていう表記でしたね。

ー彼は僕の古い友達でワタナベっていうんです。TAKESHIさんが最初にディーパーズのライブを見たのはいつ頃ですか?

TAKESHI 90年代前半当時はリアルタイムでライブは見てないんですよ。当時ATSUOがやっていたハカイダーズというバンドがあって、そのバンドが下北沢シェルターのワルシャワ・ナイトに出た時の共演にディーパーズの別名義だったクィーンズパークを見たのが最初かな。

ATSUO そうそう、あの時だね。

NARASAKI え!そうなんだ、なんでその時いわないの(笑)、知らなかったよ。

ーそれは何年ぐらいですか?

ATSUO 1993年ぐらいかなー?僕がワルシャワ(レコードショップ)で働いていたんですよ。

ー吉祥寺の頃のワルシャワですよね。

NARASAKI で、ハコが?

ATSUO 下北沢シェルターです。

NARASAKI 俺は人間椅子とやったことしか覚えてないな。

NAGASAWA ラウドネスやった時だっけ?

NARASAKI ラウドネス?

NAGASAWA ラウドネスの「クレイジーナイト」やったじゃん。その時にハカイダーズと一緒にやってるんだよ。

NARASAKI いや、それはないな(笑)。

TAKESHI 俺、その時サウンドチェックから見てましたよ。

ATSUO その日はTAKESHIが興奮してて。

TAKESHI いやー、ついに見れるって。それでサウンドチェックから見てたんですよ。

NARASAKI あの時のボーカルはANTI AUTHORIZEのボーカルで。

TAKESHI そうそう!(笑)

Photo by Emily Inoue

ーディーパーズのおふたりがBorisを認識したのはいつ頃ですか?

NARASAKI 俺は成田さんがBorisのアルバムをプロデュースした時、あれは何年だろう?

ATSUO あれは2011年です。

注:成田忍 https://ja.wikipedia.org/wiki/成田忍

NARASAKI けっこう最近です、ヤング・リスナー(笑)、若くないけど。

NAGASAWA 俺は自分がどのバンドだったか覚えてないんだけど、Borisとは高円寺20000Vで対バンしてるんだよ。自分がどのバンドだったのか全然思い出せないけど(笑)。その時に「今日はよろしくお願いします、うちらステッカー作ったんで貰ってください」ってステッカーもらったんですよ。

TAKESHI それ顔のやつ?

NAGASAWA そう!

TAKESHI じゃあ相当古いね、1996年あたり。

NAGASAWA そのステッカーかっこいいと思って、まだ取っておいてあるよ。

TAKESHI でもなんのバンドで出たのかは思い出せないんだよね?(笑)。

ATSUO TSUYOSHIくんはいっぱいバンドやってるからね。

NARASAKI 96年ってことならある程度絞れるんじゃない?なんだろスズキコウジとかじゃない?

NAGASAWA ちがうちがう、20000Vはやってない。

TAKESHI レーザービームじゃなくて?

NAGASAWA レーザービームはもっと後。

ATSUO レーザービームは一緒にやってないでしょ。

TAKESHI そうか、レーザービームはやってないね。もしかしたらオールナイトのイベントとかじゃない?

NAGASAWA そうかも。

TAKESHI その頃の俺たちは20000Vでは自分たちの企画ぐらいしかやってないから、年末とかのバンドが沢山でるイベントかな。

NARASAKI 話がマニアックすぎる(笑)、大丈夫かなー。

Photo by Emily Inoue

ーこういう細かいエピソードがリアルでいいと思いますよ。

ATSUO 成田忍さんに僕らの『NEW ALBUM』というアルバムをプロデュースしていただいて。成田さんは僕にとってもナッキーさんにとっても師匠のような方なんです。

NARASAKI そう、アーバン・ダンスの成田さん。勝手に俺たちも傘下(=弟子)になっているという。

ーそれはどういう繋がりですか?

NARASAKI 勝手に言ってるだけなんですが(笑)、成田さんからお墨付きはもらってないです。URBAN DANCEは初めてアルバムジャケット見て
顔が良いYMOかと思いました(笑)いわゆる成田節な甘めのメロディーが好きなんです。

ATSUO いろいろ日本の音楽を聴いて気に入ったものには成田忍のクレジットが入っていてですね。サウンドプロデュースという役割を意識したのは成田さんからです。D’ERLANGERの『BASILISK』は本当に名盤ですね。プロデュース作品を経て、4-Dやご自身の作品も聴くようになって。2011年のアルバムでは知人を介して紹介いただいて、サウンドプロデュースをご協力いただきました。

Photo by Emily Inoue

ーBorisもディーパーズも一貫してエクストリームなサウンドを追求していますね、Borisはハードコアやノイズからメタルといった方向性を持っていますが、ディーパーズはインディー系に通ずるものもあります。けどどちらもシーンの中では異物のような存在でもありますね。お互い30年以上の活動の中で今回の企画が実現したことは、僕から見ると必然でもあるという気もします。

ATSUO そう、まさにはぐれもの同士。

NARASAKI いつも対バンがいない。

ー今回の企画は具体的にはどうスタートしたんですか?

ATSUO 2011年に成田さんを通じてナッキーさんと話すようになって、僕らがTRASH-UP!! RECORDSから出したシングルでナッキーさんにアレンジ / プロデュースをお願いしたんですね。そういう流れがありつつ、当時ディーパーズさんとブッキングが決まったけど2回ぐらい流れたということがあって。

ーそれはコロナの時期ですか?

