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消えた絵画の謎~ミステリー小説~

いつもご覧いただきありがとうございます。

今回は短編ミステリー小説をお届けします。

ではどうぞ♪

美術館の静寂な廊下を歩く音が響く中、名探偵・白石蒼一は新しい依頼を受けていた。
京都にあるこの小さな美術館は、世界的に有名な絵画「夕映えの風景」を展示していたが、その絵画が昨夜忽然と消えてしまったというのだ。

館長の田中氏は不安そうな表情で白石に事情を説明した。

「昨夜、閉館後に防犯アラームが鳴りました。しかし、警備員が駆けつけたときには異常は見つからず、絵画も無事でした。でも今朝、開館準備をしていた職員がその絵画が消えているのを発見したんです。」

白石は頷きながら、まずは現場を確認することにした。

絵画が展示されていた展示室は厳重に管理されており、ドアも窓も完全にロックされていた。

防犯カメラの映像もチェックしたが、何の異常も見当たらなかった。
まるで絵画が煙のように消えたかのようだった。

「内部犯行の可能性も考えられますね」
と白石は考え込む。
まずは館の職員たちに話を聞くことにした。

職員の中には新しく雇われたばかりの若い女性、鈴木真由美がいた。
彼女は非常に緊張している様子で、何度も「私は何も知らないんです」と繰り返していた。

他の職員たちもそれぞれにアリバイを主張したが、白石はどこか引っかかるものを感じていた。特に、警備員の吉田の話には微妙な矛盾があった。

吉田は、夜中にアラームが鳴ったときに異常がなかったと言ったが、実際にはその時間帯に館内を巡回していたことが記録されていなかったのだ。

「吉田さん、昨夜のアラームが鳴ったとき、あなたはどこにいましたか?」
と白石が問い詰めると、吉田は一瞬ためらったが、すぐに言い直した。
「ええと、トイレに行っていたんです。だから記録に残っていないんですよ。」

しかし、この説明にも矛盾があった。

美術館のトイレには防犯カメラが設置されている。
映像を確認すると、アラームが鳴った時間帯に吉田がトイレに入る様子は映っていなかった。
白石は吉田に再度問い詰めた。

「吉田さん、本当にトイレに行っていたのですか?」

吉田はさらに焦りを見せたが、結局白石の鋭い視線に耐え切れず、ついに真実を話し始めた。
「実は、私はその時間、館の外にいました。友人に急な用事があって、ちょっと抜け出していたんです。」

「なるほど」と白石は頷いた。

「しかし、それだけでは絵画が消えた理由にはならない。もっと具体的な何かがあるはずです。」

白石はさらに調査を進めることにした。
彼は展示室の隅々まで調べ、絵画が展示されていた壁の裏側に小さなスイッチを発見した。

このスイッチを押すとなんと壁が回転し、隠された部屋が現れた。
その部屋には、盗まれた絵画「夕映えの風景」があった。

「これは…!」白石は驚きの声を上げた。
「内部犯行ではなかった。しかし、この仕掛けを知っている者がいるはずだ。」

美術館の設計図を調べたところ、この仕掛けは元々建物の秘密の一部で、極めて限られた人しか知らないはずだった。
白石は再び田中館長に話を聞いた。
「この仕掛けについて知っているのは誰ですか?」

田中館長は少し考え込んだ後答えた。
「設計者である松本さんと、私だけです。でも松本さんはもう亡くなっていますから、知っているのは私だけのはずです。」

白石はその言葉に疑念を抱いた。
「本当にそうでしょうか?他に誰か知っている人物はいませんか?」

「いや、そんなはずは…あ、そうだ!」
田中館長は突然思い出したように言った。
「実は、数年前に一度だけ、松本さんがその仕掛けを他の誰かに教えているのを見たことがあります。その相手は確か、彼の弟子だった藤井という男です。」

「藤井さんですね。彼の居場所は分かりますか?」

「今は独立して自分の建築事務所を構えています。彼なら知っているかもしれません。」

白石は藤井の事務所を訪ね、彼と話をすることにした。
藤井は最初こそ警戒していたが、白石が事情を説明すると、次第に口を開いた。
「確かに、松本先生からその仕掛けのことを教えてもらいました。でも、私は何も知りません。」

「その仕掛けを使って絵画が隠されたんです。何か心当たりはありませんか?」

藤井はしばらく黙って考えた後、意を決したように言った。
「実は、先生から教えてもらったときに、こんな話を聞いたことがあります。『この仕掛けは、美術館の一部ではあるが、非常時には大切なものを隠すためのものだ』と。もしかしたら、何かトラブルがあったのかもしれません。」

白石はその言葉にヒントを得た。
「なるほど、誰かがその非常時と考えて、この仕掛けを使った可能性がありますね。」

美術館に戻った白石は、再度職員たちを集めて話を聞くことにした。

その中で、鈴木真由美がふと口を滑らせた。
「実は最近、美術館の財政が厳しいと聞いていました。でも、この絵画があれば助かるとも…」

「それは誰から聞いたんですか?」
白石が鋭く尋ねると、鈴木は少しためらった後、答えた。
「吉田さんです。彼がそんな話をしていたので、もしかしたら…」

白石はすぐに吉田を呼び出し問い詰めた。
「あなたがこの仕掛けを知っていたんですね?そして、絵画を隠すことで何かを企てていたのでは?」

吉田は最初こそ否定したが、最終的には白石の執拗な追及に耐え切れず全てを白状した。
「そうです。美術館の財政が厳しく、私たちは絵画を隠し、偽装盗難に見せかけて保険金を手に入れようとしたんです。」

白石はため息をついた。
「しかし、その計画は失敗しました。あなたは法律の裁きを受けることになるでしょう。」

こうして、白石蒼一の鋭い推理と冷静な捜査により、消えた絵画の謎は見事に解決された。

美術館の平穏は戻り、絵画も無事に展示されることとなった。
しかし、白石は美術館を去る際にふと呟いた。「真実はいつも隠されているものだ。だが、それを見つけることが探偵の役目だ。」

その言葉に深く頷く館長と職員たちの表情には、事件が解決した安堵と共に、真実の重みを感じるものがあった。

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