見出し画像

チープでモブな道を行く - 『ローリング☆ガールズ』感想

※ネタバレ注意


2015年春アニメ『ローリング☆ガールズ』全12話を観た。

まずは観ている途中の感想ツイートを章ごとに貼る。


1-2話(所沢編)

面白い!何が起こるか分からなくてワクワクする!変に気の抜けた感じが凄く良い。ピンチョンみたい

3-4話(東京編)

おもろい!作画はまぁ良いとは言えないが水彩調の背景美術がすごく良かった。
静岡編まさかの全カットにクソワロタ

金髪の子がキーになりそうだけど、今のところキャラが青髪の子と少しカブり気味に思える。今後の展開で4人のキャラが立つことに期待

あとピンチョンがこよなく愛したというトム・ロビンズの『カウガール・ブルース』に雰囲気似てる気がした。読まずに積んでるけど

『カウガール・ブルース』の書評をいくつか貼っておく。

映画化もされているらしい↑


5-6話(愛知・三重編)

めっちゃ良い!勢いで持っていく感じがまさにアニメ
2話毎に気持ちよくまとめてくれるのも見やすい
TRAIN-TRAINを上手く使ったアニメを見たのは『荒ぶる季節の乙女どもよ』以来だ

7-8話(京都編)

マージで面白い!
主人公4人が活躍してなさそうでしているかと思いきや特に何も役に立ってないのが最高

団長組織が3つも出てきた上に匠やちーちゃんを追うモミアゲ太っちょの人やモミハンのメンツ、舞妓さんの母親など地味に2話でまとめるにしては人物が多いし相関図がややこしい。
それを最後のライブ兼迎撃で無理やり引っくるめて綺麗に落とすのが良い。綺麗じゃないかもしれない無理やり感がいい


ノリと勢いとアツさで無理やり持っていく感じは(自分の苦手な)TRIGGER作品とも似ているのに、なぜロリガはこんなにも好きになれるのだろう
うーん…ロリガはアツさというより根底にオフザケ感、ノリの軽さがあるけど、トリガーはあくまで真面目に熱血をやっているからかな。教訓性の有無というか

※トリガー作品に言及していますが、プロメアを観てグレンラガンとキルラキルの1話で挫折したほどのにわかなので全然的を射ていないとは思います。

9-12話(広島・岡山編)

最高のアニメだった。最終話は途中からずっと泣いてた
チープさが、シリアスや感動へのフリとかそれらを覆い隠すためのヴェールではなく、あくまでチープさを積み上げていった先にある感動を描いているところが好きだ。感動とチープが共存しているからこそ余計に感動できるというか。


(ほとんど「マジで面白い!」しか言ってねぇ……)

いくつか補足として詳しく書く。


ゆきっぺ(とちーちゃん)のキャラ立ちについて

スクリーンショット 2021-02-28 18.56.25

←ゆきっぺとちーちゃん→(OPより)

4話を観終えた時点で「金髪の子がキーになりそうだけど、今のところキャラが青髪の子と少しカブり気味に思える」と書いていた。たしかに2人とも、こういう美少女アニメにありがちな、おどおどマイペース不思議ちゃん天使系キャラ(雑なくくり)であるように思える。
この時は特に、ゆきっぺの影が薄く、明らかにちーちゃんにキャラが「食われて」いることを危惧していた。ゆきっぺももちろん可愛いが、ちーちゃんが最も「可愛い」存在として造形され位置づけられていることは明白だからだ。(自分の好みの話ではなく、作品のなかでの扱われ方の話)

スクリーンショット 2021-02-27 23.28.17

3話より

しかし、最後まで観るとゆきっぺはまさにキャラ立ちをしないことに意味があるキャラだったんだなと感じた。

いや……方向音痴属性や画伯属性(本人監修によるミサワ絵!)など、むしろめちゃくちゃキャラ立ってるじゃん!ってのはその通りなんだけど、3人からもはぐれたことを気づかれてなかったりとか、それから極めつけは最後の「出会いのきっかけ」のしょうもなさだ。

本作の「モブであること」「目立たず運命的な役割を負わされなくともなんやかんやで転がりながら生きていること」というテーマを、主人公のノンスケとはまた違う面からしっかりと体現してくれていた。劇的な運命を負うものと負わないものとして、ちーちゃんとゆきっぺは好対照を成していた。最終話終盤で彼女の来歴があっさりと描写された時点で、自分にとってはいちばんお気に入りのキャラになった。ささやかな親切心とガメつさから始まる旅なんて実に素敵ではないか。

