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The Notwist『Ship』分からないけど分かりたい、という気持ち

KKV Neighborhood #54 Disc Review - 2020.12.08
The Notwist『Ship』(Morr Music、mm175)
review by 松島広人AIZ

ドイツ・ミュンヘンを拠点に1989年から活動を続けるポストロック~インディー・エレクトロ・バンド、The Notwistが6年ぶりとなる新作をリリースした。レーベルはmúmなどをリリースしてきたドイツ・ベルリンのMorr Music。バンドの30年以上に渡るキャリアを更新する3曲入のEPとなる。アートワークは日本の写真家、志賀理江子によるもの。

表題曲“Ship”はテニスコーツからさやをゲストに迎えた、コールド・ウェーブやクラウトロック、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ(ジャーマン・ニューウェーブ)の要素を内包するサイケ・チューン。ひねくれたギター・リフとシンセサイザーが主体ではあるものの、ダブの影響を色濃く感じさせるドラムにより、単なるニューウェーブ/ポストパンクの文脈に乗らない仕上がりとなった。さらには、さやが唄う朴訥とした日本語詞が乗り、楽曲の持つ国境を滲んだ線にしてしまう。きわめて個性的なサウンド・デザインでありながら、どこか親しみやすさも持った異形のポップスだ。

続く“Loose End”では、エモーショナルなギターと浮遊感あるヴォーカルが何とも言えない物哀しさを演出する。Notwist流のアシッド・フォーク、スロウコアとも言えるナンバーで、やはりテニスコーツや渚にて、羅針盤といった日本の歌ものの影響も感じさせる。最後に収録された“Avalanche”ではケルト的な笛やパーカッションの音色をメインとしつつも電子音で全体を緻密に構築し、Lo-Fiビートを独自解釈したようなインスト・ナンバーとなっている。

音楽におけるドイツと日本の接近は今に始まったことではなく、60年代のクラウトロックや70~80年代のノイエ・ドイチェ・ヴェレ(ジャーマン・ニューウェーブ)の時代において、既にある程度の友好関係を見出すことができる。例えば、CANには日本人ヒッピーのダモ鈴木が所属していたし、クラフトワークやPyrolatorは日本語詞を大体的にフィーチャーした楽曲すら発表している。

さらに言えば、DAFを始めとするジャーマン・サウンドは名機、KORG MS-20に代表される日本製のシンセサイザーをサウンドの主軸に据えていた。ドイツのポップスには、私たちがかねてから触れてきた電子楽器が「近未来的でエキゾチックな要素」として欠かせなかったのかもしれない。

話を“Ship”に戻す。難解さと親しみ易さが同居した奇妙なキャッチーさが癖になるが、何と言ってもさやによる「達者でいろよ」「元気でいてね」というフレーズの反復が同曲を印象付けているだろう。ドラッギーでありながら理性的、哀しみも嬉しさもない。恐ろしくも可愛げがあるサウンド。日本で言えば「たま」、ドイツで言えばDer Planにも共通するだろう。一聴しても楽曲のこと、バンドのことを理解するのは困難なものの、それでも「分かりたい」と思わせる妖しげな魅力に満ちている。

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