ATSUO もっと前です。でも全然実現しなくて、やっと最近やらせていただいて。

NARASAKI こちらこそやっていただいて。

ATSUO 以前からその流れのなかで僕らがDISGUNDERとやったり

NARASAKI DISGUNDERというのはツヨシがやっていたグラインド・コアのバンドなんですけど。

ATSUO Borisとツアーをやったりして、いろいろ縁が重なっていった感じです。

ーお互いにシンパシーがありながら自然に近づいていったんですね。今回のツアーとスプリットを提案したのはATSUOさんですか?

ATSUO はい。

ーNARASAKIさんはその提案をされてどうでした?

NARASAKI やったるかー!(笑)って、なんか文字になったらよくわかんない感じですね(笑)。うれしかったですね。

ATSUO 当初は日本でライブをやった後に海外でも一緒にやりたいと考えていたんですよ、なかなかタイミングがあわなかったりしてるんですけど。僕の感覚では一緒に音源を作ったりすると海外への間口を作りやすいと思っていたので、そういう提案もしつつ。

ーそうですね、Borisはむしろ海外でのファンベースが強力だし、いろんなシーンをクロスオーバーしているからそういう提案ができますね。いっぽうディーパーズとしても海外で聴いてくれてる人たちはけっこういますよね?

NARASAKI そうだと思うんですけど。

ーNARASAKIさんはSpotify とかのデータを分析して、みたいなことはやらなそうですが。

NSRASAKI いやー、やらないですね。

ATSUO 明日の叙景の等力くん(ギター)が言うにはレイトユアミュージック(rateyourmusic.com)とかを見るとディーパーズは海外でも認知されてるって言ってましたね。

ーあまりそういうことを気にせずやってるようには見えますけど。

NARASAKI でも海外進出は目標ですね。

ーBorisほどではないにせよ、海外ツアーはやってますよね?

NARASAKI いや、あの時のニューヨークでのCMJぐらいですよ。

ーあー、1993年か1994年の!

TAKESHI 俺そのライブレポートを当時DOLLで見ましたよ。ブルティッシュ・ブルドッグスと一緒に行ったやつですよね?

NARASAKI そうそう!

TAKESHI 覚えてますよ。

NARASAKI なんかコアなファンと喋ってるみたい(笑)。

TAKESHI 俺、なんかもうコアなっていうより、ただの気持ち悪いファンですよね(笑)。

ATSUO お互いにそれぞれのフィールドがあって、それも30年以上やってるわけじゃないですか。どこかで入りづらいイメージもあったと思うんですけど、また新しいオーディエンスにも届けアピールしたいという思いも込めてそれぞれのセルフ・カバーとお互いにやってほしいカバーを提案しあって作ったのが今回のアルバムのコンセプトなんです。なので改めて「みなさんこんにちは」「改めてこんにちは」という。

NARASAKI こんにちは!(笑)。

ーシンプルにいい企画だと思いました。それぞれのいままでの歩みと現在の立ち位置を考えるとちょうどいいタイミングな気がします。

ATSUO やはり実現することと実現しないことってそれぞれに意味があると思うんです。その時々で、いいタイミングで実現するというか。

ー確かにそうですね。ディーパーズにとっては今回のリリースが海外への糸口になる可能性もありますね。

NARASAKI そのために三味線スタートにしましたから、オウ!シャミセン、ジャパニーズ!オリエンタル!みたいな(笑)。つかみはこれでOK。

ATSUO 3月にはイギリスのDOG KNIGHTSというレーベルからアナログのリリースとデジタル配信がはじまるので世界の反応が楽しみですね。

NARASAKI それは楽しみ。

ーBorisはリリースしてツアーを回って、同時に何作か制作中というのがルーティーンになっていると思いますけど、ディーパーズはそこまでハードに動いてはいないですよね?

NARASAKI なんだろうね、単純にずっと筆がのらないというか。いまはようやく叩けば出るみたいな状態になりましたけど。自分のサイクルみたいなもので、新曲を作りたいと思えない時期がけっこうあって。

ATSUO いまは活発に動いてますよね?アルバムの再録もあって今回の企画、それから新曲を自分たちのレーベルから出したり。

TAKESHI HARDCORE KITCHENのコンピの曲かっこよかったですよ。

NARASAKI ありがとうございます。あれは本当にBorisさんがジャパコア・スタイルでツアーするっていうなら積極的に真似しようと思って(笑)。"ナパームデスみたいになりたいS.O.B"みたいに似たようなスタイルで追いかけてゆくという(笑)。嘘ですけど。

Photo by Emily Inoue

ーどちらも自分たちのルーツを大事にしてますね、その上で自分たちのカラーもでていて。でもエクストリームであることを譲らない、そういうお互いのアティチュードを解っているんだろうなと思いました。それぞれのルーツはみんなが10代だった80年代のなにかだと思うんですけど。

ATSUO ディーパーズのその何かを僕はわかっているんです、それ戸川純ちゃんなんですよ。

NARASAKI あたしのこと?(戸川純のものまねで)

ATSUO ナッキーさんものまねもすっごい上手なんですよ(笑)。僕もすごい好きなんです、もちろんナッキーさんはもうマニアレベルですもんね。

ーまさに戸川純の『玉姫様』をリアルタイムで聴いていた世代ですね。

ATSUO 純ちゃんってほんとなんでもありで、全部投げ込まれていくじゃないですか。

NARASAKI そうですよね、なんでもありにできる。

ATSUO 戸川純という器になんでも投げ込まれている、メタル感はほとんどないかもしれないですけど。そういういろんなものが入っているというところはディーパーズとの共通項なんだと思います。

ー言われるたしかにそうですね、その投げ込むものの類似性というか。

ATSUO 僕はディーパーズとか、ナッキーさんの歌うところを見るといつも純ちゃんが透けてみえるんですよ。歌唱法とか立ち居振る舞いとか。

NARASAKI あー、なるほど。ステージで曲名の振りに「~という曲を」っていうんですけど、それは完全に戸川純の影響ですね、完全に。

ATSUO たぶんこれは誰も言ってないですね、ここではじめて明かされた(笑)。

NARASAKI それはほんとそう。

ーみなさんが戸川純に出会ったのはたぶん84年から86年ぐらいですよね?

