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道具雑記/ハタガネ讃歌

さて、この道具を何と説明しようか?

地味で…
使うところが限られていて…
乱暴に扱われて…
いつもどっかしら錆びていて…

…ああ…だめだ…なんだか気が重くなってきた


 でも、私はこの道具が好きだ。カッコがいいとか、使い勝手がいいとか、そんな次元のことではなくて、なんか存在そのものが好きというか、「ハタガネ」という名前にも惹かれる。
 そもそも、この道具をなんで「ハタガネ」というんだろう。 英語風にいうとクランプということになると思うが、私にはこのハタガネという響きがたまらない。
 
 それにしても、つくづく地味な道具だと思う。鋭く切断するような刃も持たず、華麗に溝を切るビットがあるわけでもない。ただただ締めるのみ。複数の部材を締めて圧着させる、それだけである。具体的にいうと、板をはぐ(幅の狭い板を張り合わせて広い板をつくる)、箱物やイスを組み上げるときに要所を締めて圧着させる、など。どちらかというと、部材をギュウギュウと拘束し、一見、いじめているようにも見える。例えば、チェストを組み上げたとき最終的なチェストの形は見えてくるわけだが、その周りを何本ものハタガネが、寄ってたかって締め上げている…初めて見る人はあまり良い印象をもたないかもしれない。
 でも違う、彼らは悪者じゃない。
 彼らは、たとえば、美しい蝶が生まれる前のサナギの殻に似ている。しっかりとした家具を作り上げるための殻。彼らは何もしゃべらず、その仕事を黙々とこなす。カンナの刃なら、切れなくなると「研げ!研げ!」と騒いで仕事をしなくなる。鋸の刃なら、へそを曲げて使い手の意図とは別の方向に行こうとする。でも、ハタガネの彼らは、ただ黙々と仕事をするのみ。そして、家具を家具たる形に仕上げてくれる。
 
 と、ハタガネ讃歌はそれくらいにして……このハタガネ、実際に使ってるときは水浸しになることが多い。締めた部材同士の接合部分から木工ボンドがはみ出すので水バケで洗うのである。そのために濡れて錆びるわけだが、冬になって仕事が暇なときなどは、暖かい薪ストーブの前で、そのサビ落としをする。今、うちの工房には60本程あるので結構一日がかりの仕事になるが、その間、過去一年間の仕事を振り返ったりするよい時間となる。そして、錆でザラザラになっていたハタガネの肌がツルツルになると、何とも言えない満足感を覚える。と同時に、この道具、大切な自分の味方という気持ちがさらに強くなる。ありがとう、ハタガネたち!
                                         (2010年頃)

写真/ハタガネでサイドテーブルを組む

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