13.午前2時半の寝床
夢路が通行止めにされた。
うっすらした意識で再び戻ろうとじれったく寝返りを打つが、張った糸のような田舎の静寂に聴覚が醒める。枕と頭に潰された耳から出る奇妙な音から逃れようと、もう一度仰向けになる。それでも耳だけがごうごうとうるさい。誰かが寝返りを打ち床が軋む音やいびきすら無い。
「目覚めた時に何の音が耳に入ってくるか」は贅沢ながらも結構重要な問題だ。
漁港の古びた民宿で聞く早朝の波音には、穏やかながらもちゃんと起こしてくれるような包容力がある。旅館だと高層だったり防音窓だったりするので、民宿の2階からダイレクトに聞く波音の方がいい。
いっぽうで部屋の隣に洗面所やトイレがあって、壁やドアが非常に薄い宿泊所で目覚めると最悪だ。誰かが口をしきりにゆすぐ水音やトイレを流す音で目覚めると、誰かの嘔吐を見た時のように顔をしかめてしまう。波と同じ水音なのに。しかもそういう時に限ってコップ何杯分も口をゆすいだり、洗浄が止まるまでに時間がかかったりする。
このようにさまざまな目覚めの音があるが、音を聞いてまぶたの裏で見る景色は旅の1ショットになる。目を閉じて音楽を聴くと過去の出来事が浮かんでくるのに似ている。目覚めて音には全く気を取られずに夢の記憶を反芻する朝もあるが、音から何かを思い出す朝が多いように思う。アラームなら「起きる」ということを思い出し、隣で寝ている人の寝息であればその人と同じ部屋で寝ていることを思い出すだろう。
寝床で見る景色もローカル百景のひとつとして数えたい。今夜は気温が高く布団も干してホコホコだから、夜中に目覚めてしまいそうやなあ。
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