NARASAKI 『玉姫様』が衝撃で。

NAGASAWA 『釣りバカ日誌』もほんと衝撃で(笑)。

NARASAKI 女優としてもね!

ATSUO それこそ楽曲にシャンソンを持ち込んだり、そういった戸川純の要素から考えていくとディーパーズって自然なんですよ。

ーたしかに。

NARASAKI 俺は中学生の頃からニューウェーブを聴いていて、同時にメタルも聴いているとメタルはどんどん速くなってグラインドまでいって、俺は速ければなんでもよかったんだけど。

TAKESHI そこ全くおんなじなんですよ。俺もニューウェーブを聴きながらメタルを聴いてたらメタルがどんどん速くなって、ハードコアも同じように速くなって。とにかく極端なものを求めて、刺激さえあればいいみたいな状態になっていったこともあって。

ー1988年ぐらいまでですよね?90年代に入ってアメリカのオルタナティブもソニック・ユースの『Daydream Nation』以降で混沌としたシーンの景色がかわりますね。

TAKESHI その頃そこでいったん整理された感じでしたよね。

ーBorisもディーパーズも80年代後半のUSの混沌としたサウンド、それは硬かったり、ハードだったりノイジーだったりいろいろなんですが、そういう音にインスパイアされているんだろうなとは思いました。

ATSUO 究極に速くなった後にそのカウンターとして極端にスローな音楽、バンドが出て来たじゃないですか?

NARASAKI そうそう!はじめてスワンズ聴いた時にびっくりして。音楽好きの先輩からハードコアよりもっとやばいのがあるよって言われて。うわ、おっせーみたいな(笑)。

ATSUO 僕はその頃バースデイ・パーティーとかニック・ケイヴのながれでスワンズを聴いて、そういった様々なスタイルがクロスするポイントがありましたね。

ーそうですね、1989年から1990年あたりがそういう時期じゃないでしょうか?1991年になるともうそれぞれのスタイルにくっきり分かれてUSインディーはアンダーグラウンドもオーバーグラウンドもスタイルが完成しますね。

NARASAKI その直前の混沌としていた時期が最高におもしろくて、メタルは速くなるし、ヒップホップやハウスも出てきて、そういう新しいのものがクロスオーバーして混ざり合って。まあグランジやマンチェ、シューゲーザーみたいな言葉にもときめきがあったし。俺はそういう時期がオアシスの出現で終わってしまったっていうのがつまらなくて、結局ビートルズかよって。音楽的な進化がなくなってしまって、そこで終わりでしたね。

ーそういう意味でもBorisもディーパーズも80年代後半の混沌とした時代をおもしろがっていたことがよくわかりますね。どちらもギターを中心にしながら異物を加えていくというか、合わないものを組み合わせながら提示してきますから。

ATSUO やってる僕らとしては自然なんですけど、聴く人にとっては異物なんでしょうね。

ー僕らの世代はシーンやサウンドの変化をリアルタイムに見てきたじゃないですか、例えるとソニック・ユースがジャンクなノイズ・バンドから『Daydream Nation』を経て『GOO』に行く流れが象徴的だと思いますけど。80年代後半のロックはなにをやってもいいんだってところから完成されたものに変化してゆく流れを。でも今はすべての音楽が聴き方としても並列だし、ダイナソーJr.やピクシーズが登場した時の新しさを若いリスナーが想像するのは難しいかもしれません。背景がより想像しずらいんじゃないでしょうか?それは同じように日本の80年代のシーンにも言えて、当時はジャパコアからアバンギャルドなものまで様々な動きがあって、しかも一年の間にものすごく変化してましたから。その背景を想像するのは簡単ではないかもしれないですね。

ATSUO 一方で僕はその、混ぜ合わせるということも簡単ではないと思うんですよ。80年代はメタルとハードコアが敵対していたり、ジャンルが混ざることは禁忌なしとされてましたから軽々しくできないことだった。

NARASAKI 俺のS.O.D体験みたいな(笑)。

ATSUO だから、ただ安易に詰め込め!みたいな軽薄さはないつもりです。

ーそうですね、自分たちがどこのフィールドにいるのかは明確にしないといけないので緊張感がありますね。どちらを好きでも自分はどちらにいるのかを示す必要はあるんですね。その中で長い年月をかけて多くのジャンルやシーンをクロスさせているという意味においてはBorisもディーパーズも近いですね。

ATSUO そうですね、ほんと共感するところです。

ーそれがこういう形で作品になるというのは面白いですね、それぞれのファンの人たちも納得できる内容だと思います。

ATSUO こないだの東名阪ツアーでもいい反応でした。お互いのファンがそれぞれ観て聴いて楽しんでいるというか。笑顔のお客さんが多かったです。

TAKESHI 答え合わせができたと思った人も多かったんじゃないかな。ライブを観たら、これまでの関わりの意味がわかったという感じで。

ーそれがもっと先まで広がると面白いんですが。2月のFEVER以降でライブの予定はないんですか?せっかくなんでアルバムが配信になった以降で1回ぐらいあったらいいんではないかと思います。

ATSUO ヨーロッパとかね(笑)。2月15日のFEVERはCDが出た後にやったほうがいいだろうということで決めたんです。

ー配信のあともぜひ!

