見出し画像

小室進行ボカロ曲投稿祭2023秋参加楽曲『てがみ と 綴』設定、解説など

はじめまして、きりはらきずきと申します。

今回参加させていただいた「小室進行ボカロ曲投稿祭2023秋」に出した「てがみ と 綴」という楽曲について解説さていただきたく思います。

まずは、この投稿祭を主催してくださったキンカセンさん、参加された皆さん、改めて本当にお疲れ様でございました。同じ小室進行ではあるのに、作り手が違うだけでこんなにも幅があるものなのかと驚きながらも、インスピレーションを受けまくっております。

さて、今回私がいただくのはこのようなnoteを書くに至った経緯としては、単純にみんなに知ってもらいたいというクソデカ欲求が生まれてしまったからです。
前置きもそこそこに早速解説していきたいと思います。





『てがみ と 綴』のテーマとリファレンス

まずはどんな曲か、初見の方は一度聴いてみてください。聴け(豹変)。

今回のテーマは「大人になるということとは。子供の自分と大人の自分の対比」です。

まあ、クサいですよね。
「大人」というテーマを題材にした楽曲は沢山ありますし、それぞれの作者が「大人とは」の答えを出しています。そんなテーマで現在の自分なりの答えを出したのがこの楽曲となっています。

リファレンスについてですが、2つあります。

1つ目は、2015年にTwitter(X?なにそれ)にて投稿されたイラストがあります。

にいちさんという方がツイートされたこちらのイラストなのですが、この楽曲を制作する前にふと思い出して、投稿にある3枚目の空白を自分なりに解釈して曲を書いてみようと思ったのが始まりです。
このイラストいつ見てもエモいよね。なぁ?

また、この投稿の約5ヶ月後に、作者様本人によるアンサーが投稿されています。それには「理解のある彼くん彼女ちゃん概念」が登場しますが、その辺に関してはまた後述します。

2つ目は自分の実体験です。
未来の自分に手紙を書こう」という授業が小学5年生か6年生の頃にありまして、その時に純粋な気持ちで手紙を書いていたことを思い出しました。
2〜3年くらい前に小学校の卒アルを見返していた際、その手紙が出てきたため開封したところ、その内容に正直ムカつきました。あまりにも世間知らずだったので。

とまあ、リファレンスについてはこの2つです。曲から発想を得るボカロPが多いと思いますが(自分もそのうちの1人です)、今回はTwitterのイラストと実体験から基づいて設定を練っていきました。



てがみパート歌詞解説

ここからは楽曲を分解して深く解説していきます。

まずは子供が歌っているてがみパートです。

てがみ と 綴MVからのスクショ

「おげんきでいますか?
おからだのほうは、だいじょうぶですか?
大人のわたしは、まい日たのしくすごしてますか?

こどものわたしはせがいちばん小さいけど、
大きくなってたらうれしいです。
すきな人は、もうできましたか?
ゆめをかなえてしあわせにいきてますか?

大人になるっていうのは、
こどものわたしにはわからないけど、
きっといまのわたしより、
すてきな大人になれてますように。
ずっとたのしくすごしてください。
こどものころのわたしより。」

こちらがてがみパートの歌詞になります。
リファレンスのイラストの女の子の年齢よりも幼い印象を受けると思いますが、子供の無責任な大人への憧れや純粋な心を表現するために狙って幼くしました。
ボイスは秋田のクソガキ東北きりたんを使用しています。

動画のテロップと歌詞で少し差異がありますが、こちらは仕様となっています。動画師の「手紙なら拙くてもちゃんと文章然とした方がいい」という意見を反映しております。
ちなみに動画に出てくる手書きの部分は動画師の直筆です。

子供はいつだって無責任。だけどそれでいい。まだ子供なんだから。

ちなみに自分は小学校の頃から学年で背が1番デカかったです。



てがみパート曲解説

次に、伴奏やコード進行などの解説をしていきます。

てがみパートのキーはF(ヘ長調)となっています。
このFというキーはCと共に子供向けの合唱曲や童謡などで1番多く見られるキーだと個人的に思っています。
影の無いハチャメチャに明るいキーであり、ピアノだと黒鍵が1つだけなのですごく弾きやすいかなと思います。

子供の純粋さを表すためにピアノはシンプルな4つ打ちで、こちらも合唱曲によく見られるカノン進行を用いております。
各コードも7thなどの大人っぽい要素はほとんど使用しておりません。例外としてB♭sus2が出てきますが、こちらは子供の背伸びした感じを表現しており、和音が少しぶつかることで不器用さも同時に表現しております。伝わってたら嬉しいな。

ピアノの音作りに関して、ピアノのアタックを落として、少しこもったような音作りをしております。こちらは子供の力でピアノを一生懸命弾いていること、そして大人に対しての解像度の低さを表しています。
子供は親や学校の先生からしか大人を認識することが出来ないと思います。そして、多くは子供目線からは素敵な大人に見えているかと思います。そんな人生経験の少なさをピアノの音で表現してみようとして、このような音作りとなっています。

