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【LOT・開幕編】第三章 生徒会

 体が重い。頭が痛い。でも、起きなきゃ。
竜也は薄らと目を開け天井を見つめる。よく見ると見慣れない天井だ。それに疑問を抱きつつも、まだ回らない頭じゃ考えるところまでは出来なかった。
 しかし、殺気もない。妙な音もしない。という耳からの情報を信じるなら、ここはおそらく安全な場所だ。その事にほっと胸を撫で下ろして天井へと手を伸ばした。
 何をしてたんだっけ。頭が痛くて思い出せない。でもなにか、忘れてはいけないことがある気がする。
しかしそれが、どうしても思い出せない。

「俺……」

すると起きてきた頭のせいであの事を思い出していく。妙な鬼、雪女。そして……。

「佑馬!!」

 がばっと勢いよく起き上がると頭に鈍痛が走る。しかし今はそれどころではない。
ここはどこだ。なぜここにいる。ダメだ、最後の方の記憶が曖昧で何も分からない。
そんな事より佑馬は。佑馬が居ない。
 辺りを見渡すがここはただの家のようだ。部屋の中には他に人も居ない。
焦る呼吸を落ち着かせて、ベッドから降りる。
 見る限り、男の部屋……のように思う。ベッドは大きめ、比較的部屋も広い。それなりに裕福なのだろうか。
そっと扉に近付いて耳を寄せる。
……何も音はしない。が、遠くの方で何かが聞こえる気がする。……下の部屋か?

 ゆっくり音を立てないように扉を開けていく。真っ暗だった部屋に廊下の灯りが漏れだし、眩しさに思わず目を細めた。
そのまま人一人が出れるスペースが出来るとそこからゆっくりと部屋を出る。階段に目を向けると、やはり下から音がしていることが分かる。
呼吸を整えて、ゆっくりと階段を下りる。一段、一段。音を立てないように。
階段から顔を覗かせるとリビングから灯りが漏れていた。どうやら賑やかに何かを話しているらしい。

 先程から殺気も敵意も感じない。それはそちらで楽しんでいるからなのか、そもそも無いのか……。
どちらにしろ警戒すべき。そう考えた竜也は息を殺してリビングの扉に近づいた。そして、ゆっくりとドアノブに手を掛け……またも音が出ぬようそっと扉を開いていく。
 そこから聞こえてきたのは聞き覚えのある声たち。そして……。
親友の声。

「佑馬!?」

 咄嗟に思い切りドアを開けると、香偲、珠喇、順、シエはもちろん、佑馬も肩を跳ねさせて驚いた。
全員きょとん、と不思議そうに竜也を見つめている。
沈黙を破ったのは親友、佑馬だった。

「ぅえ……?竜也、お前全然気配無かったよ……?」
「な、なんで……」

 なんで、生きてるの。
音にならない言葉を紡いで、膝から崩れ落ちる。もう、ダメかと思った。あの怪我では、もう二度と言葉を交わすことは出来ないのだと、思っていた。
 泣き出す竜也を見て、佑馬は微笑みながらその頭に手を置く。

「ごめんな竜也。心配かけて」

 触れてくるその手は、暖かい佑馬の手だった。
その手を握って、ううん、と何度も首を横に振る。
 生きてさえ居てくれればなんでもいい。たとえ嫌われようと、もう二度と会えないとしても、なんでもよかった。
でも、こうしてまた話せるのはそれはそれは嬉しいことで。
 その光景を見守っていたシエが口を開く。

「受け身をとって居たようで、幸い頭に異常も無いようです。しばらく安静にとのことなので、少しの間学校には行けませんが」

 竜也がはっと顔を上げる。
そうだ、妖怪に襲われた事実はどうなっている。あんなもの目の当たりにしてしまったら、佑馬に不幸が襲い掛かりそうなものだが。
 その思いを察してか、珠喇がそっと耳に顔を寄せる。

「安心して。頭打ってたせいで何も覚えてない。事故、ってことにしてるから、大丈夫だよ」

微笑む珠喇に、竜也は「そっか……ありがとう」と小さな声で返して、佑馬に顔を向けた。
そうか、何も覚えていないのか。それはよかった。
あんな恐ろしい体験なんて忘れた方がいい。
 竜也は少し考えて、再び珠喇に視線を戻した。