Photo by Emily Inoue

NARASAKI TAKESHIくんってネオ・ハードコア・テイルとかは通ってないの?

TAKESHI あんまり通ってないですね、もうBorisの活動もスタートしていて、その時期は自分の対バン以外はほとんど見なくなってたんです。

NARASAKI そうなんだ。

TAKESHI でもその頃はモルガーナにはよくいってたんです。

NAGASAWA 下水処理GIG?

TAKESHI そうそう。でも法政大学のロックス・オフの企画とかでその周辺のバンドと一緒になったりとかはあったかな。

NARASAKI ほんと同年代が集まって昔話するのって楽しいですね(笑)。

ーディーパーズはビヨンズやゴッズ・ガッツとからむことはありました?

NARASAKI ディーパーズは最初のライブがゴッズ・ガッツが一緒だったと思う。わりと最初からしっかりした企画だったかな。

ーシェルターですか?

NARASAKI 20000Vでヴォリューム・ディーラーズとゴッズ・ガッツだったかな。

ーそれはLess Than TVとかの企画?

NARASAKI どうだったかなー、KANNOはもうキャプテン・コンドームスやってたかな?

TAKESHI そのあとじゃないですか?

NARASAKI 当時キャプテン・コンドームスっていうノイズ・バンドがあって。

ATSUO 好きだったー。

TAKESHI キャプテン・コンドームスは凄いバンドでしたよね、ドラムKANNOさんでしょ、ボーカルのNAOさんはクール・アシッド・サッカーズで、ギターがヴォリューム・ディーラーズのテツローさんでしょ。

NARASAKI そうだね。

ATSUO ピンクのジャケットのやつね。

NARASAKI そのまえにシングルがあって

TAKESHI 『ゴッド・スピード・ユー』ですよね?

NARASAKI そうそう、そこでベースを弾いていたマコトってやつと俺が一緒にバンドをやっていて。そいつがキミドリのベースになるんですよ。彼とKANNNOと俺で最初にグラインドコアのバンドをやってたんです。

TAKESHI そうなんですか!

NARASAKI そういう繋がりがあったんだよ。

ーみんな渋谷のCAVEにいってた頃ですね。

NARASAKI 懐かしい。

ーNARASAKIさんはジャンルを横断していろんなところにいますね。

NARASAKI 単なる流行りもの好きです。

ー90年代前半は隣接するジャンルだけじゃなくてヒップホップとハードコアがクロスするようなことがありましたね。キミドリはその良い例ですね。あの時代の新宿ロフトに行くけど渋谷CAVEにもいくみたいな感覚はディーパーズが出てきた時の感じを思いだします。

ATSUO その辺りは与田さんじゃないと語れない話ですよね。

ーでもさすがにBorisが動き出した時のフィールドは俺も知らないですから。ディーパーズがいたシーンは自分がかかわったバンドも多かったので。

ATSUO ミュージックマインはいつからなんですか?

NARASAKI  ZKにさそわれたのが1994年か1995年、あれミュージックマインの中にZKがあったのかな?

ーそう、ZKは途中からミュージックマインの中のレーベルになってる。でもその前にビクターからアルバムをだしてますよね?

NARASAKI そう。

ービクターからのファーストは何年?

NARASAKI えーと..

TAKESHI 1994年ですよ。俺下北沢のユニオンに発売日に買いに行きました。

NARASAKI 誰よりも詳しい(笑)。

TAKESHI ちなみに『WHITE EP』はゲノアの方が運営していたSTRANGEというレーベルで。

NARASAKI そうそう。

ーちょっと話は戻るけどミュージックマインからリリースされるきっかけはZKからの流れですね?

NARASAKI そう、『SUBMARGE』はZKからでした。

ーその次のニューヨーク録音の『COME OVER TO THE DEEPEND』もミュージックマインから。

NARASAKI ミュージックマインでした。

ー90年代にはBorisとディーパーズがアクセスしてないというのはちょっと意外でした。

ATSUO 年齢的なものや活動のフィールドは近いところにいたんですけど存在は遠いというか。

NAGASAWA まわりにもいろんな人やバンドがいて、かなり散らかった状態から年月をかけて整理されて、ふっととなりを見たらいた、みたいな(笑)。

ーなるほど!そうですね。

ATSUO お互い生き残ったという。

NARASAKI 俺なんか下北沢ZOOとかにいってました、おしゃれさんだったから。

ーそのあと2000年ぐらいには俺が山梨でやっていたプライベートなレイヴにもきてくれたよね。

NARASAKI 行ったね!やばかった。

ーほんとにここにきて、Borisとディーパーズはそれぞれのスタンスでやっていたらお互いが目の前にいたという感じですね。

ATSUO ほんとそうです。

ーそれはそれはで凄いことですね。

ATSUO 30年超えてますから。

NARASAKI でもうちらはずっとコンスタントにやっていたわけではないので。そこはBorisのほうがすごいと思いますね。ライブの本数とか多分10倍ぐらい違うだろうし。

ーそれぞれの歩み方はあるにせよ、今回の企画に違和感はないですね。Borisが海外で評価が高くなったのが2000年ぐらいですよね?

TAKESHI そのぐらいです。

ATSUO 『PINK』出したあたり。

TAKESHI 本格的に需要があるとわかったのが、そのあとの2004年か2005年ぐらい。

NARASAKI ワンマンできるようになったのはいつぐらいですか?

