『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』感想

今年は例年より頻繁に映画館へ足を運んでいるのですが、そんな中何度も予告編を見せられて気になっていた作品だったので、公開翌日に見てきました。
個人的にはある一点を除き「今年見た映画の中で一番良かった」だけに完全なネタバレありで感想を書こうと思いますので、未見の方はこの先読み進めないようにお願いします。

なお未見でこれから見に行こうと考えている方には以下についてだけ強くお勧めしておきます。また作品はエンドロールの最後まできっちり見ましょう。

・シャロン・テート殺害事件とその首謀者チャールズ・マンソンについて知らなければ調べて知っておく事(以下wikipediaへのリンク)

 ・シャロン・テート

 ・チャールズ・マンソン


【以下ネタバレを含みますので未見の方はご注意ください】

○映画好きが映画好きの為に作った御伽噺
いきなりですがこの映画を一言でまとめてしまうとすると、こんなところでしょうか。監督にとって特に大きな意味をもつ(とインタビュー記事なんかでで語られている)1960年代のハリウッドについて、かなり細部にわたり拘って描かれています。

ですがそういった事細かな部分を拾いあげるのは、余程の映画好きか、でなければリアルタイムで当時の映画を見聞きしていたような世代(60代~)あたりでないと正直厳しいかと思います。

また忠実に当時の映画を再現しているが為に、見ていて冗長に感じる部分があるのも事実です。それらはラストの展開に向けての布石でもあるのですが、上映時間が160分程度と長い事もあり、人によっては眠気を感じる事もあるかと思います。

○フィクションを織り交ぜつつ描かれる60年代ハリウッド
基本的には冒頭に書いた「シャロン・テート殺害事件」を軸に話は進みます。終盤は都度時間の経過が字幕で表示されたりしつつ、現実に起きた凄惨な事件のその時へと近づいていきます。

実在した当時のハリウッドスターが実名で登場するのとは別に、主役であるレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが演じるのは(モデルはいるらしいですが)架空の俳優「リック・ダルトン」とその専属スタントマンである「クリフ・ブース」となっています。

細かな小道具はもちろんの事、当時流行していたものや楽曲が織り交ぜられつつ、またシャロン・テートはこれからどんどん売れていくであろう若手の俳優、対してディカプリオ演じるリック・ダルトンは全盛期を過ぎた落ち目の俳優……そのあたりの対比を交えつつ「シャロン・テートの日常」と「リック・ダルトン/クリフ・ブースの日常」が交互に描かれながらストーリーは進んでいきます。

○ラストの展開に一瞬ポカーンそしてスッキリ
それぞれの日常が描かれつつ、時間はどんどんと「その時」に近づいていきます。ですが、最後の最後、現実世界と大きく違う流れが起きます。

ディカプリオ演じるリック・ダルトンはシャロン・テート邸に住んでいるという設定なのですが、現実ではシャロン・テートの家に押し入ったカルト集団のヒッピー連中3名は、何故か間違ってリック・ダルトン/クリフ・ブース(とこれまでの展開の中で結婚したリックの奥さんと、クリフの愛犬)がいる隣家に侵入してきます。

リックはプールに浮かびながら音楽を聞いてノンビリ、奥さんは時差ぼけで寝室で就寝中、という状況の中、LSD漬けのタバコ(=押し入ってきたヒッピー連中から街中で買ったもの)を吸ってバッドトリップ真っ最中の中、愛犬に餌をやろうとドッグフードの缶詰を開けようとしているクリフと侵入者が対峙する事となります。

バッドトリップ中のクリフは「お前ら現実か?」と言葉を投げかけたりしますが、いくらかのやりとりの後、これまでの展開の中で立ち寄った元映画撮影の為の牧場に居座っていた連中であるという事を思い出します。
身バレした時点で、とうとう侵入者の一人がクリフに銃を突きつけ引き金を引こうとします。
いくら鍛えてるスタントマンでもこれは……というところで、クリフは愛犬に「合図」をし、よく訓練されたピットブルである愛犬は銃を持った侵入者の男にとびかかり制圧。