「生徒会が助けてくれたの?」
「まあ……遅かったけどね」

 苦笑いを浮かべて、ごめんねと呟く珠喇に首を横に振って返す。
 一人だったらどうなっていたか分からない。正気を失っていたせいで佑馬に息があるかも確認していなかった。あんな大怪我を見て、それだけで判断してしまった。
生徒会のおかげで、助かった。
竜也は少し俯いたあと、改めて顔を上げてシエに顔を向ける。

「会長、お願いがあるんだけど」

 シエは竜也に顔を向けると、はい、と小さく頷く。

「俺……おれ、ェ」

うまく言葉にできない。口が、何かに邪魔されているように思うように動いてくれない。
きっと辰也が邪魔しているんだ。
不思議とそう思って、でも無理矢理口を動かす。
邪魔するな。俺はもう、間違えたくない。

「っ俺、を! 生徒会に……ッ!!」

そこから先の言葉は出なかった。出なかったけど。
シエはゆっくりと微笑んで、そして頷いた。

「ようこそ、生徒会へ」


 しまった。まさかここまでになるとは。
校門に入ってから気付いてしまった。ほとんど全生徒が竜也を見ている。
生徒会に入るとは、こういう事なのだ。
あの奇妙なグループに、それもこんな地味な生徒が入るなんて。
そりゃこんなに目立つに決まっていた。
ああ、俺の穏やかなスクールライフが。

「おはようございます」

 背後から声が聞こえて振り返るとそこにはシエが立っていた。シエは竜也に近付くとその手を取ってそそくさと歩いていく。

「えっちょ、会長……」
「気にすることありません。そのうち慣れますよ!」

なんてこと言って笑ってみせるシエを見て、竜也は不思議と心が落ち着くような気がした。
 癒し系とはこの事なのか。関わるまではシエはただ怖い生徒会長だったのに、いざ関わってみればただの女の子な訳で。
 なんだ。所詮ただの噂だったな。
知った者にしか分からないだろうが、生徒会はただの高校生だった。

 それを離れた所から見る、一人の男子高生。
持っていた鞄を落としその二人の背を睨みつける。

「ふざけるな……ふざけるなよ……」

一緒に居た女子高生はその鞄を拾い両手で抱えた。

「あの子が例の」

 そして口角を上げ、目を細める。

「これから楽しみだね!」


「あづい……」

 生徒会室の中で扇風機の前に座り、そう零すのは珠喇。面倒くさそうに眉を顰めてその暑さを呪っていた。
 まだ七月にもなっていないのにこの暑さ。いや、春と比べてその暑さにまだ慣れていないだけか。
どのみち珠喇にとってはどうでもいいことで、その暑さだけがただただ憎かった。

 ピッ。とクーラーを付けるのは香偲。
すかさず順がそれを睨むが、香偲は「まーまー」なんてリモコンをひらひらと振っている。

「ここ日差しめっちゃ入って暑いじゃん?温度もそんなに低くしてねェし、たまにはいーだろ」
「そう言って昨日もつけてただろ」
「……うるせ」
「今なんて言った」
「何も言ってませェん」

順が眉を顰めてそんな香偲を睨み付けていると、生徒会のドアがカラカラ、と音を立てて開いた。

「おはようございます」
「おはよう、シエ」

 ソファに座った愛が微笑みかける。そして竜也の存在に気付くと、「あら」と首を傾げた。

「伊藤くん……よね?今日からよろしく」
「あ、うん。よろしく」
「理央さんとアヤカさんがまだ来てないんですね」

生徒会室を見渡してシエがぽつりと呟く。
すると生徒会室のドアがガラッと勢いよく開き、青に一束だけ黒い髪をした男子高生がその勢いのまま入ってきた。まっすぐ竜也に向かっている。
なぜか感じるその圧に押されるように竜也は後ろへと下がっていく。

「な、なになに……!?」
「てめぇ!」

男子高生は竜也の胸ぐらを掴むとグイッと引き寄せる。そして耳元に顔を寄せた。

「てめぇ、会長に惚れてんじゃねぇだろうな?」

竜也の思考が止まる。
え?は?と疑問しか浮かばない。この男、急に現れたと思いきや何を言っている?
改めて見てみると、それは生徒会会計、林 理央(はやし りお)だった。
確か普段はとても明るく生徒会でなければ学校の人気者だったであろう性格の筈だが。

