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「汚職事件」と「お食事券」。

ある日、私の耳に飛び込んできた「おしょくじけん」というワード。

その発生源はテレビである。ニュースキャスターさんが深刻そうな感じのトーンで「おしょくじけん」というワ-ドを発していた。

私は最初それを「お食事券」と言ったのだと思った。というかそれ以外に「おしょくじけん」の変換ワードが見つからなかった。脳内で漢字変換するとそれは確実に「お食事券」だったのである。

ちゃんとニュースを見ていたわけではなく、朝食をとりながら流し見しており、前後の文脈をほとんど理解していなかったため、「お食事券」だと勘違いしたのだ。

その後、あまりにも深刻なテンションで「お食事券」と言うもんだから、なんとなく気になりテレビの方に目を向けた。すると、それは実は「お食事券」という生易しい物ではなく、「汚職事件」という何とも殺伐としたものであるということがわかった。

その時、私はふと思った。言葉ってなんか面白い、と。汚職事件がどうのこうのではなく、単純にその言葉の妙に興味を引かれたのである。

大学生にもかかわらず、汚職事件については全く関心を持てず、ただただオヤジギャグ的な要素の方に意識が向かってしまうのは、社会的にはあまり宜しくはないのかもしれない。

それでも、私の衝動は抑えられなかった。この時の私にとっては、それが全てだったのである。


平仮名にすればどちらも「おしょくじけん」、イントネーションも大きな違いはない。なのに、意味合いはまるで違う。政治家の汚職事件、それとも、政治家のお食事券。政治家のお食事券が事件になるとしたら、一体どんな事件であろう。

・・・。

「ニュースをお伝えします。

ここ最近テレビなどにも多数出演し活躍の場を広げ、若者から絶大な支持を得ていた、政治家“沢庵たくあん 漬吉つけきち”によるお食事券の不正利用が発覚しました。

不正利用した金額は、な、な、なんと、500円っ。某有名ファストフード店にてワンコインランチに使用した模様。

これに対して街の声は、

『ハァ!?お食事券の不正利用!?ふざけんじゃねぇよ』
『まさか、あの沢庵漬吉がお食事券を不正利用するなんて…..』
『金額を聞いて驚きましたよ。500円ですよ500円。ったくこの世は世紀末かってんだ』

怒りと呆れの感情がほとばしっていました。街の皆さん、一人残らず怒り心頭の模様です。

これに対して専門家は、

『お食事券の不正利用、これは非常に悪質な行為ですね。うん、実に悪質。ほんまにアカンですわ。いやー、ホントに困っちゃいますよね』

以上、ニュースをお伝えしました」

・・・。

お食事券の不正利用。これは到底許されるものではないだろう。なぜならお食事券を不正利用したからである。それ以上でもそれ以下でもない。お食事券の不正利用など決してあってはならないことだ。

もしかしたら、お食事券の不正利用という行為は、汚職事件よりも更に悪質な行為だと言えるかもしれない。

生物が命を繋ぐために必要不可欠な“食”。これをけがすような行為など、沢庵漬吉の親が許しても、世界は決して許しはしないのだ。

お食事券の不正利用が起こらないことを、切に願うばかりである。

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