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『マルコと銀河竜』 プレイ感想


以前↑の記事を書いた『マルコと銀河竜』がおととい2/28に発売され、さっきクリアしたので感想をまとめておきます。(ネタバレにはそこそこ配慮しています)



買ったのはGALAXY EDITION(高いほう)です。こちらには設定資料集や絵コンテ集などが付いていますがまだ読んでいません。

「楽しみでしょうがない」記事で書いたとおり、わたしは本作でアルコを演じている声優の吉田有里さんのファンです。購入したのも「推し声優の演技が聞けるから」という理由が大きいです。(あと公式実況プレイが面白かったのも一因)

その点から感想を述べると、吉田有里ファンとして本作を買ってよかったと本当に思います。ちびドラゴン形態と人間形態という2つの姿(※)を持つアルコを、吉田さんはそれぞれ超ハイトーンボイス(地声)とお姉さんボイス(人間社会を生き抜くために努力して身につけた)で見事に演じ分けていました。
(※巨大ドラゴン形態を含めれば3つの姿)

体験版などの前半は主にちびドラゴン形態が多く、もっと人間形態のアルコの演技を聞きたいなぁと思っていましたが、後半、とくに終盤は見せ場だらけでした。吉田さんのこうした「普通の」演技というのは、わたしが知る限りでは2018年の劇場アニメ『フリクリ オルタナ』でのペッツ役でしか聞いたことがありません。(他にもあったら教えて下さい)

したがって、もし『マルコと銀河竜』をプレイして吉田有里さんの(ハイトーンでない)演技に魅了されて「もっと聞きたい!」と思った人はぜひ『フリクリ オルタナ』をよろしくお願いします。かなり良い役を貰えているので。


2つの異なる声で見事に演じ分けた、と書きましたが、アルコの演技でわたしがいちばんグッと来たのは「普通の声のなかに地声が見え隠れしている」ような演技でした。これはわたしが感じた限り本編中でたった一度だけで、「……」のような、明確な文字のない台詞でした。具体的にどこの台詞だったのか思い出せなくて申し訳ないのですが、聞いたときになぜだかめちゃくちゃ胸にきたのを覚えています。個人的な本作のベストシーン(?)です。

本人がどの程度「混じり合い」を意識したのかはわかりませんし、もしかしたらこのように解釈されるのはむしろ「演技ミス」なのかもしれませんが、それでも人間形態でありながらドラゴン形態の声色が一瞬顔をのぞかせたようなあの演技は、アルコの感情の高ぶりを見事に表現していたとわたしは感じました。台詞の「内容」ではなく「演技」に泣かされるというのは初めての体験でした。


(※あと、アルコの過去と中の人の過去などを重ね合わせるとさらにドエモいなぁ……と頭の片隅で考えながら終盤はプレイしていたのですが、こうした消費の仕方はいろいろな意味であまりよろしくないので注意が必要ですね。)



ではここからは、推し声優補正をなるべく取り除いた作品自体の感想に移ります。

まず、既にプレイし終わった人からさんざん言われている「ボリュームの少なさ」「ストーリーの短さ、物足りなさ」について。

これは正直、わたしはまったく感じませんでした。プレイ前から「ゆっくりやっても9〜10時間くらいで終わる」と知っていた(インタビュー記事にて)ので、むしろ「まだ終わらないのか?そろそろ終わるか?さすがにもう終わるだろ。……終わったー」という感じでした。実際、わたしのプレイ時間は9時間くらいでした。

しかし、自分はプレイした皆さんの多くと違う点があります。それは、そもそもノベルゲームをほとんどやったことがないという点です。ちゃんとプレイしたのは、1ヶ月くらい前にやったSummer Pocketsが初めてなので、実質これが2本目です。

だから「ボリュームが少ない」と感じる人はおそらく、これまでにやってきたノベルゲームの膨大な経験・記憶から「この値段ならこのくらいの長さは欲しい」という前提があって、それと比べているのでしょう。比べることが悪いとまでは言いませんが、この『マルコと銀河竜』は一般的なギャルゲー形式のノベルゲームとは一線も二線も画しているので、単純にボリューム比べだけして酷評するのはちょっとお門違いというか、可哀想なのでは?と思います。

『マルコと銀河竜』はなにしろ立ち絵より多いくらいの圧倒的なCG数(1000枚超)と、それに複数のカートゥーンアニメーションパートがあります。したがって、既に言われているようにプレイ感はノベルゲームというよりも劇場アニメであり、「読む」のではなく「観る」のであるから、そもそも一般的なギャルゲーとはジャンルが違いすぎます。(一般的なギャルゲーをほぼやったことのないわたしが言うのもアレですが……)フルプライスのノベルゲームとしてはちょっとボリューム不足で高めかもしれませんが、劇場アニメの円盤を買ったと思えば全然安いし満足できるのではないでしょうか。

わたしはボリュームに関しては全く文句ありません。従来のノベルゲームではあり得ないような挑戦をいくつも重ねて新しくかつ質の高いものを作っているのだから、従来のノベルゲームよりもボリューム当たりの単価が高くなって当然ではないかと思います。

インタビューにもあるように、本作は「ノベルゲームをやったことのない人」をターゲットに制作されている面も大きいので、普段からギャルゲーを嗜む歴戦の猛者たちが、ギャルゲーの土俵で本作を評するのはあまり適切ではない気がします。(もちろん、従来のノベルゲームの価値観をそのまま援用できる面もたくさんあると思いますが)


