代償分割か売却か?
不動産鑑定士の林から、不動産鑑定額の予想金額が送られてきました。
一通り調査したところ、不動産鑑定書に記載できる下限額は5,000万円ほどになりそう、とのこと。
さて、この金額で不動産鑑定を行う意味があるのでしょうか?
今回の不動産鑑定は、お父様の遺したアパートを相続したいお姉さんが、弟さんにいくら代償金を支払えば良いか、を検討するためのものです。
相続財産はそのアパートだけ。他にはありません。
もしも、不動産鑑定額が高くなりすぎると、その分お姉さんが弟さんに支払う代償金が多くなってしまいます。
お姉さんには余裕資金が無く、代償金は全額銀行借入で賄うことになる為、アパートの経営が立ち行かなくなってしまうのです。
今回の事例で試算してみます。
アパートの価額が5,000万円ならば、お姉さんがアパートを取得するには、弟さんに2,500万円の代償金を支払えば良いことになります。
まず、このアパートの収支を計算してみます。
満室想定家賃収入は一戸6万円×4戸=24万円で、年間288万円(GPI)になります。
神奈川県内の悪くない立地なので、空室率は10%程度。実際に期待できる収入は259万円(EGI)ということに。
経費率を20%とすると、ネットの収入は207万円(NOI)ほど。
次にローン返済額を計算します。
問題になるのが借入年数。
単純に建物の残存期間からすると、築20年の木造なので、2年しか借りられないことになります。
ただ、借入額が2,500万円ならば土地値以下になるので、土地に対する融資として借入年数は20年の融資は期待できます。
金利を2%とすると、年間ローン返済は151万円(ADS)ちょっと。
207万円(NOI)ー151万円(ADS)で、キャッシュフローは年間56万円。
では、アパートを売却して別の不動産に組み替えた場合はどうなるでしょう?
譲渡税・仲介手数料などで約2割のロスが出るので、手残り2,000万円。
これをFCR4.5%の物件に組み替えるとすると、年間90万円のキャッシュフローということに。
トータルでの資産の拡大を考えるのであれば、2,500万円の代償金を支払ってアパートの運営をするべきですが、今すぐ使える無借金のキャッシュフローが欲しければ、組み替えた方が良いことになります。
お姉さんが、資産の拡大を目指してアパート運営をされるのであれば、今回の不動産鑑定がお役に立てると思いますが、現金化してしまうのであれば、不動産鑑定をする意味は無いことになります。
ただ、弟さんと鑑定書通りの金額で合意できないこともあり得ます。
例えば、弟さんが3,400万円の代償金でないと納得してくれない、なんてことになると、銀行返済額とネット収入が同じくらいになるので、税引後キャッシュフローはすぐに持ち出しになります。
そのあたりを考えながら、代償金を支払うのか、売却して現金で分けるのか、を交渉しなければなりません。