Bruce Springsteen / American Skin (41 ShotS)

KKV Neighborhood #13 JUST LISTENING

Black Lives Matterについて

5月25日にミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドが警察官に殺害されてからわずか1週間、直後にはじまった警察への抗議行動は瞬く間に全米に広がった。一部では過激な抗議行動も起こり、そこに油を注ぐようなトランプ大統領の対応が追い打ちとなってり、単に人種差別に対する抗議行動を超えた事態になろうとしている。
この報道を見た時にまず最初に思い浮かんだのがこの曲だった。

この曲は、1999年2月に、ニューヨークで丸腰の黒人男性アマドゥ・ディアロが4人の警官に合計41発もの銃弾を撃たれ死亡した事件について歌われた曲だ。彼が自分のジャケットから財布を取り出した瞬間に4名の警官から発砲された。もちろん彼は犯罪の容疑者ではなかった。発砲した警官はこの殺人についての裁判では全員無罪となっている。スプリングスティーンは事件を歌ったこの曲を2000年のEストリート・バンドとの再結成ツアーで初演し、ツアー・ファイナルとなるマジソンスクエア・ガーデン10デイズまで演奏し続ける。2001年はレコーディングされたヴァージョンがラジオ用のプロモ・シングルとして全米のラジオ局曲に配布された。

彼はこの曲で淡々と目に映ったる光景を描写する。誰かを裁くのではなく、告発するのでもなく、現実を描写している。曲の中で母親が学校へ行く息子に向かって「道で警官に止められたら、かならず礼儀正しくしなさい、けっして逃げたりしてはいけない、それがこの街のルールなの、約束して」と歌い、最後には「おまえは生きているだけで殺されることもある」とうめくようにこのフレーズをリフレインする。

20年も前の曲なのにまるでいまさっき作られたようになまなましい。アメリカでは毎年のように警官による黒人に対する殺人が起きている。2014年にはミズーリ州でマイケル・ブラウンが白人警官に射殺されたことをきっかけに全米で大きな抗議行動が起こり、これがBlack Lives Matterという言葉が広がる最初のきっかけだった。この時は報復として白人警官が2名射殺されてもいる。この時の大統領はオバマ、初の黒人大統領だったにもかかわらず大きな分断をまとめることができなかった。ましてトランプが大統領のいま、トランプは秋の大統領選挙を踏まえてこの事件ですら分断の促進とイメージ作りに利用しようとするだろう。いま抗議行動は人種差別を超え大統領にも向かいつつある、秋に実を結ぶことを祈りたい。

アメリカはもう長い間人種差別と戦ってきた。数々の悲劇と社会的イシューとなった事件、それに対する音楽や映画が数え切れないぐらい作られてきた。まだ悲痛な事件は後を絶たないが、今回の抗議行動や呼びかけが広く深く響くことを祈りたい。20年前とは違い、いまはSNSや海外の記事から信頼できる現地の声を拾うことができる。それに注視しながら、僕らが立つ場所のことも忘れないようにしたい。日本でも多くの差別があるし、差別を煽る人も多い。100年以上も声を上げてきたアメリカですらまだ道半ばなのだ、日本でも声を上げなければいやな未来しか見えないことになりかねない。日本では銃で撃たれることはないだろうが、かわりに非常に巧妙で陰湿な差別や欺瞞が行われている、政府や大企業が行うことすらあるのだ。声を上げあげよう。

ブルース・スプリングスティーンの“American Skin (41 Shots)”は、2014年に発売されたアルバム『High Hopes』でレイジ・アゲインスト・マシーンのトム・モレノをギターにむかえ再レコーディングされている。アメリカの音楽はこういう形で大事なものを下の世代に渡してゆく。トムはスプリングティーンのツアーにも参加した。今年は大統領選に対する反トランプのキャンペーンとしてレイジが復活する予定だった。残念ながらコロナの影響で中止となっているが、きっとなにかしらのアクションがあるだろう。

与田太郎

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