神童•那須川天心の凄み

2022年4月2日、国立代々木競技場第一体育館にて
RISE ELDORADOが開催された。

那須川龍心のプロデビュー戦、や志朗、ベイノア、鈴木真彦、原口健飛の参戦など豪華なラインナップだが、なんと言っても格闘ファンが見たいのはこの一戦だろう。

那須川天心 VS 風音

名門TEPPEN GYM所属の同門対決であり、この試合は神童•那須川天心のRISE卒業という大きなイベントと共に、TEPPEN GYM会長の那須川弘幸氏が風音のセコンドにつくという複雑な仕掛けがなされていた。

そんなこともあり、RISEの興行としての売り文句としては、人気漫画『刃牙シリーズ』に準えて
【史上最大の親子喧嘩】と名打った。

そんな神童の卒業式について考察していこうと思う。

①親子喧嘩の表と裏
②天心に6•19は見えていたのか?
③喧嘩を止めるべきであったRISE
④神童の本当の偉業

①親子喧嘩の表と裏

まずこの試合について考察するには『親子喧嘩』はどういった意味をなしていたのか?そして親子喧嘩の裏側ではどんな影響を及ぼしたのか?を認識する必要がある。

まずは親子喧嘩の本質的な意味を捉える。

那須川天心がRISE及び世界のキックボクシング界で名を馳せたのは間違いなく父:那須川弘幸氏のサポートあってであろう。2014年のプロデビュー以来、46戦無敗の記録を打ち立てた天心はキックボクシング界の宝『神童』と呼ばれた。
この喧嘩はある種、『神童』という作品を創り上げた那須川弘幸氏が、自分の魂の結晶を破壊するという
格闘技界に必要な創作のサイクルを展開しようとした意図が感じられる。

後述するが、那須川天心以降のスター誕生が待たれるRISEにとって、象徴:那須川天心を破壊することこそ団体としての価値の維持•向上に繋げたかったのだろう。

結果としては、その創作のサイクルは失敗に終わったのだが、ネガティブな要素はそこだけなのだろうか?

私は志郎にとってはネガティブインパクトであったと感じる。

志郎は2019年にもRISE世界トーナメント(-58kg)で那須川天心と試合をしており、2021年の再選と合わせて、2度判定負けを喫している。

2021年は判定負けとなったものの、お互い有効打は少なく、立ち回りと経験の差で那須川天心が勝ったようにも見えた。
そんな志郎も今年で29歳になる。まだまだトップファイターだが、完熟の今こそ那須川天心との再再戦を望んでいたのではないだろうか?

②天心に6•19は見えていたのか?

6•19。この日は日本、いや世界の格闘技界の歴史に残る1日となるであろう。
ついにK-1王者:武尊と神童:那須川天心が向き合うのだ。

2021年12月24日。この一戦が決まり、多くの格闘ファンが湧いたと共に幾つかの疑問やどちらが優勢か?どちらが勝つか?などの論争が起こった。

この論争に口を出すつもりはないが、私は2021/12/04から2022/06/19までの間に2人がどのような調整をするのかが気になっていた。

武尊はエキシビジョンマッチとしてK-1のフェザー級王者:軍司泰斗と試合を行い、撃ち合いになりながらも順調な仕上がりを見せた。武尊にとっては那須川天心との一戦に備えた58.0kgでの戦いと、試合感を取り戻すという点において重要な一戦となったであろう。

一方那須川天心は6•19までの試合調整は今回の風音戦のみとなっている。

-契約体重は55.0kg
-親子喧嘩がフューチャーされ過ぎてしまい感情的な試合運びになる。
-試合中も狙いが見えず、判定のポイントを取るのがうまい天心が圧倒した。

これは実戦での調整としてはあまりにもチープであろう。

また、那須川天心はこの期間、最高のパートナーである父:那須川弘幸氏と共に時間を過ごしていない。

結果は拳を交わられてから分かることだが、世紀の一戦に向けて多くの格闘ファンは失望と心配という感情で溢れかえっただろう。

また那須川天心の体つきや計量、会見などらしさが見えず、体調面での不安要素が目立った。

なんといっても6•19は万全の状態で迎えて欲しい。
そう願うだけだ。

③喧嘩を止めるべきであったRISE

Abema TVでの生放送で気になった発言がある。

総合格闘家の青木真也さんが言っていた言葉。

「那須川天心からの卒業」

まさしくRISE ELDORADOは那須川天心に依存していた団体としての決別と門出であると言える。

さあ、決別は必然的に起こることだが、“門出”はうまくいったのであろうか?