TAKESHI 2001年ぐらいかな、最初のオレンジ色のジャケの『HEAVY ROCKS』を出した時にシェルターでやったワンマンが最初。

NARASAKI アメリカでは?

ATSUO ヘッドライナーということなら2005年ぐらいかな。

TAKESHI そう、『PINK』のあとですね。

ーニューヨークだと会場はどこですか?

ATSUO 最初はニッティング・ファクトリーとかで。

TAKESHI ニッティング・ファクトリーの小さい方。

ATSUO 最初は200~300人だったよね、そこからバワリー・ボールルームと大きくなっていって。

NARASAKI うちらもはじめてのニューヨークはニッティング・ファクトリーだった。あのとき与田さんビヨンズで来てたよね。

ーそうそう。いまだとBorisはニューヨークはどの会場ですか?

TAKESHI ウェブスター・ホールですね。

ーBorisのライブに集まるお客さんがどんな音楽を聴いているのか想像できますか?

ATSUO ここ最近はメタルだと思うんですけど、ようやく最近日本でもメタルという言葉が大きなジャンルを表すということが認識されてきたと思うんですよ。僕らの世代だとメタルというと所謂ヘヴィー・メタル=ヘビメタのことなんですが、今はもっと大きなカテゴリーを意味していて、メタルの中にサブジャンルとしてヘヴィー・メタルがあるという状況になってますねなんです。そういう意味では僕らもディーパーズも認識されやすくなってると思います。僕はいまだにメタルと言われることに若干抵抗あるんですけど。

TAKESHI 俺は全然ない。

ーメタルという大きなカテゴリーにいくつものサブジャンルがある状況ですか?

ATSUO そうです。

ーロックを基調にしたエクストリームなギターサウンドですね、そうなるとパンクとの境界線はどうなるんでしょう。

ATSUO そうなんです、人によってはハードコアを聴いても「これはメタルだろ」と感じるだろうし、なんていえばいいのか。

TAKESHI ものすごく大きな枠なんですよ。Apple Musicとかでジャンル表記があるじゃないですか、そこで明らかにハードコア出自のバンドもメタルのカテゴリーに入ってたりしますから。僕ら世代の「あれ?」っていう感覚が、もう当たり前のこととして浸透してるような気がします。さっきも言ったようにオールドスクールなメタルはヘヴィー・メタルというサブジャンルになってるし。

ーそれはアメリカーをツアーして実感しましたか?

ATSUO そうですね、ただ僕らは昔からオーディエンスの幅がひろいので、パンク、ノイズ、ハードコア、サイケ...。

ーBorisは聴き手もクロスオーバーしてますね。

TAKESHI でもたとえばメタルのフェスに誘われるじゃないですか?僕らめちゃめちゃアウェーなんですよ(笑)。

ATSUO メタルのフェスに出たら「あれ?俺らサイケじゃない?」て(笑)。で、サイケなフェスにいくと「わー俺らめちゃメタルだった!」(笑)。

TAKESHI ハードコアのフェスとかにも出てるんですけど、もうどこいってもアウェーなんですよ。だからおおまかにメタルっていう枠に囲われたほうが楽というか。

ATSUO だけどメインストリームのガチなメタルフェスからは誘われないんですよ。

ーでも去年はスペインのプリマベーラ・サウンドにでてたじゃないですか?ヨーロッパでもトップクラスのフェスですよね?

ATSUO そうですね。

ーそれは凄いことだと思うんですけど、そこにエントリーするぐらいの認知度は上がってきてますよね?

ATSUO プリマベーラ・サウンドは2008年にも出ていますね。あとはデンマークのロスキルド・フェスも2007年と2018年にやってます。

TAKESHI その二つのヨーロッパのフェスは出演者のジャンルが幅広いので。

Photo by Emily Inoue

ーディーパーズもATSUOさんのいうメタル・カテゴリーに入りますか?

ATSUO 入りますね。

NARASAKI 俺はシューゲーザーっていわれるとシューゲーザーじゃなくてメタルだよ、っていっちゃうんですけど(笑)、最近はオルタナっていうようにしてます。

ATSUO でもいまはオルタナも部分的にメタルに含まれてるんですよ。

NARASAKI え!

ATSUO メタルの意味が変わってきてるんですよ。

NAGASAWA アリス・イン・チェインズなんかもメタルって言われてる。

TAKESHI あれはメタルでしょう。

NAGASAWA いままではオルタナだったよね。

ーメタルの中のオルタナということですね。

NARASAKI そうなんだー。

TAKESHI メタルはずるいんですよ。

NARASAKI ずるいー(笑)。

ATSUO ナッキーさんがCOTDをシューゲイザーだと言わないというのは僕もすごくよくわかって。海外のバンドも自分たちでシューゲイザーだと言うバンドはいないですね。日本はむしろシューゲイザーと言いたがりますよね。

ーサウンドが官能的だったり耽美的で流麗と伝えたいんでしょうね。

ATSUO シューゲイザーという言葉は海外ではある意味すごいリスキーなんですよ。シューゲイザーという言葉は音楽のジャンルの説明というよりはやってる人間の属性の説明とか揶揄になっているところがあって、あんまりいい意味では使われてないです。

NARASAKI 実際に下を向いてるってことでしょ、最初は馬鹿にしたというか蔑称だよね。

TAKESHI 今で言うところの”陰キャ”みたいな意味合いも、ですね。

NARASAKI ライドあたりからはじまったのかな、でも彼らは下向いてないけど。

ATSUO 僕らが2022年の夏に一緒に北米ツアーをまわったNOTHINGというバンドもシューゲイザーと言われることが多いですけどリアルストリート上がり、かなり骨太で豪快なサウンドなんですよ。

TAKESHI 彼らは元々の出自がハードコアという側面もあって。

ATSUO しかも彼らステージでは靴(Shoe)はいてないんですよ、ノーゲイザー(笑)。

NARASAKI なんか俺たちをシューゲイザーだって言われると、なんでゴールドトップのレスポールがふたりもいてシューゲイザーなんだって!思うよね(笑)。基本的にはジャズマスターかジャガーでしょ。

TAKESHI なんでしょうね?やっぱりマイブラからですかね不文律のようになっているのは?

