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「て」と言ったら加速してしまうアスノヨゾラ哨戒班


というネタ動画があります。一度観てくれれば早いでしょう。(実際"速い"です)

「て」の部分を強調した歌詞がこちらです。(引用:初音ミクwiki

気分次第です僕は 敵(き)を選んで戦う少年
叶えたい未来も無く 夢に描かれるのを待っ
そのくせ未来が怖く 明日を嫌っ過去に願っ
もう如何どうしようも無くなっ叫ぶんだ
明日よ明日よもう来ないでよっ

そんな僕を置い 月は沈み陽は昇る
けどその夜は違ったんだ 君は僕の手()を

空へ舞う 世界の彼方 闇を照()らす魁星 
「君と僕もさ、また明日へ向かっいこう」
夢で終わっしまうのならば 昨日を変えさせ
なん言わないから また明日も君とこうやっ 笑わせ

あれから世界は変わったっ 本気で思ったっ
期待したっ変えようとしたっ 未来は残酷で
それでもいつだっ君と見いた 世界は本当に綺麗だった
忘れないさ 思い出せるように仕舞っるの

 君がいもいなくも翔べるなん妄想
独りじゃ歩くことさえ僕はしないまま藍色の風に吐いた幻想
壊しくれっ願っ踠いたっ

 願ったんなら叶えしまえやっ
Eh... 君は言っ

また明日の夜に 逢いに行こうと思うが
どうかな君はいないかな
それでもいつまでも僕ら一つだから
またね Sky Arrow 笑っよう
未来を少しでも君といたいから叫ぼう
今日の日をいつか思い出せ 未来の僕ら


わたしはこの動画を初めて観たとき、「めっちゃ速くなっててワロタww」と笑うよりもまず、「この曲、こんなに"て"が溢れていたのか…」と衝撃を受けました。

何百回と聴いていたはずなのに、というよりむしろ聞き慣れ過ぎたゆえに、この動画のような素朴な視点でこの曲を眺めることが出来なかったのです。


文法的には、この曲の「て」は大きく2つに分けることが出来ます。

A:文節末の「て」
「〜して」「〜って」「なんて」など、文節末に来る「て」です。
例)叶えたい未来もなく 夢に描かれるのを待っ

B:その他の「て」
名詞や動詞の活用語尾以外に含まれる「て」です。
例)きを選んで戦う少年 / 闇をらす魁星 / 君が僕の

以上の分け方に従うと、『アスノヨゾラ哨戒班』に含まれる合計36個の「て」のうち、パターンAが33個Bが3個となります。パターンBは上の例に挙げた3つで全てです。つまり、ほとんど文節末の「て」が占めているのです。

文節末に多く「て」が現れるということは、その度にリズムが整えられるということです。「壊しくれっ願っ踠いたっ」という部分は特にこの「て」による整調効果が顕著でしょう。

この曲がヒットした理由に「て」で生み出されるリズム感もあるってことかぁ

動画に書き込まれたこのコメントを見て、「なるほど!」と思いました。
実際この曲の大ヒットにこの要素がどれだけ影響しているかは分かりませんが、自分の中では驚くほど腑に落ちました。

前からこの曲には"言語化しにくい魅力"があると思っていました。

「歌詞の世界観が良い」という次元のことではありません。もっと単純に「聞いていて耳に馴染む」とか、「音に対しての言葉の乗っかり具合がハンパじゃない」というものです。

こうした非常に曖昧な魅力が、""というひらがな一文字でグッと明瞭になった気がしました。


この記事では『アスノヨゾラ哨戒班』だけを取り上げましたが、「"て"が多い」という特徴は、Orangestarのほかの楽曲にもある程度当てはまるのではないかと思っています。

この主張を正当化するには、Orangestar楽曲について検証するだけでなく、他のボカロ曲や一般の商業音楽との比較も試みなければなりません。


また、仮にこの主張が妥当だったとして、このような特徴が生まれる理由について更に深く掘り下げて考えることもできます。

Orangestarは意図的に「て」を散りばめることで整調効果を狙っているのか、それとも何か別の要因から結果的にそうなってしまうのか。

後者だとすれば、その一端を担う考察をわたしはこのvocanoteで語っています。

このnoteでは、例えば

夢で終わってしまうのならば 昨日を変えさせてなんて言わないから また明日も君とこうやって 笑わせて

のような、「〜〜なん(ない)」という、今言ったことをすぐに相対的・批判的に捉える構造が多く見られる原因として、

ただ筆者は、このように自分が「これだ」と正しいと思って訴えた言葉を、すぐに自分自身で客観視・否定していく行為は、思春期の若者が普遍的に持つアイデンティティ(自我)の確立の問題に関係しているのではないか、と考える。

と書いています。

この文章を書いたのは1年以上前のことであり、自分でもこの考えが妥当であるとは素直に認められませんが、今でも「"て"が多い問題」を部分的に解決する糸口のひとつとしては悪くないと思っています。


ここまで、「『て』と言ったら加速してしまうアスノヨゾラ哨戒班」という1つのネタ動画からやや強引に考察を広げてきました。

今回このような記事を書いたのは、Orangestar専攻として何か小難しい理論を声高に唱えるためではありません。

自分のささやかな出会いから、ふとしたキッカケから聞き慣れていた曲の新たな一面を発見することが出来るのだと、皆さんに伝えたかった。それだけです。


最後に、本日8月19日の午後8時37分をもって『アスノヨゾラ哨戒班』がニコニコ動画投稿4周年を迎えたこと、そして今は海の向こうにいるOrangestarさんが明日8月20日に誕生日を迎えることを祝って、筆を置きたいと思います。



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