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税制適格ストックオプションの税制改正(その1)

令和6年(2024年)税制改正でストックオプション(以下、「SO」といいます)税制が改正されることになりました。具体的には、新株予約権の管理の緩和、権利行使価格の上限額の引き上げ、対象者の拡大です。
この改正の対象はSOのうち、税制適格SOといわれるものです。

今回は、そもそも税制適格SOは何なのかについて説明します。


1.税制非適格ストックオプション

税制適格SOを説明する前に、税制適格SOではない普通のSO(ここでは「税制非適格SO」といいます)について説明しましょう。

SOの対象はその会社の従業員等の個人です。新株予約権を個人が取得した場合、取得時の課税はありません。
制度趣旨は不明ですが、個人取得者の場合は、法人取得者とは異なり、直ぐに行使できるか分からなかったり、譲渡制限が付いていたりといったことが理由だと思います。

税制非適格SOの課税関係を示したものが図表1です。

ここでは、SOの行使価格を100円、行使時の株価を150円、売却時の株価を200円としています。
税制非適格SOの場合、権利行使時に50円(権利行使時株価―行使価格=150円―100円)の給与所得等が発生し、売却時には50円(売却時株価―株式の取得価額=200円―150円)の譲渡所得が発生します。

【図表1:税制非適格ストックオプションの所得金額】

税制非適格SOは、権利行使時に時価と権利行使価格との差額が所得(給与所得、退職所得)として課税されます。
売却時には行使時の時価と売却時の時価の差額が株式の売却損益(譲渡所得)として申告分離課税されます。

税制非適格SOについて、所得税基本通達に従った課税時期と所得区分を示したのが図表2です。

【図表2:税制非適格SOの課税時期と所得区分】

税制非適格SOは権利行使時に課税が発生するので、株式の売却収入がないにも関わらず、税金の支払が発生します(税金を前払いしないといけない)。
これは、SOを付与された人にとって相当な資金負担です。

2.税制非適格SOの所得税


実際にどれくらいの資金負担が発生するかを計算してみましょう。

<設例>


A氏はX1年にB社からストックオプション(税制非適格SO)の付与を受け、X5年に株価が急上昇したことから、行使価格1,000万円でB社株を取得し、その時点の時価は1億円でした。
他の収入がないものとして、A氏の所得税の額を計算しなさい。



<解答>

このSOが税制非適格で、所得が給与所得であったとして、所得税額を計算します。

まず、含み益は9,000万円(1億円-1,000万円)なので、A氏の給与は9,000万円です。

課税所得金額=給与の額-給与所得控除額
=9,000万円-195万円=8,805万円

給与所得税額=課税所得金額×所得税率-控除額
=8,805万円×45%-4,796,000円=34,826,500円

※税率と控除額は、2023年度分の所得税額表から計算。その他の控除額(基礎控除、配偶者控除など)は無視しています。

税制非適格SOの場合は3,482万円の所得税が発生します。この所得税はB社株式を売却していなくても支払わなければなりません。

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このような資金負担を避けるために、税制適格SOが誕生しました。

次回は税制適格SOを説明します。

<続きはこちら>

なお、ストックオプションについてもっと詳しく知りたい人はこちらを参考にしてください。


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