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霜降り明星と秘密の部屋

先日、『霜降り明星のオールナイトニッポン0(以下、霜降りのANN)』を初めて聴いた。現時点で最新の2020年12月11日分である。
それをやけに気に入ってしまって、今も聴きながらこれを書いている。

ただし、一度聴いたものと同じ回だ。

なぜかと言えば、私はマルチタスクが苦手だからだ。

YouTubeで検索すれば過去の放送分も見つかるのだが、これを書きながら新しい内容を聴いてもほとんど頭に入らない。もしくは、ラジオに集中してしまって手が止まる。
それならば、一度聴いたものを聴き直す方がずっと有意義である。

そんなだから、霜降りのANNを初めて聴いたときは1時間ほど電車に揺られている時だった。これならシングルタスクだから脳みそが処理落ちしない。
考える力がミジンコのポンコツなりに、深い感想や思考ができる。

ここからは、霜降り明星をほとんど知らない人間が霜降りのANNを聴いた感想を述べる。だから、ラジオのヘビーリスナーさんや、熱烈なファンの方が読んでも面白くないかもしれないと保険をかけさせていただきたい。

さて、霜降りのANNを聴き始めてまず違和感があった。

「せいやさんと粗品さん、どっちがボケだっけ?」。

オープニングトークからキレッキレのツッコミをしていたのはせいやさんだった。
リスナーさんからのお便りもそうだ。粗品さんではなくせいやさんがツッコむ。

どうにもモヤモヤが収まらなくて改めて漫才を見てみると、やっぱりボケはせいやさんだった。
私の違和感は間違いではなかったのである。

では、粗品さんはというと、のらりくらいとせいやさんをイジリ、ボケ続けるのだ。
しかも声のトーンやリズムがあまりブレない。音楽に精通しており絶対音感があるというから意識的にそうしているのか、それが流暢さを演出していてやけに心地よかった。

もうひとつ、不思議なことがあった。

粗品さんがCM入りを全く無視してトークを続けるのである。

そんな粗品さんをせいやさんが「あかん、もうCM入る」と遮ってCM入りするのだが、これがそのトーク終了の合図になっているのだ。だから、どんなに中途半端なタイミングでもトークは終わるし、CM明けに続きが語られることはなかった。

たったこれだけのことで、ラジオの中では粗品さんがやりたいことを自由気ままにやって、それをせいやさんが整えるという構図が出来上がっていることに気付いた。

バラエティ番組で見る2人の構図はネタと同じで、右往左往に走り回るせいやさんの手綱を、粗品さんが良い意味で適当に操っている印象があったから、それとは全く違ったそれに衝撃を受けた。

ラジオでは、粗品さんが檻から解き放たれ草原を駆け回る馬になる。しかし、せいやさんはその手綱を握らない。少し離れたところから「それはあかんで」と声をかけるだけだ。

この構図はどうやらプライベートでも当てはまるらしく、印象的なエピソードがラジオに登場した。

ロケ先の旅館でトイレを探すせいやさんに「こっちやで」と粗品さんが案内した先は、『仁義なき戦い』のワンシーンのようなコワモテの男性数人が盃を交わす部屋だった。せいやさんが「おいおい!」とその部屋を出ると、そこに粗品さんはもういない。

このトークを粗品さんはゲラゲラ笑いながら聞いていた。

これが本来の霜降り明星なのだろう。
そう思わせてくれるのがラジオの良い所のひとつだ。
役割に縛られない芸人のポテンシャルが見られる。

一方で、これとは真反対の、ネタでの役割がピタリとはまっていると感じさせるラジオもある。

オードリーのオールナイトニッポン(以下、オードリーのANN)だ。

オードリーのANNはオードリーのネタのイメージとそんなに変わらない。
若林さんが淡々と喋り、春日さんが楽しそうに相槌を打つ。春日さんがトークをする時は、若林さんがそれを整え、足りない部分を辛辣に指摘するのだ。

あくまで私の感覚だが、オードリーのANNは、若林さんの淀みないトークを春日さんがリスナーさんと一緒になって聴いている感覚になる。だから、臨場感や距離の近さを感じるのだ。

霜降りのANNにそれはなく、こちらはまるで秘密の部屋を盗み見ているような、そんな緊張感と特別感がある種の快感を生み出している。
たとえば、恋人の意外な一面を思いがけず発見し、それを恋人に打ち明けることなくひっそり楽しんでいるような感覚だ。

ラジオは映像がないから聴く場面を見つけるのが難しいかもしれない。
しかもオールナイトニッポンはいずれも1時間以上ある長尺番組だ。なおさら取っ付き難い。
でも、もし、こんな拙い感想を読んで興味を持ってくれた方がいたら、オープニングトークだけでも聴いてみていただきたい。

おそらく、私よりも何倍も何十倍も有益な感情や思考を得られるはずだから。

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