「ごめんね〜!理央っちが暴走しててさ〜」

二人分の鞄を持って入ってきたのは、ピンクの髪の女子高生。彼女は川田(かわた) アヤカ、生徒会書記だ。
 彼女もまたとても明るく生徒会でさえなければ友達も多かっただろう。
理央とアヤカ、二人はセットでいることが多く、双子のように仲がいいらしい。
 アヤカは苦笑いで両手を合わせ「ごめんね!」と謝るとその理央の腕を引っ張る。

「もー、だめだよ理央っち!ほら、困ってるから!」
「てめぇ!はっきり答えやが」
「違います」
「やっぱりそうじゃ……え?」
「違います」

無表情で首を横に振る竜也と、ただ驚いている理央。むしろどこを見てそう思ったのか。
 しかし理央は途端にほっとした笑みを浮かべると「なんだ〜」と打って変わって明るくなった。

「そんな事なら早く言えよ〜!」
「いや言う暇なかっ」
「しょうがねぇ奴だなもう〜!」

 なんかこう、イラッとくるな。
朝から胸ぐらを掴まれたせいか腹が立ってきた。
ネクタイを直してさっさと椅子へと座る。
 シエはため息を吐くと「なんとか揃いましたね」と話を切り出した。

「改めてようこそ、竜也さん。ここに居る皆さんはもれなく呪いの子、能力者です。それぞれの悩みや悲しみを共有出来ると思っています。なので竜也さんも、どうかここでは素直な貴方で居てください」

微笑むシエを見て竜也は小さく頷いた。
 だが心はスッキリとしていない。もしやどうにかなるのでは、と生徒会に入ったはいいが、あれから辰也とも話せていないし結局良いのか悪いのか分からない。
でも、これは俺が決めたことだ。今までより、良くしたかったから。

「では次に、改めて自己紹介を。もう知っていると思いますが、私は清川(きよかわ)シエ。生徒会長です。能力は未だ分かっていません」

皆さんもどうぞ、とシエが顔を向けると、オレンジ髪に眼鏡をかけた順が片手を上げ次に名乗り出た。

「有加崎 順(ありかざき じゅん)。副会長だ。能力は怪力。といっても腕力しか上がらん」

じゃあ私ね、と赤茶の長い髪を揺らして目を閉じたままの愛が続く。

「私は山口 愛(やまぐち あい)。同じく副会長よ。能力は祈り。手を握っていれば大抵のことは出来るのだけれど……質は落ちるから実はあまり強くないのよ。だから期待しないで」

金髪を軽く掻き上げ、糸目の香偲は「よし」と呟いて竜也に顔を向けた。

「んじゃ次はオレらだな。オレァ朋以 香偲(ともい かざい)、書記だ。能力はシンプル、防御だぜ」

続いて黒髪にぱっちりとした目を動かして、珠喇は竜也を視界に捉える。

「俺は静川 珠喇(しずかわ じゅら)。生徒会会計。能力は「かまいたち」って呼んでるけど、とりあえずなんか鎌みたいな刃出して操れるよ」

はいはい!とすかさず手を上げるのは一束だけ黒い青髪に青と黒の目をした理央。

「次俺ね!俺は林 理央(はやし りお)!生徒会会計で、能力はシンプル、空を飛ぶ!」

そのテンションに続くように、はい!次私!と目と同じピンクの髪に少しだけ長い三つ編みをした、実に女の子らしいアヤカも手を上げる。

「川田(かわた) アヤカ!生徒会書記です!んで能力は、「アクセス」、触ったものの情報を読むことが出来るんだー!」

では最後に、とシエが竜也に顔を向けた。
竜也は少し戸惑ったあと。たしかに自分だけ名乗らないのもな……と腹を括り口を開いた。

「伊藤 竜也(いとう りゅうや)。えと能力、は……大鎌出しマス」

どこか片言の言葉を吐き出しつつちらりと伺うように生徒会に目を向ける。
生徒会は不思議そうにした後。パチパチと拍手をした。

「これで晴れて私たちの仲間ですね!」

今にも跳ねそうなほど嬉しそうな笑みを浮かべるシエ。なんだろう。やはり彼女には癒されるような。
 そこで理央の視線が痛い気がして、急いでシエから目を逸らした。

「あ、俺って生徒会で何したら……」
「そうですね……では総務として、お手伝いお願いします!」
「分かった」

竜也がこくりと頷くと、シエは生徒会メンバーを見渡す。
そして、ふふ、と笑みを零した。

「これから楽しみですね!」


「はえー、まじで生徒会入ったのな」
「うん。まあね」

 きょとんとしながらリンゴを頬張る佑馬。
ここは彼の家。一般的なマンションの一室だ。
とても綺麗に整えられているが、これは主に佑馬のおかげらしい。
 ふと部屋の扉が開いて、綺麗な黒髪を掻き上げた女性が顔を覗かせる。

