Strip Joint『Give Me Liberty』自分たちの手で自由(Liberty)を手にすること
KKV Neighborhood #143 Disc Review - 2022.07.28
Strip Joint『Give Me Liberty』review by 木津毅
Strip Jointのデビュー・アルバム『Give Me Liberty』を聴いていて感じるのは、これがどこから生まれた音楽なのか、だ。何しろここでは、パンク以降に様々な形で発展してきた広義のインディ・ロック・サウンドが地域も時代も超えて気持ち良さそうに動き回っている。英国ポストパンクからの影響が強いのかと思えば、土臭くてブルージーなアメリカ西部~南部の香りもあり、一方でポスト・ロックを通過した感性も存在し、管楽器を含めた伸びやかなアンサンブルは21世紀のUSインディ・ロックのあり方を思わせる。歌詞も英語だ。彼らが大阪出身のD.Kを中心とし、東京を拠点に活動する6人組ロック・バンドだという「情報」を知らずに、イギリスから現れたイキのいい新人バンドと言われれば信じてしまいそうだ。グローバルなカルチャーを、場所も時間も超えて享受することができる世代だからこそ生み出せた音楽であることは間違いない。
けれども同時に、英語の響きの奥側によく耳を澄ませば、これはたしかに現代の日本から生まれたものだという感慨も湧き上がってくる。R.E.M.やザ・スミスといったリリカルな言葉を持ったバンドに影響を受けたという歌詞は、抽象性のなかに「いま、ここ」で生きていることの焦燥や閉塞を滲ませるからだ。D.Kの声と歌唱はどうしたって切なさを孕み、どこか孤独なフィーリングを立ち上げていく。
それをたしかな安定感で支えるのがバンド・アンサンブルに他ならない。そう、これは「ひとり」では生まれえない音楽だ。清廉なギターがやがて高らかに鳴らされるブラスを呼びこむ“Leisurely”から、土埃が舞うような枯れた哀愁を漂わせる“Hike”、性急なリズムのなかで尖ったギターと柔らかい管の音のコントラストで聴かせる“Yellow Wallpaper”、スローなテンポで鮮やかに情景を変化させてゆく“Liquid”、すべてをひっくり返すように賑やかで煌びやかなパーティ・チューン“Suddenly I Love You”まで……多彩な楽曲のなかで、多人数のメンバーによる演奏がそれぞれの役割を変えながら呼応し合う。感情は生まれたときこそ孤独なものだったとしても、それを分かち合えば新しい喜びが生まれる。その快感をまさに「いま、ここ」に生み出すのがStrip Jointだ。
インディ・ロックはジャンルである以上にアティチュードでもある。自分たちの手で自由(Liberty)を手にすること。アルバムは最後まで勢いを落とすことなく、「Life goes on」という言葉を残して終わる。いくら頭の固い連中が「未来は暗い」と言ったところで、彼らのライフと音楽はこれからも鮮やかに続いていくのだから。
収録曲
1.Leisurely
2.Lust for Life
3.Hike
4.Yellow Wallpaper
5.Night Kings
6.Against the Flow
7.I Used To
8.Oxygen
9.Liquid
10.Consolation
11.Suddenly I Loved You
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