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エレキギター始めてみたchp4「大人の音楽教室②」

まさか自分が音楽教室に来るとは・・・少しこっぱずかしい。
受付を済ませ、体験レッスンの時間までロビーの端っこに座って待つ。
おそらく生徒さんであろう人達が数人座っている。
ギターケースを持った若者達。サックスを練習している年配の男性。
ご婦人が二人で談笑している。
「同じ年齢くらいの人もいるなぁ。」少し安心する。

「こちらへどうぞ。すぐに講師がまいります。」
廊下の一番奥の教室に案内された。
初めて入った音楽教室の中を、子猿のようにキョロキョロ見回す。
真っ白な壁に無数の小さな穴があいてあり、一方の壁は全面が鏡張りになっている。教室の隅に、見たことがない大きなステレオのような機材とスピーカーがある。
数本の高そうなエレキギターが壁に掛けられている。
初心者セットとはひと目で違いが分かる立派なアンプが、床にドンと置かれている。ボタンとダイヤルがいっぱいだ。
音楽教室には大変失礼だが、こんなに本格的だとは思ってなかった。
「こんな立派な設備で練習できるのか!いったいどんな音がするんだろう!?」
50歳。表情には出さないが、心の中は大はしゃぎだ。

講師の方がいらっしゃった。
「はじめまして。体験レッスンの申し込みありがとうございます。」
「猪丸です。よろしくお願いしまシュ。」
噛んでしまった。
お互いの自己紹介と雑談もそこそこに早速レッスン開始だ。
今日の体験レッスンで弾く楽譜を頂いた。下にTABが書かれている。
「まずは一弦づつ弾いて、その後簡単なコードを3つ弾いてみましょう。」
壁のエレキギターを借りる。
ピックの持ち方とピッキングは簡単な説明で終わった。
「私に続いて弾いて下さいね。はい6げ~ん!」
「♪ジャ~ン!」
さすがは先生だ。クリーンで迫力満点!とても綺麗だ。
先生に続いて弾いてみる。
「♪てぃ〜ん」
情けない。大の大人が無意識のうちにビビッっている。立派な設備とアンプに申し訳ない。
「力まずに~。はい5げ~ん!」
「♪ジャ~ン!」
何度も繰り返し練習しているうちの少し緊張がほぐれてきた。音が出るようになってきた。
いい音がなると楽しい。

「はい。とてもいいですよ~。コードいきましょう!」
3つのコードをひとつづつを習って何度も繰り返し練習する。
次に楽譜の順番通りに弾いていく。
とてもゆっくりなテンポなのに、全然着いていけない。
(本当に簡単なコードなのか?!)
先生が「A~C~D~A~・・・」と声に出して一緒に弾いてくれる。
全然上手くいかない。押さえるフレットを間違える。左手を気にしすぎて、右手がお留守になる。力み過ぎて正確な音が出ない。
心の中でコードの順番をつぶやく。
(A・・C・・D・・A・・・)
「そのまま続けて~。」
スピーカーから曲が流れてきた。聴いている余裕なんてない。
人指し指と薬指の移動だけで必死だ。綺麗な音を意識する余裕がない。
ふと正面の鏡を見た。必死の形相をした自分と目があった。
深呼吸した。

3つのコードをつぶやきながら、何度も繰り返しているうちに押さえるフレットは頭の中ではわかってきた 微妙にズレるものの左手が間に合うようになってきた。相変わらず右手は違う弦を弾いてしまうが、なんとなく形になってきた。
(たん・たん・たん・たん。たん・たん・たん・たん・・・・)
スピーカーから流れて来る曲を聴ける余裕も出て来た。なんとか合わせれるように、いつの間にか頭を軽く上下させてリズムを取っていた。
「はい!出来ましたね~。今日の体験レッスンはこれで終了です。」

駅のホームで帰りの電車を待つ。
体験レッスンは楽しかった。
先生が途中何度もアドバイスしてくれた。
今まで吹奏楽なんてしたことがない。小学校での演奏会くらいだ。
今日の体験レッスンでは、初めて曲に合わせてエレキギターを弾いた。こんなにも楽しいものだとは思ってなかった。

電車が来た。
ギターケースを背負った青年が降りてきた。
「もっと若い頃にギターと出会ってたらな・・・。」
エスカレーターで上がって行く青年の後ろ姿に小さな親しみが湧く。

「もしもし。入会お願いします。」














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