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【政策参与のおはなし(その6)】ペーパーレス化について問われたときにお話したこと(2021年9月17日日野町議会・議会改革特別委員会)

今回のおはなしの経緯

日野町議会の議会改革特別委員会に出席し、これまで議会で議論をしている「ペーパーレス化」について意見交換したいとお話があったものです。

その際のやりとりを、文字起こしではなく(UDトークしてたけど保存に失敗してしまい・・・うっかり参与)、コメントを求められた「問い」と、その際お話した「回答」という形に編集したものです。

ですので、これは「再現」であって、記憶違い等により問いの趣旨や回答を修正・補足しています。その点、ご留意ください。

問いと回答(概要)

日野町の評価

(テーマとなっているペーパーレス化に限らず)日野町を他の自治体と比べたとき、どのように見えるか?

私自身、ご存知のとおり、直近は京都府で地方公務員として勤務し、その間に内閣府でも仕事をしていました。また、最初のキャリアは民間企業であることや、もともと「民間と行政」という違いをそれほど強く考えていない人間なので、自治体そのものを見る視点は行政組織一般ではないかもしれません。とはいえ、複数の行政組織で仕事をした公務員出身者として、この半年余りの間、日野町で仕事をさせていただいた所感のようなものでお話できればと思います。

基本となる考え方は、自治体はその根拠となる制度が共通であることから、基本的には比較して優劣をつけられるものではないと思います。そういう前提があるとはいえ、ご質問の趣旨もそうであるように、違いが生まれるポイントは、確かにあると思います。

日野町は、言葉としてどう言うか別にして「良くも悪くも」通常の自治体であると思います。

エピソードのようなもので説明すると、2つご紹介します。

1つ目は、私が現に政策参与として委嘱いただく前、人事のことですので役場の方々としっかりお話をする必要があると思います。もちろん、そのために役場に訪問するあるいはこちらにお越しいただくということが通常かと思いますが、コロナ禍なので、オンラインでお会いすることもありました。もちろん、日野町に伺ってじっくりお話する機会もありましたが、オンラインで人事の話を進めることは、日野町にとってはおそらく従前にはなかったことではないかと思います。ただ、その手順そのものに、役場の方々は違和感を持っておらず、極めて柔軟に対応されたと思います。

もう1つは、政策参与としてこうして仕事をしているとき、いわゆる勤務時間の概念がない身分ですが、それでも条例に基づいた報酬をいただく根拠として「いつ勤務したのか」というものが必要です。

一般の職員さんは出勤簿があり(※注:端末上で打刻しています)、それで出退勤管理をしている一方で、私自身はそういうものはない訳です。ではどうしているのかと言えば、「勤務簿」と書かれたファイルを渡されて、そこに実績を手書きしています。

最近はオンラインで仕事をする機会も増えてきているので、勤務簿に書けません。職員さんにチャットで報告をする形をとり、代わりに記入いただいていますが、これは言ってみれば様式が定まってそうしているものではありません。

このことを、「ルールを決めずにやっている」と言うのか「現状のあるものを使って目的を果たそうと柔軟に考える」と言うのか、考え方はあるとは思います。ではここで、デジタル化のための政策参与なので「勤務簿に記入するのってどうなんですか」と、私から言うことはできるかもしれませんが、私自身もそこにあまりこだわりはありません。目的が果たせれば、つまりは私の勤務実態が明確であり、報酬をお支払いする裏付けが取れればいいわけで、運用として現実的なところを採用できていると言えるかと思います。もちろん、今後そうした運用を最適化していくこともあると思います。

以上、エピソードでご紹介する形になりましたが、日野町のみなさんは、通常の仕事をきちんとする、これは当然の話でありますが、対処すべき新たな課題が出た場合に、きちんと目的から考えて現行のルールとの関係に対して柔軟に対応できる組織ではないかと思います。

ペーパーレスのポイント

ペーパーレス化に取り組む際に重要だと思うポイントは?

(注:総務課長から、実際にペーパーレス化をした際の費用対効果の試算を説明がこの前にありました。)コストでペーパーレスを評価することは、あまり意味がないように思っています。

他の自治体で「これだけコストを減らしました」とおっしゃることはありますし、それについてどうのこうの言うつもりはありません。あくまでそういう整理をされているのかと思います。

コスト減よりも重要であると考える点は、「一貫性」と「相互運用性」ともいうべき点と考えています。

一貫性

まず、いわゆるペーパーレスに取り組むのであれば、それは一貫して実施する必要があるということです。業務の流れの中で、どこか「ここは紙でないといけない」と思考停止をしてはいけないということでして、「やるならやる」。ただし、一貫してというのは「やらないならやらない」ということでもあって、無理にすべてをデジタルにすることが目的化することにも注意が必要です。要するに中途半端がいけない。

議会と役場との間のやりとりをペーパーレスにする、と言う場合、議員のみなさんもその前後のやりとりがありますし、役場も議会とのやりとりを行うために、役場内での連携をしています。そうした前後のやりとり含めた一貫性という視点で考える必要があります。

であれば、逆の言い方をすれば、この意味で一貫してできるところからやっていくという視点も重要だと思います。いきなりすべてを行うのではなく、一貫してできるところをきちんと見極めること。その際、そこにコスト減も結果として出てくることもあるとは思います。