RISEの思い描いていたストーリーとしては

・カリスマ性のあるスターの誕生

であろう。

今回の大会ではどうか?
以外、ポイントとなる試合とその評価をまとめてみた。

-那須川龍心(評価:▲)
那須川天心の弟という、ある種十字架を背負いながらリングに上がった那須川龍心だが、試合運びは丁寧で的確な打撃が目立った。しかし、まだデビュー戦ということで期待感は持てるが、那須川天心の抜けた穴を埋めるのはまだ先のことであろう。

-中村寛(評価:▲)
前回の試合はYA-MANに判定負けを喫したものの、その打撃の強さは健在。しかし、タイトルがないことやアウトローなタイプの選手ということもあり、団体を支える上では重要な人物だが、団体の顔となり背負えるようには見えない。

-YA-MAN (評価:●)
中村寛に勝ち、RIZINでも皇治に勝ったことで名を馳せたYA-MANは今大会も伊藤澄哉相手に圧巻のKO勝ちを収める。
壮絶な過去も持つなどストーリー性としては十分。ここからのし上がっていく姿を見たいと思わせる選手の1人である。
あとはタイトルという実績が伴えばRISEのニュースターになれるであろう。

-白鳥大珠 (評価:▲)
白鳥大珠はRISEが那須川天心とともに推してきたスター選手である。甘いマスクと強さは絶大な人気を誇るが、最近は翳りが見えている。
2019年RISE WORLD SERIES(-61kg)で優勝、2021年RIZIN ワンナイトトーナメントで優勝するも、
2021年には原口健飛に負け、ベルトを剥奪されるとともに、直樹にも敗戦している。
人気はあるだけに結果が必要である。

-海人 (評価:●)
RISEのチャンピョン、ベイノアからKO勝ちを収めた海人。一撃で倒すなど最高のインパクトを与えた。
6•19での参戦期待される。

-志郎 (評価:▲)
江幡塁相手に強烈なハイキックをかまし、KO勝ち。しかし、那須川天心に勝ててないという印象が先行してしまう。

-鈴木真彦 (評価:●)
鈴木はまだ25歳と若く、才能に溢れている。
今大会でも6•19でのビッグマッチを希望しており、
K-1王者、金子晃大を指名した。このマッチメイクが実現し、完勝したらニュースターとなるだろう。

-原口健飛 (評価:●)
1R KOという圧巻の内容であった原口。今後のRISEの顔に1番近いのは彼だろう。

以上、長々と批評をしたが、スター候補はいるものの明確なスター選手がいないRISE。

親子喧嘩を止めるべきであった、、、は比喩だとしても
ニュースターの発掘が遅れればキックボクシング団体としての価値が低下することは明確だ。

④神童の本当の偉業

神童•那須川天心はキックボクシング46戦無敗という大記録を打ち立て、世界中から注目されている存在である。

この記録以外にもフロイド•メイウェザーとのボクシングマッチや堀口恭二に判定勝ちを収めたことなど様々な偉業を成し遂げている。
しかし、本当の偉業はそこにはない。

本当の偉業は

“見えない敵”と戦い続けた数年間で身体的にも精神的にもパフォーマンスを維持させたことである。

那須川天心にとって武尊との試合は久々に刺激のある試合であろう。
それもそのはず、ここ数年間は絶対的王者として来る敵を跳ね返す作業が続いていた。

それゆえにメイウェザーとのマッチメイクを組み、挑戦者としての刺激を求めていたこともある。

この“見えない敵” =見えない目標と目的 という難敵に対してここ数年間、戦い続けながらも、試合では高いパフォーマンスを見せて勝利を収める。

これは常人ではできないことであろう。
それゆえに多くの国内で天下を取った格闘家は海外の団体への参戦や他競技への転向をするが、那須川天心ほど多くのものを背負わされて団体の上に立ち続けた男はいないだろう。

那須川天心は6•19以降、ボクシングへの参戦を表明している。
結果がどうなるかは想像もつかないが、キックボクシングを1人で背負ってきた男の門出と新たな未来に期待したいと思う。

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