NARASAKI マイブラでしょう。あとダイナソーもそうだし。あの時代ですかね?

ATSUO レスポールは共通項ですね、僕ら。

NARASAKI そうだね。

ATSUO 日本のバンドってテレキャスとかジャズマスターを使いますね。

ーいま若いバンドも多いですよ、むしろレスポールを見ない。

NARASAKI レスポール離れしてるみたいだよ。

TAKESHI 重い、とにかく重い。けっきょくストラトが弾きやすいのかな。

NAGASAWA って言われたくないから、照れ隠しにジャズマスター使うんじゃない(笑)。

ATSUO Borisはジャズマスター使えないですもん。

ー音が細いですか?

ATSUO いやジャンルとしての見られ方で。

ー持ちたくないんですね(笑)。

TAKESHI 俺は持ちたいんですよ、音も好きだし。

ATSUO でもそれはダメ(笑)。

TAKESHI だからBC RICHのWar Beastが与えられ(笑)。

ーバンドのパブリック・イメージとしてBorisがジャズマスターはちょっと違いますね。

TAKESHI でも俺はBC RICHも大好きだから問題ないんですけど(笑)。

ATSUO アーミングが大事なのはわかるけど。

NARASAKI アームの感じはジャズマスターがいちばんマイブラっぽくできるよね

ATSUO ナッキーさんと話をするようになって、ナッキーさんがシューゲイザーという言葉に適切な距離をおいてるのは当時からわかりました。

NARASAKI 俺音楽聴かされて、これはシューゲイザーですか違いますかって聞かれたらすぐ答えられる。それぐらいシューゲイザーは1から100までわかってますから。だからディーパーズはシューゲイザーじゃないんです。

ー自分の中でも明確にちがうんですね。

NARASAKI 日本にもシューゲイザーを名乗るインディー・ポップのバンドが多いじゃないですか、あれ全部シューゲイザーじゃないですから(笑)。

ATSUO 本物と、のあの1秒で「違う」ってわかる感じはなんなんですかね?

NARASAKI サウンドはそれっぽくて歌だけAikoみたいなのでしょ(笑)、下北沢に多い(笑)。

TAKESHI あー確かに昔から多い感じしますね。

NARASAKI ギターだけシューゲイザーを好きな人が入ってるパターン。

ATSUO 僕はマイブラの流れを見てるとクランプスから延々と続いてきた音楽だと思ってるんです。ガレージからはじまったものですよね。

TAKESHI リバーブとトレモロアームまみれの”だる~いロック”だよね。

ATSUO そういう深度を思うとそれからの展開を見てると、国内で無闇にどうしてもいま安易にシューゲイザーと名乗るだと主張するということのリスクを感じますね。ロックの歴史を軽んじてる。

ー日本人にはその感覚が音楽ファンも含めあまりないでしょうね。表面的に判断していて、裏側にあるある種のダークサイドを理解するのは難しいでしょうから。

NARASAKI そうなんですよ、綺麗なサウンドの土台がすべてドラッグだということ日本人は知らない(笑)。このペットボトルのキャップがシューゲイザーだとしたらボトルはすべてドラッグカルチャーなんで(笑)。

ー本質はそこじゃないですか?そこまで耳を澄ませて聴くということが日本人には難しいですね。

NARASAKI テーマがやばい方向に流れてますが(笑)。

ATSUO 音楽好きの芸人が音楽とドラッグは関係ないって言ってたけど...全然関係あるわ!

一同 笑

ーその芸人もなんでそんなことが言えるのか不思議ですよね、日本の社会のねじれのようなものがでているというか。この問題には常にあたりますね。

NARASAKI まあドラッグの話は置いといて(笑)、ライブの意気込みとかですか?(笑)。

ー2月にライブについてお願いします。

NARASAKI やっぱこのメンバーで話していると脱線しますね(笑)。

ATSUO それがいいんですけど(笑)。

NARASAKI 練習してきます(笑)。

ATSUO こないだツアーよりもディープなセトリにしようと思ってます。

ー前回よりも内容がアップデートされるんですね。

NAGASAWA 本気出しちゃうか(笑)。さっきTAKESHIくんが話してたんだけど、Borisはフィーバーがホームグラウンドみたいなもんだから本気でいくよって言われて(笑)。

TAKESHI 話だいぶ盛ってるな(笑)。

NARASAKI 緊張しちゃうな、ヘヴィーさでは勝てないからベースはミュートで(笑)。軽さで勝負!

ATSUO TSUYOSHIくん、DISGUNDERの時もベースの音圧が凄すぎて消える魔球みたいで全然聴こえない。すっげえ弾いてるけどフレーズが全然聴こえない(笑)。音圧は壁のようなのに(笑)。

NARASAKI グラインドのベースあるあるだよね。ブーンっていってるだけみたいな(笑)。

ATSUO フィーバーいい箱ですよ。

NARASAKI でたことないな。

ーそうなの?それは意外。

NARASAKI まあでも勝てないよ、勝ち負けでいえば。

NAGASAWA 勝たない(笑)。俺けっこうみんなに言ってるんだけど、愛されたいとは思わない、おこがましくて。でも嫌われたくない(笑)。

NARASAKI そういうコンセプトでお願いします(笑)。

NAGASAWA がんばって目立たないようにしないと。

TAKESHI いやいや、目立ってほしい(笑)。

NARASAKI うちは人数いるから数で勝負(笑)。

ATSUO そういえばメンバーの人数増えてますよね?海外ツアーいったら大変かも、ホテル代とかが大変。

ーいまどういう編成ですか?