では、ボリューム以外の感想を。

ストーリーはまさに『マルコと銀河竜』というタイトル通り、特に終盤はマルコとアルコの関係性にかなり絞って収束していったな、という感想です。そのシナリオ自体はわりとありふれたお涙頂戴モノと言ってしまえばそれまでですが、ちょっとだけ泣きました(わたしは死ぬほど涙もろいので「泣きました」は大した褒め言葉ではない)。百合オタク、関係性のオタク及びクソデカ感情好き各位なら高確率で刺さると思います。

むしろメイン2人に絞るのであれば、他のサブキャラクターたちはそんなに要らなくない?と少し思いました。これが従来のノベルゲームの規範──「攻略キャラ」として美少女をある程度の人数出しておくべき──に引っ張られた結果だとしたら少し勿体ない(店舗別特典用に頭数が必要という理由もあるのか、世知辛い)。いっそ「やっぱり個別ルートがほしかった」的な感想を抱く余地を完全に無くすほど「もっと」1本道でも全然良かったのでは?とさえ思います。せっかくノベルゲームの常識を塗り替える意欲作を打ち出しているのですから。

いや、テラとかハクア(と愉快な怪人たち)とか非常にいいキャラはいたので「まったく要らない」とまでは思いませんが、彼女たち全員を上手く使えていたか?テキトーに処理していないか?……と、ちょっとモヤる部分はあります。特にガルグイユ。しれっとメイン4人に名を連ねているけれど、果たしてストーリー上で本当に必要だったか、本作において彼女は十分に魅力を発揮できていたか、という問いには……素直には肯けません。まぁ声優が田中睦心さんなので許しちゃうところはある。(金森氏〜〜〜!)

(あと単純に最後まで残った疑問として「スーパーのおばさん」と恩田姉妹はなぜ絡まないの?そこの関係性はどうなってる?これは自分がちゃんと読めていないだけ?正直、この姉妹がいることで「親子」という物語の軸がブレている気もする)


シナリオ全体としては、基本的にドタバタギャグというか、どういうノリなのかまったく意味不明なシーンもかなり多くて戸惑いました。シリアスとコメディのバランスや移行が「これでいいんか?」と思うこと頻り。

これはシナリオのはと氏の作家性らしいので全面的に否定することは出来ません。しかし個人的には「not for me」と言ったところでしょうか。つまらなかったわけではありませんし、むしろそこそこ楽しめましたが、例えばこれで前作『ノラとと』もプレイしてみよう!とまでは思いませんでした。(わたしはそもそもギャグ調じたいあまり好みではありません。人それぞれ趣味趣向があるので仕方ないですね)


そして本作の目玉である「膨大なCG」について。体験版だけで使い切って、それ以降は大してそんなでもないんじゃないかと少し心配もしていましたが、杞憂でした。というか「え、そこで何枚も使う?切り替える必要ある?」と贅沢さに戸惑いさえしました。
ただし、かと思えば逆に「ここのやりとりこそCGの使いどころだろうに……」と思うシーンもあり、CGと立ち絵の割り振り基準が理解できない面もありました。


もう一つの目玉であるアニメーションについて。PCのスペックの諸事情で実はまだちゃんと観れていないのが残念ですが、体験版にあったカートゥーン調アクションの他にも幾つか趣向を変えたアニメーションもあって「攻めてんな〜」と楽しくなりました。どんどん挑戦を続けていってほしいです。ただ、游子さんやイセザキ姉妹など、カートゥーン調のキャラデザが作られているのにアニメ本編にはほとんど登場しないキャラがいるのは勿体ないし残念に思います。(もしかしたら自分の見落としもあるかもしれません)


音楽について。それぞれの曲じたいにまったく文句はありませんが、ところどころ「ここでその曲使う?シーンと合っていないのでは……」と思う場面が多々ありました。これもひょっとしたらはと氏特有のノリの一部なのでしょうか。ますます分からない……

OP曲「飢餓と宝玉」は100点満点中1億点です。全人類聞きましょう。


あと忘れていた、アルコ以外の声優の演技(一部)について。

主人公マルコの声は井澤詩織さん、素晴らしいですね。特徴的な声ではあるんだけど、そのままで普通のキャラクターに馴染むこともできるって凄いと思います。吉田さんとのラジオ、めちゃくちゃ楽しみです。

テラ・イセザキを演じた内山夕実さん、幅広い役柄に定評がありますが、今回は「声質自体は」わりとナチュラルな感じで、ただしキャラがキャラだけに乗りに乗っていた印象です。シリアスになるとゆゆゆの風先輩を思い出す演技でした。

パンダグラフ役の種﨑敦美さんは相変わらず死ぬほど上手いですね。あまり「上手いかどうか」という観点で聞かれることのない狂人キャラであっても台詞の端々から圧倒的な演技力の高さを感じました。このパンダグラフでさえ途中ツッコミにまわったのにはマジかよ……と驚愕しました。

あとはハクア役の石見舞菜香さん。『さよ朝』のマキアで知った方ですが、声質が良いのでクール・ダウナー系も全然いけますね。ハクアはもっと色々な面を見てみたくなるキャラクターでした。



クリア直後の大まかな感想としてはだいたいこんなところでしょうか。

わりと否定的なことも書きましたが、はじめに言ったとおりわたしは吉田有里さん目当てで買ったのでまったく後悔していませんし、それを差し引いてもかなり楽しめました。

何より「ノベルゲーってこういうものでしょ」という固定観念を突き崩し、海外進出も含めて新たな層を獲得するためにさまざまな挑戦が詰め込まれていること──しかもその挑戦を「やりたいこと」として制作陣が楽しみながら作ったのが伝わってくること──それだけで本作は素晴らしいゲームだと心から思います。

アニメ展開にも期待してしまいます。

とりあえず今はこんな感じで。

未プレイの人は体験版をやるか、公式実況プレイ動画を観てはいかがでしょうか。


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