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90年代のイノセンスを取り戻す

KKV Neighborhood #63 JUST LISTENING - 2021.01.30
by 与田太郎

昨日公開されたYoutubeの人気プログラムNPR MUSIC Tiny Desk Home Concertsでマイリー・サイラスがマジー・スターの"Fade Into You"カバーしている、しかも公開から24時間で100万再生を越えようとしている。

マイリー・サイラスがマジー・スター?いったいなにがあったのか、どういう狙いがこの選曲にあるんだろう。マイリー・サイラスといえばこの10年アメリカのポップ・シーンのトップを走り続けている、音楽としてもメディアでのイメージもケイティー・ペリーとならんで強力な添加物とハイプで作られたイメージ、つまりマジー・スターから一番遠い存在のはずだ。

2010年代の10年間にYoutubeと各種サブスク・サービスが拡大して音楽の戦場は完全にネットに移行、音楽の聴き方が変わったことでポップ・ミュージック自体も大きく変わってきた。そういう時代のスターとしてトップを走ってきた彼女が90年代USオルタナティブの、中でもかなりディープなバンドの曲を取り上げることには驚いた。

彼女がカバーした"Fade Into You"は1994年リリースのマジー・スターの2ndに収録されている。同年リリースされたジーザス・アンド・メリー・チェインのシングル"Sometimes Always"でボーカルのホープ・サンドバルがゲスト参加、この曲でマジー・スターを知った人も多いと思う。いまあらためて当時を振り返るとそのままの佇まいのインディー・バンドが数多くチャートに登場していたことに驚く。ニルヴァーナのブレイクからはじまるグランジ、ウィーザーやフレミング・リップスのようなパワー・ポップ、グリーン・デイやランシドのようなパンク、フガジ、ソニック・ユースからヨ・ラ・テンゴまでのアンダーグラウンド出身のバンドからインディー・ロックまであげればキリがないほど音楽は百花繚乱だった。当時はそれがあたりまえだと思っていたけど、いまほど仕掛けも仕組みもなく音楽だけで広く伝わる、ある意味健全な時代だった。

トップ・スターのマイリー・サイラスがなんの狙いもなく、ただ好きな曲だからという理由だけではこの曲をえらばないだろう。そこにはどんな意図があるのだろうか。トランプ政権が終わり、バイデンが大統領に就任したことでアメリカ社会の雰囲気も変わろうとしている、その現れなのかもしれない。この動画をみた数百万人の10代、20代の若者たちがマジー・スターを検索し、そこからまたいろんな音楽を発見してほしい。

こうなると次はケイティー・ペリーにギャラクシー500を歌ってもらいたい。

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