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ブックレビュー「細野晴臣と彼らの時代」

細野晴臣の本はこれまでも「とまっていた時計がうごきはじめた」、「分福茶釜」、「HOSONO百景-いつか夢に見た音の旅」、「地平線の相談」など何冊か読んでいるが、これまで読んだ本はその本が書かれた時代周辺の細野晴臣の音楽的興味に関するものが多かった。本書はそれらとは違って元雑誌「CUT」の編集長だった門間雄介氏による全時代を網羅・総括したバイオグラフィだ。

元々私ははっぴいえんどのメンバーでは松本隆を除くと、大瀧詠一→鈴木茂→細野晴臣の順に頻繁に聴いていた遍歴があり、三名の中では細野晴臣を最も聴き込んではいなかったし、初期のアルバム発表当時に「HOSONO HOUSE」やその後のソロ三部作がセール的にも芳しく無かったことを覚えている。

それが2010年8月のレコードコレクターズ「日本のロック/フォーク・アルバム・ベスト100」で田口史人が冒頭に次のように語っているように、今や細野晴臣の音楽業界でのポジションは大きく変わっている。

はっぴいえんど~ティン・パン・アレー系と、その関係アイテムが、ここまでチャートを独占するとは思いませんでした。なんだかこれでは日本のロック史=細野晴臣の歴史みたいで、猛烈な違和感を感じます。この世界ってこんなに狭かったっけ、と。

この本を読むと、このような現在の音楽業界での細野晴臣のポジションは決して本人により計算されつくして出来上がったものでは無かったことがよくわかる。むしろ行き当たりばったりとも言える。

そしてその評価がここまで拡がるようになったのは2005年の「ハイドパークの奇跡」以降のように思える(註:2005年9月4日に埼玉県狭山稲荷山公園で行われたハイドパーク・ミュージック・フェスティバルで台風による豪雨で細野晴臣のライブが危ぶまれていたが、出番の直前に雨が突然止んだ)。

その後歌と演奏の楽しさに回帰した細野晴臣は生まれ変わり、ハリー細野名義での「フライング・ソーサ―2017」(2007年)、ソロアルバム「HoSoNoVa」(2011年)、「Heavenly Music」(2013年)が発表され、その間2009年には高田漣、伊賀航に加えて伊藤大地が加入したバンドでライブメンバーが固定されたころから、細野晴臣の音楽性と自らの若い人達に音楽を伝えるというミッションに迷いが無くなり、またさらに彼からの影響を公言する海外のミュージシャンがどんどん現れるようになった。

アマチュア時代に始まり、はっぴいえんど、キャラメルママ・ティンパンアレー、ソロ三部作、YMO、観光音楽、アンビエントと螺旋のように自らの興味のまま音楽性を変えていった細野晴臣が今や1940年代や50年代の音楽を自分でやろうと思い、これまでの多様な音楽とそれらに接点を見出し、今再び歌う楽しみを感じている。その様子を見ることができる我々は幸せだ。

以下では、細野晴臣の音楽で私自身が想い出深い曲をピックアップしてご紹介したい。私自身が聴き込んでいないYMOやアンビエント時代がほとんど含まれていないことはご容赦頂きたい。

1. ろっかばいまいべいびい

本書でも細野晴臣が「この曲は西岡恭蔵が大切に歌ってくれた」と語ったとされるソロ第一作「HOSONO HOUSE」の一曲目で、狭山の「ハイドパークの奇跡」で最初に歌ったのもこの曲だった。

2. ありがとう

小坂忠のファーストソロアルバムで実質的なサウンド・プロデュースを担った細野晴臣が詞と曲を書いたのがこの曲。この頃から「風街ろまん」にかけて細野晴臣の音楽はジェームス・テイラーの影響が強くなり、バッファロースプリングフィールドを目指したはっぴいえんどのバンドサウンド志向から離れて行ったのがはっぴいえんど解散の一因と言われている。

3. 北京ダック

1976年の伝説の横浜中華街ライブ。鈴木茂がバンジョーを弾いているのは珍しい。この時のライブを2016年には星野源を招いて再現している。

4. 恋は桃色

これも「HOSONO HOUSE」収録曲で、ディランセカンドなど多くの人がカバーしている。

5. 夏なんです

はっぴいえんどのこの曲を2001年にNHKの「イエローマジック劇場」で細野晴臣・鈴木茂・松本隆・有賀啓雄の演奏で再現。

6. RYDEEN

2001年に細野晴臣イエローマジックショーでどてらYMOとして演奏した曲。

7. 幸せハッピー

忌野清志郎、坂本冬美とのHISでの名曲。

8. Pom Pom 蒸気/グッドモーニングMr.エコー/Sports Man

2007年の5月、福岡で開催された野外音楽フェスティバル「CIRCLE ’07」での演奏。特に「Sports Man」をカントリー・スタイルで演奏したのはこの時が初めて。バンドメンバーは徳武弘文、浜口茂外也、高田漣ほか。

9. Absolute Ego Dance

2018年のロンドン公演には高橋幸宏と小山田圭吾がゲスト参加することになっていたが、さらに別件でロンドンに来ていた坂本龍一も途中から急遽参加している。

10. Close to You

Burt BacharachとHal Davidの名曲を2013年の”Heavenly Music”でカバー。東日本大震災の影響から本アルバムではオリジナル曲は無く、「自分がつくる音楽なんかはいまはどうでもいい。昔のいい音楽を残していきたいという思いが一番」と言っている。

Apple MusicにBest of Haruomi Hosonoを公開中。


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