※こうして彼女の魅力を作品読解に紐づけてしまうことで、逆説的に彼女の「しょうもなさ」が台無しになってしまうという矛盾はある。
…というか本作はテーマの考察や批評が殊に無粋なタイプのアニメだろう。「あ〜面白かった!」で終わって、あとの人生には特に教訓も影響も与えない、そんなピンチョン作品のような軽さが最大の魅力だからだ。
ピンチョンは真面目に読めば政治性とか戦争システムとか現代文明がどうこうとか無限にブンガク的な批評のやりがいはあるのだろうが、いちピンチョン愛読者としての自分は小難しく考えず、彼の作品を読んでいる最中にしか味わえない興奮と退屈さに身を任せるだけで十分だ)

あと、本作に限ったことではないが、改めて「絶望的な方向音痴キャラ」の作劇上の使い勝手の良さを痛感した。ワンピースのゾロとかもそうだけど、主要キャラがうまーく分散して単独行動して、何だかんだで重要なときに重要な場所に意図せず辿り着くパターンはカタルシスを生みやすく鉄板だし、ご都合主義の誹りを「迷子キャラだから」の言い訳のもとに免れやすいのもズルいけど便利。


連想した作品群について

さんざん書いた通り、ピンチョン作品とトム・ロビンズ『カウガール・ブルース』は雰囲気が似ているんじゃないかと強く感じた。バイクで旅するロードムービー的なものの源流はケルアック等のビート文学にあるのかな。あと、噂されている謎の組織が実は実体を持たないパターンが多いのも、パラノイア的な意味で『競売ナンバー49の叫び』辺りのピンチョン作品に似ている。

アニメでは、破茶滅茶な世界観とバイクとギターってことで当然『フリクリ』は連想したが、女子4人がメインの構成はむしろ派生作『フリクリ オルタナ』に近い。『オルタナ』は原作ファンからはとても評判が悪いらしいが、原作を観たことがなかった自分はオルタナの(本家のハイセンスさを再現しようとして出来ていない)チープ感がたまらなく好きで、そんなところも『ローリング☆ガールズ』に似ている気がする。

※『フリクリ プログレ』は未視聴なので分からない

それから、同じ深夜アニメでは『夏色キセキ』に近い何かを感じた。夏色キセキは「私はこういうアニメが好みです」と名刺代わりに挙げるのに最も適しているんじゃないかと思うほど好きな作品だ。ストーリーはまったく似ていないが、こちらもメインは女子4人だし、作画が優れているとは言えないチープさ、低予算感が心をくすぐるところが共通している。(ロリガがすっ飛ばした静岡県の下田市を舞台にしているのは何の因果か)(作画が崩壊気味だけどめちゃくちゃ好きな作品といえば『Just Because!』は外せないが、こっちはそんなに似ているとは思わない)

夏色キセキ、現在dアニでもアマプラでも見放題配信されていない……


その他

スクリーンショット 2021-02-28 0.04.02

4話より

作画が微妙とはいえ、モサ同士のアクションシーン(1話のラーメン対決は最高だった)は素晴らしいし、旅先の背景美術が水彩調で統一されておりとても綺麗だったので大満足。キャラの作画よりも美術を気にするオタクなので向いていたとも言える。

ブルーハーツをよく知らないけれど、OPもEDも劇中歌もとても良かった。8話EDの「STONES」とか超名曲。配信されてるらしい。

あとこれが花守ゆみりさんの初主要キャラ作なんですね。ちーちゃん超はまり役だった。
それから、これが『進撃の巨人』1-3期の制作会社WIT STUDIOの初オリジナルアニメというのも驚き。(監督の出合小都美さんは情報が少ない)


以上。

モブ/モサという二項対立はキャラクター論・フィクション論に展開できそうな気もするけど、前述の通りここでは難しく考えずに面白かった!で終わりたい。
本当に面白かった。オールタイムベスト級のお気に入りアニメがまた1つ増えてとても嬉しい。本作を教えてくれた元フォロワーさん、ありがとう!
明らかに人を選ぶとはいえ、2話ごとにキレイにまとまっているので案外みやすいし、全12話と一気観にも向いているのでオススメです。本作のような「アニメ史には特に残らないがごく一部の視聴者の記憶には残る」アニメをもっと観たいと思いました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?