あとがき(2)

今まで述べてきたことは、海外事業の経営に関する実務論即ち戦術論と言っても良いでしょう。私はマーケティングの専門家と組んで仕事をしていますが、このパートナーも戦略とともに戦術が重要であるとの基本的な考え方のもと、Hands On(実務重視)のコンサルティングを行っています。皆さんは日々の海外事業運営の中で常に「何をどうする」という実務上の課題に直面されていると思います。それらの仕事は決してレベルが低いものではなく、戦略実現のために欠くべからざる仕事であるという認識をもって頂きたいと思います。

田坂広志氏は、その講演「目の前の現実を変えるために必要な7つの知性」(YouTubeで視聴できます)の中で次のように述べておられます。
『民間企業でこういうことをおっしゃる方がいる。何かの議論で、「うーん、それは戦術レベルの問題だろ?」と。あたかも戦略が非常に高度で、戦術レベルというものはたいした話じゃないというようにおっしゃるわけだ。しかし、戦略参謀もしくは戦略マネージャーとして歩み続けてきた私自身の現場感覚で申し上げると、むしろ戦術思考のほうがよほど重要だと言える。
たとえば、私はかつて日本総合研究所で異業種連合のコンソーシアムをつくってきたが、そこで戦略を語っているときはラクなんだ。「スマートグリッドでこういう実証実験をやろう。真ん中に電力会社を置いて、あとはメーカーさんとゼネコンさんとシステムインテグレーターさんに集まってもらおう」といった戦略を立てること自体は簡単だし、わくわくする。
でも、ある段階から、「さあ、どうする?」という話になる。我々は趣味で戦略を議論しているわけじゃないので、実行しようとなった瞬間、まさに戦術思考の段階に入る。では、戦術思考とは何か。間違っても、「大きなものが戦略で小さなものが戦術」という話じゃない。戦術思考とはすべて「固有名詞」。「真ん中は電力会社」と言うなら、具体的にはどの電力会社にコンソーシアムへ参加してもらうのか、と。その際、どの部署の誰に話をするのか。そうした固有名詞が出てこない限り現実は動かない。』

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