NARASAKI ステージに7人いる。

ーそんなに!

NARASAKI バンドとキーボードとマニピュレーター。

ATSUO 飛行機代もめちゃかかりますよ。

NARASAKI お金貯めないと。

NAGASAWA どうやって削るかだな、NARASAKIがギターボーカルになればギターが一人でいいじゃん(笑)。

NARASAKI バイトでもなんでもするわ(笑)。

ATSUO もし海外いくとしたら今の編成ですか?

NARASAKI そうだね、バイトかー(笑)。

ー実現してほしいですね。

NARASAKI マドモアゼール。

TAKESHI フランスですか?

NARASAKI 俺、ヨーロッパ中のI LOVE YOUを全部覚えていく(笑)。

ATSUO めっちゃやる気(笑)。

TAKESHI 俺はヨーロッパ各国の「乾杯」を覚えましたよ。

ATSUO 「テレビセックス」はどこだっけ?

TAKESHI あれはエストニアだったけかな、東欧の。

ーBorisはオーストラリアが発表されてますけど、ほかもありますか?

ATSUO いまブッキングしてます。

ー国内は今年もそれほどないかもしれないですか?

ATSUO そうですね、3月19, 20日のメルヴィンズの来日公演に出演します。

ーディーパーズはどうですか?

NARASAKI いくつかイベントはありそうです、ワンマン的なのはこれから考えるかな。

ーリリースはそれぞれどうですか?

ATSUO ずっと録音はしてます。

ーBorisはいつもそうですね、常に作っている。

TAKESHI ついこないだも1作仕上げました。

ATSUO データを渡していつでるかまったくわからなかったりするので。今年もアルバムを作りたいですね。

ーディーパーズの方はどうですか?

NARASAKI 今年はなにか出したいですね。最近は作ったらすぐ1曲づつ自分の通販サイトにアップしたりしてます。

ATSUO Bandcampも始めたんですよね?

NARASAKI 全然告知してないのに、もう500円儲かりましたから(笑)。告知してなくてもドイツの人が買ってくれた、うれしいですね。

TAKESHI どんどんやりましょうよ、そしたら海外ツアーのためにバイトする必要なくなりますよ(笑)。

NARASAKI そうだ!

TAKESHI 海外ツアー行きましょう(笑)。

Photo by Emily Inoue

"hello there" Tour 2023 Shibuya Club Quattro 29th Nov 2023 
Live Report by 恒遠聖文

この記事を読み始めたような方々にむけて、のっけからこんなことを書くのはそれこそ釈迦に説法で、多くの方がとっくのとうに知ってることかと思うが、もはや「メタル」はヘビーメタルの略称ではなくなったそうだ。むしろ、ヘビーメタルは「メタル」の中に呑み込まれ、あくまでそのサブジャンルのひとつのポジションに居残っているのである。私のようにパンク/ハードコアの文脈、そしてその進化途中のシーンの潮流でBorisと出くわした者としては新鮮なお話だ。
さて、この日の渋谷はそんな「メタル」の内側と外側、その"歴史"と"今"と"これから"を轟音とともに体感、目の当たりにすることができた夜であった。そしてその轟音は今も我が身を震わせ続けている。

2023年11月29日、Coaltar of the Deepers(以下COTD) & Boris のスプリットアルバム「hello there」発売記念ツアーの最終公演 at 渋谷 club QUATTRO。ゲストに明日の叙景も出演。
この三者、実に絶妙な顔合わせで、二者(どの組み合わせでも可)の間にもう一者を入れるだけで、より音楽的な親和性、関係性が明確となり、現代のエクストリームミュージックの見取り図の解像度が上がり、その未来予想図も鮮明で立体的になっていくのだ。

まずはスペシャルゲストの明日の叙景でショーは開幕。Borisとともにヨーロッパツアーを行ったこともある彼らは、日本を代表する、いや、今の時代を代表するポストブラックメタルバンドとして闇を切り裂きながら前へ進み続けている。彼らはブラックメタルとJ-POPを融合させといて、まったく「ダサくならない」という奇跡を起こした恐るべきバンドだ。洋楽に影響を受けたつもりが良くも悪くも単なるJ-POPにしかなってないようなバンドがほとんどの中で、J-POPをこのような形で意図的に取り込み見事にアップデートさせ、異形かつ先鋭に彩る手腕は脅威としか言いようがない。もちろん彼らの音楽性はそれだけではない。隅々までこだわった音たちの集合体の轟きに心と身体は揺さぶられ、その雄叫びと投げかけられた言葉の礫に我らは串刺しにされていく。また、Voの布の(あくまで良い意味で)芝居がかったパフォーマンスも素晴らしい。この新たなダーク・プリンスの登場に世界のロック愛好家は歓喜し、今後の彼らの動向に期待せずにはいられないのだ。