相互運用性

「紙」か「タブレット」かという二者択一が論点になりがちですが、そこがポイントではないために、このような言葉を使ってみます。「紙とタブレットどちらでもできるようにする」という意味です。そのためには何が必要かということが重要であるということです。

たとえば、今日配布いただいた次第でご説明しましょう。

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この紙をタブレットにPDFで格納したとすると、どうでしょう。確かにこれを印刷したりあとでファイリングする手間はなくなるでしょう。

また、この次第の使い方も変わるでしょう。

1.委員長あいさつ

2.議長あいさつ

の間にあるのは、おそらくメモをとったりするために開けているスペースでしょう。

同じ形でPDFになったとき、タブレット上に専用ペンで文字を書き込むというのはいかにもやりにくいでしょう。また、メモをお手元のノートで取られている方もいらっしゃいます。

そう考えると、この次第は紙で配布することを前提にした最適な形になっているので、このままデジタルにするのがいいのかありそうですよね。

では、タブレットはタブレットに合った形に元のデータを加工するのか?となります。従来はこの次第も直近の委員会で使ったファイルを文字修正して最新にしていることが通常でしょう。その際に、「紙配布用」と「タブレット用」のようにWord上で編集するのでしょうか。Wordのファイルも増えますし、それだけで手間が増えます。

そうした作業に使うツール(Word)の特性も考えておかないと、タブレットによって仕事が増えることにもなる訳です。

相互運用性の考え方は、こうしたところを考える鍵概念でありまして、

・次第を更新する方法は、手作業で都度変更するのがいいのか
 変更すべき箇所をきちんと把握して間違いなく行う(自動化)
・あとで検索がしやすいようにデータを関連づける
 議事メモも合わせて検索できたり、過去の同様の議論がなかったか確認できれば議論も深まる

こうしたことを可能にするためにデータを整理したり次第を作るワークフローを整理することとセットでないと、みなさんにも効果を実感いただきにくいのかなと思います。

システムの予算は高いけどどうなの?

デジタル化に取り組む際、前の議会でも補正予算で出ていたシステムの更新予算は高額に見えるが、そもそもそういうものなのか?

残念ながら、ITはお金がかかります。また予算の形で出てきたときに大きな金額で見えてくるのは、それだけ「当たり前」になっているとも言えるでしょう。

ともあれ何かのコストダウンの手段としてITが登場して久しい訳ですが、必ずしもコストダウンにつながっているかと言われると怪しいところはあります。この分野は日進月歩が続く性質があるので、同じものを使い続けることで費用を取り戻す考え方が成り立たない部分がある訳です。それをIT業界の陰謀だと言ってしまうことは簡単ですが(一同笑)、費用対効果という観点で捉えると難しいところがあることは事実です。

一方で、「費用」ではなく「投資」として見たときに、これは人材育成もそうだと思いますが、どのような効果を一定期間にわたって出すべきものかということを将来に向けて考え、それを実現するべく行動することが重要だと思います。その意味で無駄なお金の使い方になっていないか考えること必要です。

ペーパーレスで困る人どうするの?

ペーパーレスでタブレットを導入することは反対はしないが、自分も含めてうまく使いこなせない人もいるのをどうすればよいか?

ご質問の前後にあった、みなさんの議論を伺っていて重要なことをおっしゃっていると思いました。

それは、タブレットやオンラインの機能というより、それによって何ができるか、何が便利だと感じたか、あるいはどういうところが難しいと感じるかも同じですが、これらは「ユーザー体験」とまとめることができます。

これまでのやり方も「ユーザー体験」がある訳です。「紙の本にはぬくもりがある」というのもそうでしょう。それがどのようにこれから変わりうるか、あるいは変えるべきではないか、ということを考えることが重要です。ただ、紙そのものは形態が変わっていないので、新しいユーザー体験が得にくいものでしょう。

ペーパーレスの話も、紙がタブレットの中で見ることができるという話だけでなくて、「検索がしやすい」とか「たくさん紙を持ち歩かなくてよい」といったところが、具体的にイメージできるかどうかが重要だと思います。

また、こうした議論をするときに、区別したいと思うのが「リテラシー」と「コンピテンシー」です。コロナ禍で有名になった台湾のオードリー・タンさんがおっしゃっていたことで、カタカナになっているので難しく感じると思いますが、前者は「知っているかどうか」が問題である一方、後者は「知らないことに対する向き合い方」と言うことができます。今議論になっていることに引き付ければ、何か使い方を教えるという前者の考え方よりも、後者は「こういうことができるので、一緒にやりませんか?」であるとか「自分が分かったことを、他の人にも知ってもらおう」という考え方になります。この違いは実は大きいと思います。

例えば、さきほどのやりとりで出ていた「Zoomによってこういう人たちと新しいつながりができた」ということがあったので、そのZoomそのものをもっと使えるようになりたい、となるでしょう。こうした新しいユーザー体験をどれだけ得たいと思うかどうか、こうしたコンピテンシーを高める方法を考える必要があります。

そのために私なり役場職員も、そうしたマインドになっていただくためにできることはあると思いますし、ぜひ議員のみなさんもそうした体験を通じて町民のみなさんにも伝える活動を一緒にできればと思っている次第です。

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