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審判だって人間だもの(“誤審”の冷静な楽しみ方)

※全文無料で読めますが、Game Pass代に充てますので気が向いたら投げ銭おねしゃす!

さあシーズンも始まりましたね。みなさんのチームは順調に勝ち星を重ねていますか、それとも来年のドラフトに思いを馳せている頃でしょうか?
さて、W5はMNF含めしっかり盛り上がりましたが同時に、試合内容以上に判定について多く呟かれていたのではないでしょうか。あくまでNFLは選手やコーチが主役、しかし審判がいなければ試合は始められません。そんな普段日の目に見ない、なんなら罵詈雑言を浴びせられる彼らについて今日騒がれている判定を皮切りに、行動経済学の観点も交えて審判の心情をちょっと考えてみようと思います。

QBにタックルするのはもう時代遅れ?

今回最も話題になったプレーはこちら。
1つ目はDerek CarrにChris Jonesが決めたサック、2つ目はTom BradyにGrady Jarrettが決めたサック。どちらもお見事!と言いたいところですが結果はなんとRoughing the Passerの判定となりサックは取り消しに。どちらのファンも、いや見ていた方全員が頭を抱えたのではないでしょうか。

「とんでもない誤審だ!」「これで反則ならどうやってQBをサックするんだ!」そんな声が多くみられたと思います。しかし今回の判定は
1つ目: Carrに体重をかけたまま倒れてしまっている(精一杯腕で庇っているようにも見えますが)
2つ目: 相手がTom Bradyだから 体重はかけないものの必要以上にQBを地面に叩きつけている
ということで、それぞれルールブックに則った判定となっています。なのでこちらは誤審ではなくリーグとしても定めた判断というわけです。
(以下のリンク、Rule 12, Section 2, Article 11を参照)

私としては1つ目はフラッグが妥当に感じましたが、正直に言って2つ目は審判の匙加減なのでなんとも言えないなと思えました。
しかし昨今のリーグ事情を考えるとQB依存が年々増しているこのリーグにおいて彼らを守ることは最優先、致し方のない措置とも言えます。
私としては今回の騒動から「RtPの判定はそのまま、しかしQBがDLに絡まれた時点で審判は積極的に早めに笛を吹くようにする」という調整が落としどころなのではと思います。(早めに笛を吹くことでQBにスクランブルを諦めさせ粘り得にならないようにすることで結果的にDLもソフトに出来るのではという思いです。)

審判は試合結果に関与したくない

さて、ここからは今週の試合から離れて、審判の心情について深堀してみようと思います。そもそもアメリカのプロスポーツは世界最高峰のスポーツリーグ、そこに所属する審判も当然優秀で完璧な判断を下してくれる、なんて期待してしまうこともあります。ですが審判も人の子、日々の試合では悩みながら判定をだし、そして時には悩みながら判定をださない、ということもあるのです。
まずはこのプレー、言わずと知れた"The helmet catch"を見てみましょう。

こちらは第42回SB残り1:15、4点差を追うNYGの3rdダウンのプレー、当然パスを試みますがNE DLのプレッシャーがすぐにQBへ届き肩を捕まれ万事休すかと思われました。がしかし、なんとかもがきDLの手を離れることに成功したQBはまさかのロングパスを成功させます。
土壇場で飛び出たビッグプレーには間違いありませんが同時に「本来であればQBが身動きを取れなくなった時点でサックの判定をすべきだった。審判自身も笛をくわえて吹こうとしていたじゃないか。」という声もあがりました(正に前の段落の最後に書いたポイントですね)。審判本人も「あと0.5秒捕まったままだったなら笛を吹いていた。結果的あんなプレーになったから吹かなくてよかったよHAHAHA。」と後に語っています。(HAHAHAは勝手な想像)
当然どちらの判断をするのも難しい場面ではありましたが、なぜ審判は笛を吹かなかったのか?そこには"不作為バイアス"が働いていたのでは、と行動経済学の学者は語っています。不作為バイアスとは「人間は『何かをしなかった』結果よりも『何かをした』ことによる結果のほうが罪悪感を感じる」というものです。つまり審判に当てはめると「試合結果に関わる判定をだしたくない、そういった重要な場面では選手に試合の行方を委ねる」傾向が強いのです。
(そこまで話題にはなりませんでしたが)今回のラストプレー、LVの最後のパスでもそのような場面がありました。試合当初はWR同士の衝突が注目されていましたが中には「CarrへのヒットはRtPじゃないのか」という疑問を投げかける方もいました。しかしこの場面も止めればKC勝利、更新すればLV勝利(に近づく)、いわば勝負所であり、審判がフラッグを投げにくくなる場面でもありました。

(こちらの段落の話はこちらの本を参考にしています。他にもMLBのストライクゾーンから「審判にも不作為バイアスが働いている」ことを定量的に示した事例も載っています。※アソシエイトではありませんのでご安心を。)

クリーンにやって負けるくらいなら反則しろ?

上記の通りNFLの審判ですら不作為バイアスは働き、試合結果に関わることを避ける傾向があります。そしてそれが勝負の決まる重要な場面では尚更です。
余談ですがNFLにおいて私は「QBサックされるくらいならOLはホールディングしてでもDLを止めたほうがいいし、決定的場面でパスを通されるくらいならDBはWRを掴んででも止めたほうがいい。反則しないことよりもプレー成立の方が得することがある。」と考えています。
もちろん時と場合にもよる結果論、それこそ選手にも不作為バイアスが働きうるのでそれが出来るとも限りません。そしてなにより学生スポーツなどは別、クリーンにプレーすることが長期的には本人のためになるとも思いますが。

諸々飲み込んだ上で楽しみましょう

今回のように不利益を被ったファンはたまったもんではありません。しかし人間が判定を出す以上、どうしてもこういう場面は起こります。それをずっと引きずって「あの判定は誤審だ!審判をクビにしろ!」など考えてしまうよりも「ルールに則った上で、それを上手く利用できる側になれ」や「そもそも審判任せになるシチュエーションにならないように上手く試合運びしとけ!」と応援チームに檄を飛ばすほうが精神的には健全かもしれません。
最後に一点。いろいろ書きましたが、とはいえこちらの2プレーはどちらもホールディングなのにフラッグがでなかった誤審です、ぜひ覚えていてください!!

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