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ブックレビュー ”国道16号線 「日本」を創った道”

国道16線は東京の中心部の外郭を回る環状道路で、神奈川、東京、埼玉、千葉の4都県7市町にまたがっている。三浦半島から、房総半島までをぐるりと回すと総延長は約350キロにも及ぶ。

本書はその国道16号線にとりまく歴史や事実を多くの参考資料と現場検証により15年間蓄積して来た柳瀬博一さんがまとめられたものだ。切り口は、明治時代から現代まで、その成り立ち、地形、日本の音楽、日本史、カイコとモスラからコロナ禍で都心から郊外へ居を移す育児世代の家族の新しい動きまで幅広い。これだけ幅広い内容を網羅するには並大抵の知識では実現できない。

柳瀬さんは2018年まで日経BP社に勤めていたが、当時からTV東京の「未来世紀ジバング」やTBSラジオに出演するなど今でいう副業をやっていた方だ。現在は東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授としてメディア論を教えられている。日経BP時代から人的ネットワークも幅広く、神出鬼没なところもある。

実は本書の著者である柳瀬さんとは二度ほど面識がある。一度目は私が参加した某社主催のHR Roundtableのゲスト講師としてお越しになって、本書でも何度か紹介されている「流域思考」をレクチャーして頂いた時で、二度目はその流れで同じメンバーで小網代の森を訪問、柳瀬さんが案内してくださった時だ。

その後もFacebookでフォローさせて頂いており、いつもその好奇心の旺盛さと博覧強記の様子から、「まだまだ不勉強だなあ」と自己反省されられることが多い。

そう言えば、一度私がジャクソンブラウンの日本ツアーバンドのギタリストであるヴァル・マッカラムが昔TV映画で有名だったナポレオンソロのイリア・クリアキン役を演じていたデヴィッド・マッカラムの息子で、育ての親は実母のジル・アイランドと継父のチャールズ・ブロンソンであることをFacebookでアップしたところ、「凄い話ですね」とご返事いただいたのを記憶している。

私にとって国道16号線で想い出があるのは、妻の実家が以前あった横須賀、そして現在住んでいる川崎市からたまにショッピングに出かける町田/座間周辺、務めている会社の寮があった新小岩から柏・松戸・八千代市辺り、会社の事業所があった相模原市と市原市・袖ヶ浦から木更津市辺りだ。八王子、埼玉県から野田市の周辺はほとんど土地勘が無い。

それでも柳瀬さんが幅広い切り口を深堀するリズムは軽快で読み心地が良く、土地勘が無い地域についてもとても面白い。正直映画「跳んで埼玉」の背景は整理して理解しようとしたことは無かったし、また先の「流域思考」の部分が頻繁に登場するので少し嬉しく思った。

とはいえ音楽好きの私にとって、柳瀬さんの切り口で最も面白かったのは、やはり第3章の「戦後日本音楽のゆりかご」の部分だ。

私が自分のお小遣いで買った二番目のLPレコードである大瀧詠一の「ナイアガラ・ムーン」は当時彼が住んでいた福生で録音されたのを知っていたし、同時期の細野晴臣の「ホソノ・ハウス」は狭山で録音されたものだとは知っていたが、それを16号線と絡めて考えたことは無かった。

ましてや八王子出身のユーミンから横浜に吸い寄せられるように広島から上京した際に途中下車した矢沢永吉、さらには、カントリーウエスタンでデビューしたかまやつひろしや米軍キャンプでミュージシャンとして活躍した大手芸能プロダクションの社長達、新しくはクレイジーケンバンドまでもがこの16号線から生まれていたとは...(ユーミンがかまやつさんに渡したレコードがプロコルハルムかBSTか気になります!英国趣味だったユーミンから言うとプロコルハルムの方が首尾一貫性がありそう。)

ただこの流れから言うと、「ダウンタウンブギウギバンド」も出てくるかな、と期待したがそこには触れられずじまいだった。宇崎竜童は東京出身だが、バンドメンバーの和田静男は横浜出身だし、代表曲に「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」があるので、16号線に関係するのではないかと思ったのだが...

あとがきにある通り、柳瀬さんはこの本で16号線研究を終えるつもりはさらさらなくて、noteでも「国道16号線の話。」を立ち上げられている。まさに柳瀬さんのオンゴーイングプロジェクトでありライフワークなのだ。今後もしっかりフォローしていきます。


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