続いて、Borisが登場。2023年もとどまるところを知らない実験と創造性で世界を驚かし続け、その手加減知らずの様々な仕掛けで幾度ともなく我々を試しにかかった彼らだが、年内最後のショーはドラムをMuchioに任せ、Atsuoがマイクを握りフロントに立つ4人編成で行われた。
冒頭から2021年にリリースされたアルバム「No」収録の"先祖返りしつつも進化したハードコアパンク"ともいえる「Anti-gone」を叩きつけ、オーディエンスの血流も加速する。
3組ともエクストリームなラウドロックながらも、他の2バンドにはないBorisの武器は"ジャパコア"かと思うのだが、彼らの胎内を巡った後に繰り出せれるその旋律、そのビート、そのスピードから感じるのは、白煙に包まれつつも彼らに流れる血をまじまじと見せつけてられてるかのような情景であり、そこから狂気と狂喜が入り乱れた覚醒状態が産み出されていく。もちろんBorisの真骨頂であるドローンでドゥームな面もキッチリ轟かせつつも、その血統を鮮やかに魅せてくれる説得力は誰にも真似できない。
また「キキノウエ -Kiki no Ue-」では明日の叙景の布がスマートに実にクールに登場。Atsuoとの絶叫の交わし合いが同志へのエールのようにも見え、「美しい」という言葉しか見当たらない素晴らしき名シーンを見せてくれた。
更に、この度リリースされたCOTD x BorisのSplitアルバム「hello there」でもよりハードな形でセルフカバーされてる「Luna」や「Quicksilver」、そしてCOTDのカバー「Serial Tear」もプレイされたのだが、この時点ではまだアルバムはリリースされていないので、この重鋼かつ鋭利なヴァージョンを体感したオーディエンスもさぞかし驚いたことであろう。
常に鋒(きっさき)にいることを恐れず、轟音鳴り響く地にも安住しないのがBorisという名の聖域。しかしながらその城壁からの侵入はたやすく、門戸は常に開かれている。彼らは何人でも迎えいれては包み込む柔軟さと、何度でもまた突き放す残酷さを兼ね備えているので、我々はその地に向かうのをやめられないのである。

最後を飾るのはCOTD。1991年、ギター、ヴォーカルのNARASAKIを中心にBorisとほぼ同時期に結成。ハードコアパンクバンド 「臨終懺悔」から始まったNARASAKIはオルタナティブ、最初期のグランジ、ミクスチャー、シューゲイザー、エレクトロニカ、インダストリアルなどなどを貪るかのように取り込み、そこから独自で新たなる世界を産み出していった。その姿勢はBorisともおおいに共通する。
そう、もう多くの人が忘れているかもしれないが、80年代末から90年代の初頭にパンクは何度目かの死期を迎えたのである。その終焉の景色を見て見ぬふりしてそのまましがみつくか、黙って遠ざかるか、それとも新たに打ち寄せてくる音の波を面白がれるかの局面で、BorisもCOTDも新風を抵抗なく受け入れ貪欲に吸収してきた結果が今ここに結実している。共通するバックボーンと音楽思想を持ちつつも互いに孤高の道を歩んできた両者が、ここにきてガッツリ邂逅する意味は世界のロック史的にみても大きい。
BorisのTakeshiも明日の叙景の等力もNARASAKIからの影響を公言しているし、どちらも白熱したライブを行ったが、プロレスに例えると両バンドのシュートな仕掛けを微笑みながら飄々と受け流すかのようなCOTDのステージング。轟音で破壊的ながらもあくまでドリーミーなサウンド、その靄の中で繊細に輝くエンジェル・ヴォイス、それらが紡ぎ出す空気が会場をみるみる覆い込んで、どこか違う場所に連れ去ってくれる。これがCOTDの大いなる魅力であろう。
もちろん今回のSplit作より先行配信となったBorisのカバー「Melody」などもプレイされ、浮遊感と急降下気分を同時に体験させてくれた。そして、ラストは全バンドのメンバーが入り乱れ「KILLING ANOTHER」をセッション。敬意と戦意が乱反射しあう、類をみないような音世界が構築と破壊を繰り返し続け、なにかとんでもないものを見せられてるかのようなフィナーレとなった。

ここで冒頭のメタル話にもどるが、以前はシューゲイザーやアンビエントとブラックメタルが融合するなんて考えてもみなかったし、ましてやそこにJ-POPやアニソンまでが"ネタ"ではなく入り込む余地があるなんて思ってもみなかった。もっといえばパンクとメタルが肩を組むことだって難しいことだったはずだ。ところがどうだ。エクストリーム・ミュージックはここまで変幻自在に更新されたのである。かといって、これはただただ"なんでもあり"の世界ではない。そこには愛憎と創造、守りと挑みの積み重ねがある。機材やそのシステムを持ってれば誰にでもできるようなものとは違う、昨日今日ではない轟音・爆音には彼らのこだわりぬいた美学と流した血が染み込んでいるのだ。

このように新たな道を切り拓き続け、種を蒔くことをやめないBorisとCOTD。そのコラボレーションアルバム発売後の2月15日に“hello there” tour -premium-と銘打たれた追加公演が新代田FEVERで開催されることとなった。更にDJとしてこれまた先鋭中の先鋭で異端中の異端、掟ポルシェ(ロマンポルシェ。/ドロドロシテル)も出演。これは単なるおかわりでは終わらない気配がしてならない。見逃してはならないのだ。

彼らの呼びかけに応える時がまたやってくる。
hello there

Photo by Emily Inoue

国内ツアー追加公演 “hello there” tour -premium-
2024年2月15日(木)at 新代田FEVER
Coaltar of the Deepers
Boris
DJ:掟ポルシェ
Open 18:30 / Start 19:30
Ticket ¥6,900 +1d
ZAIKO (English is Available)
https://borisheavyrocks.zaiko.io
※チケットの購入には、Zaikoアカウントの登録(無料)が必要となります
主催: U-desper Records & Fangsanalsata


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