さらにナイフを持って襲い掛かってきた女1に対しては手にしていたドッグフードの缶詰を全力で顔面に投げつけ、こちらも制圧。が、もう1名の女2にナイフで腰を刺され万事休す……かと思いきやバッドトリップの恩恵か立ち上がる事ができ、全力で反撃。女2の頭を思いっきりガンガン柱に打ち付けて撃退。混乱した女2は侵入経路とは別の出口へと銃を持って逃走。
がそこはヘッドホンで音楽を聞いていた為騒ぎに気付かずのんびりしていたリックのいるプールのある庭で、そのままプールへドボン。

何事かと驚くリックですが女2が銃を乱射し始めた為、慌ててプールから上がり庭にある倉庫へ。そこから再び現れた彼が手にしていたのは、全盛期に出演した作品中で使っていた火炎放射器。練習の為に自宅にも用意していたであろうそれを使って拳銃女は丸コゲに……

とここまで、BGMも含め突然コメディのような展開になります。一瞬ポカーンとなるわけですが、容赦ないコメディ展開と結果シャロン・テートが無事で済んたというところで、観客は監督の意図に気付く事になります。

その後の展開はまた、ここで監督の意図が分かった人間なら泣くところです。

警察の事情聴取やらナイフで刺され負傷したクリフを見送った後、ようやく隣家のシャロン・テートの連れの男性が「何かあったんですか」と玄関ゲート越しにリックに話しかけてきます。
話している最中に男性は自分の目の前にいるのがかつてテレビドラマで大活躍したリック・ダルトンだという事を知り盛り上がります。そんな中、玄関ゲート前のインターホンで、連れが戻ってこないので心配になったシャロン・テートが話しかけてきます。

ここでシャロン・テートとリックのやりとりがあり、リックはシャロン・テート邸にそのまま招待される流れとなります。ゲートが開き、敷地に招き入れられるリック。その後カメラは上空からの俯瞰となり、出迎えたシャロン・テートと抱擁、その後家に招きいれられます。

「これから」の世代と「これまで」の世代が共存する様が描かれ、ひょっとしたらリックはまた(脇役かもしれませんが)これからの世代の映画に出演する機会もあるんじゃないか……といった事を想像させながらエンドロールへ……素晴らしい。

○ブルース・リーの扱いが……
そんなこんなで個人的には「とても良かった」のですが一点だけひっかかったのが、劇中に登場する実在のハリウッドスターの中でブルース・リーの扱いが良くなかったところです。

基本はシャロン・テートのアクション指導をしていたという事実と「あのブルース・リーにも勝っちゃうタフな男」としてブラッド・ピット演じるスタントマンを描く為に絡めたのかとは思いますが、その言動やら何やらは、特にブルース・リーのファンではない自分が見ても「いやちょっとこれは……」と思ってしまうような描かれ方でした。

撮影の合間の休憩中のいざこざで「ブルース・リーに勝ってしまう」程度の内容だけなら御伽噺としてそこまで問題はなかったと思いますが、実際はブルースリーが自ら揉め事を起こすような傲慢不遜なキャラとして描かれていたので流石に……案の定というか、遺族に抗議されたり関係者に苦言を呈されたり、といった事になっているようです。

IGNの記事へのリンクをはっておきます。

 タランティーノ監督、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』における“傲慢”なブルース・リーに対する批判に反論

〇まとめ
同監督の作品中では「これまでで一番冗長」「バイオレンスなシーンが少ない」といったところでコアなファン(と思われる方)の一部からは酷評もあるようですが、自分としてはブルース・リーの扱い以外はとても良かったと思います。

「エンドロールの最後に至るまで60年代」という拘りと、その時代と映画が好きであるが故にタイトル通りの「昔々ハリウッドでは……」に仕上げたあたり「いやあ、良かった」と感じました。

配信かBlu-rayでもう一度見たい映画です。

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