「あ、母さん」
「ちょっと出てくるから、あとお願いね」
「……ん、分かった」

佑馬がにっと笑ってそう返すと母親は安心したように「ありがとう」と呟くと部屋の扉を閉めた。
 残された佑馬は小さくため息を吐き出して、竜也に笑顔を向ける。

「で、大丈夫なのか?学校は」

 佑馬はいつもそうだった。どんな時も笑顔で、怒る時は必ず誰かのためだった。
別に悩みを全部隠してる訳では無い。結構言ってくれているとも思う。
ただ佑馬は、悲しい。寂しい。という様なマイナスな感情だけは隠した。
それだけは、出会った時から。いや、聞く限りは昔からあるらしい。
 それをどうにかしたかった。でも昔から一緒に居るヒロに出来なくて、俺に出来るはずもなかった。
 だけれど竜也はじっと見つめた後。

「……佑馬は、大丈夫なの」

そう聞かれた佑馬は少し目を見張らせた気がした。
少しの沈黙の後、絞り出したように佑馬はゆっくりと口を開く。

「……あー……大丈夫だぜ。ありがとな」
「力になりたいよ」

佑馬は眉を下げて微笑むと「そんじゃ」と改めて竜也に向き直る。

「お前から話せ」
「えっ」
「お前だって、悩み。あるだろ?それを話してくれたら俺も言う。一人だけ逃げるなんて、ずりーぞ」

な、と優しい笑みを浮かべて佑馬は首を傾げた。
少し悩んだ後、竜也は目を逸らす。……それだけは、どうしても。

「……ごめん。言えない」
「うん。なんで?」
「巻き込みたく、ない」
「巻き込まれるようなことなん」
「……うん」
「お前は、俺らがそれで逃げると思うのか?」

え?と顔を上げた竜也に、佑馬は再び明るい笑顔を向けた。

「んじゃ、しょうがねえわな!まあいつか話してくれよ!」
「……うん」

 話せる時なんて、来るのだろうか。
ずっと隠しているのは辛い。嘘を吐きたくないから。
でもこれ以上不幸になって欲しくない。……だから、言えない。
 ごめんね。心の中で謝る。
ずっと一緒に、という俺のワガママで。


​────生徒会の観察日記。
そんなものでも付けてやろうか。
そう思う竜也の目の前には、会議そっちのけでお菓子を頬張る役員たち。
とはいえシエは会議に戻そうと苦労している。
が、「まあいいじゃん」とほとんどが話を聞かない。
 しかしまあこんな感じなのに、不思議なことに仕事はちゃんとしているらしい。
委員会や集会など、行事では生徒の前に出るが後は授業さえ出ていないのに。

 だが、授業に出ていないのにも理由があった。
最初の方はクラスで授業を受けていたが、どうにも気が散るらしく生徒たちが授業に集中出来なかったのだ。
そんな事では申し訳ないと、クラスでの授業を諦めここでたまに勉強しているらしい。
なるほど。赤点の理由はそれだったか。
と竜也は納得したように数回頷く。

 自分を始めとした生徒たちは、よく分からないまま誰かが流した噂によってレッテルを貼っていたのだ。
だからといって生徒が悪い訳では無いだろう。そんな噂を聞けば大抵怖がるし、面白がるものかもしれない。
それでも生徒会はそれに苦しんでいるし、そのせいで色々な事が出来なくなっているのも事実だ。

 それに、生徒会にはもう一つ仕事があった。
それは能力者から生徒たちを守ることだ。
能力者の中には、先日のような妖怪使いや魔物使い、そもそも本人が攻撃してくるなど、危険な能力者も多いらしい。
特に最近は学校周辺が多くて毎日のように追っ払っているとかなんとか。
 そんなことまでしているのに、なんだか切なくも思えてきた。
危険を冒して生徒を守っているのに、その生徒からは恐れられて避けられている。
こう、なんとも言えない。報われないな。

