INA インタビュー

先日レビューで紹介した『牛乳配達DIARY』の作者INAくんのメール・インタビューをお届けします。

レビューにも書いた通り、MILKの音楽を知っている人にとってこの作品はとても納得できるものだろう。どちらも必要以上の作為を極力さけつつ、自分のアイデアをいかに純粋に表現できるかという点がとても丁寧にあつかわれている。それはMILKの活動全般からも伺えるところで、音楽や漫画とのちょっとした距離感がとても意識されているのが受け手にも伝わってくる。そうであるためには作品のアイデアなりテーマがしっかりしていなければならないし、作者やバンドとしての在り方に明確な自覚が必要だし、日々の生活とのバランスを考えなければ成立しないことでもある。彼らが拠点とする名古屋周辺のパンク、インディー・カルチャーにはなぜか昔からそういったタイプのアーティストが多い、本来ならば会って話を聞きたかったのだけれど、このコロナの状況下で残念ながら断念せざるをえなかった、次のタイミングでは実現したいと思う。

これは僕が常々思っていることなのだが、漫画は日本人の生活に驚くほど密接に溶け込んでいる。しかももうそれが当たり前のことであり、特に意識することなくである。だからこそ表現の幅も広く、日々新しい感覚の表現が生まれている。『牛乳配達DIARY』も日常を描いた漫画ではあるけど、読み進むうちに作者の生活や人生、いまの社会への視線がかすかに伝わってくる。そこに言葉にならないある感覚が確実にある、まぁそれは僕の漫画の読み過ぎによる深読みかもしれないけれど。

インタビュー・構成:与田太郎

ーまずINAくんの漫画遍歴をなるべく詳しく教えてもらえますか?漫画を最初に意識した瞬間、最初に買った単行本、小学生、中学生、高校生時代それぞれにフェイバリットなどあればお願いします。

1番最初に読んだ漫画はコロコロコミックだと思います。「宇宙人田中太郎」を目当てに買って貰ってました。その次に読んだのは友達のお父さんに教えてもらった「ONEPIECE」で小3くらいでした。まだ5巻くらいしか出てませんでしたが奇跡のような面白さでした。それが最初に買った単行本です、今でも買ってますがとてもツラいです。中学と高校でもジャンプとかを読んでました。BOOKOFFで松本大洋を読んだりしましたがその時は良さが分からずスルーしてしまいました。

ー中学高校時代のジャンプってどんな作品が連載されていた時期ですか?同時に他の少年誌であるサンデーやマガジンなどは読まなかったですか?

連載されてたのは「ハンターハンター」とか「ナルト」とかです。「ONE PIECE」を夢中になって読んでました。ジャンプ以外読んでないと思ってましたが、よくよく思い出すとマガジンを一時期読んでました。近所に同級生のお婆ちゃんがやってる小さい揚げ物屋があって、そこが月に1回マガジンをまとめて捨てるんですけど、それを拾ってきて「スクールランブル」「レイヴ」「涼風」とかを読んでました。ちょっとエロい漫画は読んでる所を友達にバレると人生が終わると思っていたので、家でゆっくり読めるのはありがたかったです。

ーワンピース以外に買った単行本もあまりないですか?たとえば手塚治虫や藤子不二雄を読んでみたりはしませんでした?

単行本は結構買いました。今でも待ってるのは「るろうに剣心」「バガボンド」「ドラゴンボール」などです。手塚治虫は小学校の図書室にありましたが、女性の裸が写るページを覚えていたり、最低な読み方しかしていませんでした。火の鳥やまんが道を読んだのは24歳くらいだと思います。

ー定期的に購読していた漫画雑誌もあまりない感じですか?

定期的には無いです。雑誌を買ったのは「我らコンタクティ」の1話をたまたま読んで感動して買ったのと、ECDがMILKを紹介してくれたスペリオールを買ったくらいです。

ー最初にこれが自分の漫画だと思った作品、作家を教えてもらえますか?たとえば普通にJPOPを聴いていた中学生や高校生がクラッシュやGREEN DAY、Going Steadyやハイスタ聴いてパンクやロックに目覚める瞬間があるじゃないですか、それの漫画版のようなものがあれば。

26歳くらいの時に大橋裕之「遠浅の部屋」や福満しげゆき「僕の小規模な失敗」を読んで視野が広がりました。自分でも漫画を描いていいんだな、と思いました。

ーどちらも作者の日常の視点から描かれてますね。自分でも漫画を描いていいんだ、と思った時のことをもう少し掘り下げておしえてもらえますか?上記2作のどんなところにインスパイアされたのでしょうか?

1番は絵柄やコマ割りが商業誌のものとは違っていた事です。「ちゃんとしてなくても漫画を描いていいんだ」というのがわかった事が大きかったです。あと、どちらも漫画家を目指す自伝漫画になっていて漫画を描きたくなる感じがあります。

ー最近注目している漫画や作家を教えてもらえますか?

