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砂が入ったら出せばいい

大人になってからの僕は、昔ほどはしゃぐことがなくなった。

長い時間生きていると、周りの出来事の多くが既に経験したことのある出来事になっていく。
だから初めて経験した時ほどの驚きや感動はないし、はしゃぐことも少なくなる。

大人になるってことは、走りづらい靴を履くことだって聞いたことがある。

大人になると、昔履いてたような汚してもいいスニーカーやサンダルは履かなくなって、革靴や高いスニーカーを履くようになる。

革靴や高いスニーカーでは、思うように走り回ることなんてできない。

そんな環境に慣れていくことを"大人になる"って言うのかもしれないけど、汚れたスニーカーで走り回っていた昔の自分をふと思い返すと、少し寂しい気持ちになる。

この間、ある人と海に行った。

何か特別な用事があったわけではないが、しばらく見ていなかった海を久しぶりに見たくなった。

海をもっと近くで見ようと砂浜を歩いていたが、大人になった僕は靴に砂が入ることを気にして、忍足で歩いていた。

すると一緒に海を見に行ったその人に「変な歩き方。」と笑われた。

砂が入っちゃうからと弁解すると、その人は「いいんだよ。砂が入ったら出せばいいんだよ。」と言った。

なんてことない言葉だった。それにこれまでもどこがで聞いたことのある言葉の羅列だった。
でも、なぜか今の僕には、その言葉がとても優しいものに思えた。

そうだよ。砂が入ったら出せばいいんだよ。
僕は久しぶりに、海の側を走り回りたい気持ちになった。

あの潮風の匂いは、僕を昔に戻してくれた。
またいつか、海を見たいと思う。

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