「竜也さん?」

 シエが覗いてきて目が合う。
シエなんて特に、能力も分からない、治らない中率先して動いているのだ。
 竜也は少しだけ見つめてから、なにもないよと首を横に振った。
なんだかよく分からない。よく分からないけど、なんとなく生徒会に幸せになって欲しいと思った。


「あのー……」

 また別のある日。生徒会室に珍しく、本っ当に珍しく来客があった。
黒い髪を後ろで三つ編みに縛り眼鏡をかけた、ザ・委員長のような女子。
 その女子に反応したのは意外にも香偲だった。
おっ、と反応するように声を上げる。

「委員長じゃん!」

 本当に委員長なんかい。
竜也は心の中で思わずツッコミを繰り出した。
なんというか。そのままの子なんだな。
 話を聞いてみると、委員長の名前は白峰 琉璃(しろみね るり)。香偲と同じクラスだそう。
クラスに来ない香偲のためにこうしてたまに生徒会室を訪れては、纏めたノートを渡しているのだとか。
 生徒会にもこういう人が居るんだな、と竜也はなんとなく嬉しくなった。

「いつもさんきゅ、委員長」
「いっいえいえ!こんな事しか、出来ないから……」

それじゃ、とそそくさと生徒会室を出ていく委員長。
それを見て香偲は一呼吸置いたあと、皆の方へ振り返る。

「助かるよなァこういうの。お陰様でテスト無事だしよ」
「……そうだね」

珠喇は微笑んで、ゆっくり頷いた。
普段表情や目のせいで感情が読めない彼だが、今の香偲の顔はどこか寂しそうにも見えた。
 生徒会は慣れているのだと思っていたが、そうでもなかったのか。
きっと皆色んな普通を我慢して、こうして過ごしている。生徒会の仕事をこなし、人知れず戦って。

 なぜ能力者は不幸にならなければいけなかったんだろう?力があるから?
ではなぜ力なんて持ってしまったのだろう?こんなもの、不幸になるくらいなら、するくらいなら。ひとつも要らなかった。
なぜ生徒会が恐れられて避けられなければいけないのだろう?
そんな疑問ばかりが頭に浮かんで、ぐるぐると回っている。
考えても仕方ないんだろうな。持ってしまったのは自分たちで、神様なんて居るかも分からないし。
 話を切り替えるように理央が声を上げる。

「そうだ、今度小さいけどお祭りあるんだよ!皆で行かねえ!?」
「いいねいいね!」

それに乗ったのは予想通りアヤカだった。
続くように手を上げていき、結果、行くことになった。
お祭りなんていつぶりだろう?いつも夏は佑馬やヒロが忙しくて、まさか一人でなんて行かないから……初めてかもしれない。
 そういうのはなんとなく恥ずかしくて、黙っておくことにした。……万が一にでもはしゃいでしまったらどうしようか。



​────ふと立ち止まって、空を見上げる男。
その空からはやがて雨が降ってきて、辺りは傘を持たない人々が屋根を探して騒がしくなった。
晴れているのに雨が降っている。その光景はなんとも綺麗に見えた。
男はそれに見とれたのか暫く見つめたあと、再び歩き始めた。

 傘も差さぬまま雨の中暗い路地を進んで、どんどん奥へと向かっていく。
もはや猫すらいないそんな路地裏に辿り着くと、目の前の小さな扉を見つめる。そしてドアノブに手をかけその扉を開いた。
ギィ、と古い音が響いて扉が開くと、現れた階段を降りていく。
カツ、カツ、カツ。靴の音だけが反響して男はただ進む。
そしてもう一つの扉が現れるとゆっくりと押して開いた。中から階段へと光が盛れる。

「やあ」

 綺麗では無いものの広い部屋。声を掛けた男に顔を向けたのは中で各々座っている四人だった。
ギャルのように派手な見た目の女子。
猫耳の付いたパーカーのフードを被り、眼鏡をかけた女子。
オールバックに一束だけ下ろした男子。
分厚い手帳を閉じる、クールな男子。
 男はそれを見渡して満足そうに頷くと、一人がけのソファへと腰かける。
そして足を組んで手の甲に頬を乗せ、口を開いた。

「いよいよだ。やっと見つけたからね。この機会を逃す訳にはいかない」

男が机の上にばら撒かれている資料を一瞥する。
そして何かを企むように目を細め、僅かに口角を吊り上げた。

「やっと。僕らは自由になれるよ」

男の足元で、影が揺らいだ気がした。


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