最近だと光用千春さんの作品集が凄かったです。ほっともっとで弁当が出来上がるのを待ちながら読んでたんですが、椅子からズリ落ちそうになりました。松本大洋さんの「東京ヒゴロ」も面白いんですがビッグコミック系は発売日が覚えられないので今どこまで進んでるのかわかりません、、、

ー同じように、音楽歴も教えてもらえますか?

中学生の時に兄が部屋に残していったGOING STEADYのBOYS&GIRLSを好きになって何度も聴いてました。高校ではOperation IvyとかYOUR SONG IS GOODとかが好きになりました。勿論RANCIDも死ぬほど聴いてました。ハードコア・パンクを聴くようになったのはMILKを始めてからだと思います。

ーライブハウスに行き始めたのはいつ頃ですか?MILKと同世代よく一緒にライブをやっていたバンドなど教えてもらえますか?

初めて見たライブは高校3の時でガガガSPです。新しいアルバムのレコ発で来ていたのですが、「もう曲順なんか知らんぞ!やりたい曲やる!」と言って有名な曲ばかりやってくれて最高でした。Killerpassは割と年が近く、対バン回数もかなり多いです。かっこいいです。直近だと3月にvortexでKillerpassを見ましたが感動して泣きました。

ー自分で絵を描こうと思ったのはいつ頃ですか?

大学生の時にMILKのデモCDのジャケットが必要で描きましたが、元々絵を描くのは好きでした。絵を習った事はないですが、ルフィとか悟空は真似して描いてました。コロコロっぽいオリジナル4コマ漫画を書いて母に見せたこともありますが「意味がわからない」と言われて捨てました。中学の時もゴイステの“Friends (endless summer)”を聴いて感情が高まり過ぎて絵にしたりしてました。

ーその絵はいまでも持ってますか?

その絵はもう無いです。(あっても無い事にしてたと思います)

ーMILKのジャケットなどのイラストをやりはじめたきっかけを教えてもらえますか?

でぶコーネリアスの千秋さんが自分のバンドのジャケを自分で描く、という事をしていてそれに憧れて始めたと思います。

ーINAくんのイラストからは場面というか、ちょっとしたストーリーや背景が感じられます。イラストを描くときに心がけていることなどありますか?

自分の絵に自信がないのでなるべく「意味」をつけるようにしてます。なんでも良いので意味をつけると自信を持って描くことができます。例えばキリキリヴィラの新年会のフライヤーは吉里吉里人の一場面のつもりで描きました。(読んだ事はありません)

ー『牛乳配達 DIARY』は枠にとらわれていないというか、気持ち優先なところが新鮮でよかったです。最初に「DELIVERY MANGA」として自主出版しようと思った理由を教えてもらえますか?

自主出版は大変な事が分かっていたのでしないつもりでした。だけど牛乳配達時代に書き溜めたメモが結構残っていて、忘れないように思い出に残したくて頑張りました。それとZINEを読んでくれた方から感想を頂くことがあり、それも大きなモチベーションになりました。よく作者のあとがきに「読者の応援が力になってます!」みたいなのが書いてあって「嘘くさいな」と思っていたのですが、本当でした。

ートーチ漫画賞に応募した理由を教えてもらえますか?

1つは単純にトーチwebが好きだったからです。 もう1つは、賞を取れば妻から漫画を描く許可が下りると思ったからです。賞を取る前は「何で漫画描いてるの?大丈夫?」という感じだったのですが、最近は漫画を描く時間をくれるようになりました。感謝しております。

ー『牛乳配達 DIARY』が発売されて反響はどうですか?

母がかなり喜んでいて親戚に配ったりしてました。お手製のブックカバーも付けてました。

ー今の連載『つつがない生活』は漫画を描くという明確な目的があると思います、『牛乳配達 DIARY』と違うのはどんなところでしょうか?

基本的には面白い事や思い出を漫画にしてるだけなので同じです。ただ「つつがない生活」では家の中の話ばかりになるので、絵やコマ割りを工夫できたらなと思ってます。

ー東京にいる僕らからすると名古屋の音楽シーンは独特の感じがします、地に足がついているというか、生活とひと続きになっているというか。MILKもまさにそういうスタンスを感じるし、インディー感に気負いがない。そのあたりはどう感じてますか?

気負いは本当に無いですね。働きながら空いた時間で集まって楽しい。という感じだと思います。「みんなに自分の音楽を聴いて欲しい」という気持ちではなくて「楽しいからやりたい」という事だと思います。名古屋の事はわかりませんが自分はそういう感じです。

ー今後の予定や目標などあれば教えてもらえますか?

辛くならない程度に楽しく描き続けれたら良いなと思います。

ーありがとうございました。

最新情報:トーチWEBにて『つつがない生活』連載中

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