ここからが重要なのですが、カノン進行をしている中で異様な雰囲気を放つコードがあることにお気付きになりましたでしょうか。
実はFというキーに本来存在しないAというコードが2箇所出てきます。
1つ目は「すきな人はもうできましたか?」の太字の所がAとなっております(ここは厳密に言うとA/C♯ですが)。2つ目は「すてきな大人になれてますように」の太字の箇所です。
何故、この部分にAを用いたかと言うと、後に解説する綴パートへの伏線のためです。
Fの中でAを鳴らすと、今までずっと明るい中だったのが、少し陰が差したような印象になります。
明るく、大人の自分の期待に満ちた歌詞ですが、未来はそんなに明るくないよという伏線を伴奏で張っています。
そしてサビのラストでクリシェ(ベースが半音ずつ下がっていく進行)が出てきますが、こちらも伏線です。「ずっとたのしくすごしてください」の部分がクリシェとなっています。
クリシェでAとは別の陰を落として、大人はあまり楽しくないよということを伴奏で表しています。

文章にすると思想がダダ漏れですね。大丈夫、俺思想は弱い方だから……。



綴パート歌詞解説

さて、ここからは大人のアンサーの部分です。

てがみ と 綴MVからのスクショ

いつからだろう 夢を忘れ
ただ生きているだけになったのは
ごめんなさい あなたの夢を
もう叶えてはあげられません

私は思ってたより弱くて
自分の殻に籠るのが上手かった
好きな人もついに出来なかった
本当に本当にごめんなさい

あの頃の輝きが石ころに変わり始めた
元から宝石など持っていなかった
あんなに夢見ていた 片時も忘れなかった
「素敵な大人」にはなれはしなかった

諦めずに頑張って
残ったものはこの虚しさと苦味
大人になるってきっと夢を忘れた時なんだろう

大人の私よりも子供の私の方が
ずっと素敵だったと今更思うよ
こんな現実なんて棄ててしまえたら良かった
でも死にたくないから今日も生きています

「こんな形でしか、答えられなくてごめんね。
きっと夢はこれからも叶わないかもだけど、
こんな暗い曲で、こんな歌なんかで良ければ
届けることが出来たら、きっと幸せです。

お手紙ありがとう、大人の私より。」

こちらが綴パートの歌詞になります。現在の自分と、この曲の主人公目線でのアンサーです。
リアルな20代の病みや、子供の頃の夢を叶えてあげられなかった後悔などを綴っています。

前述したてがみパート曲解説での伏線が歌詞によって回収されています。

「すきな人はもうできましたか?」
        ↓
好きな人もついに出来なかった

「すてきな大人になれてますように」
        ↓
『素敵な大人』にはなれはしなかった

「ずっとたのしくすごしてください」
        ↓
こんな現実なんて棄ててしまえたら良かった

と、陰を孕んだコードで張った伏線をこんな風に回収しています。
子供に聞かせるにはかなり暗くて絶望的な言葉ですよね。ましてや希望に満ちた過去の自分になんて。

この曲の主人公は人生に失敗したんです。
頑張っても頑張っても夢の背中どころか気配すら感じられなくて、それでもどうしても諦め切れない自分が居て、だけどもう時間も気力も無くなってしまった。夢を追えなくなったのは時間と気力のせい、そういう口実で夢を諦めてしまったのです。
そんなことをいつしか忘れてしまって生きているのも辛くなってしまった頃、ふと引き出しからぐしゃぐしゃになった1枚の手紙を見つけます。
読んでみると、そこには大人への憧れと希望と夢を持った子供の頃の自分の姿がありました。主人公はそんな過去の自分に涙を流して謝罪をし、大人の自分から回答を贈ります。「こんな暗い曲で、こんな歌なんかで良ければ」と歌詞にある通り、主人公の夢はシンガーソングライターになることでした。

夢は必ずしも叶うものではないという自分の思想がモロに出てますね。最悪です。

リファレンスの項で前述した、「理解のある彼くん彼女ちゃん概念」ですが、にいちさん本人によるアンサーでは、「諦めきれない想いがあって、背中をそっと押してくれる人もいて、だから、もう少し夢を忘れずにいようと思います。」とあります。
自分はこの曲の主人公には孤独で居て欲しくて、生きたくもないのに死にたくもないという矛盾を抱えて欲しくて、誰もこの子のことを理解させたくなかったのです。
理解のある彼くん彼女ちゃん概念は取り入れるだけで物語っぽくなりますが、リアルにはそんな都合のいい人が必ず居る訳ではありません。なので、この子を独りぼっちにしました。あと単純に自分がその概念を好きじゃない。

大人に夢を見た少女は、夢を見たまま大人になった。だけど、見ていただけでそれは叶わなかった。
人生って、世知辛いですよね。



綴パート曲解説

ここからは綴パートの曲の方の解説をしていきます。

このパートからキーが下がってC♯m(嬰ハ短調)になります。
分かりやすくここからはEと表記しますが、このEというキーはメジャーだと前向きで力強い印象を受けますが、マイナーになるとかなり切なくダークな印象に様変わりする二面性を持っています。

自分はこのEの小室進行が数あるコード進行の中で1番好きなのです。「あ、この曲好きだな」となった曲が大体キーがEでサビが小室進行だったりします。
そんな自分の中で1番好きな要素を取り入れて、大枠を組み立てていきました。

また、小室進行というのは非常にメジャーな進行であるため、どんな曲でも安定するという側面を持っていると自分は考えています。
その「安定」を「停滞」と言い換えて、夢を忘れてただ生きているだけとなった綴パートを制作しました。

そんな「停滞」している綴パートは、AメロBメロはあまり起伏の無いシンプルなメロディーですが、サビのメロディーはかなり感情的で激しくドラマチックな感じになっています。
何故かと言うと、この曲の主人公の激しい後悔や、夢を叶えられなかった絶望、現実への葛藤が表れているからです。
AメロBメロでは抜け殻みたいになった自分を嘲笑するような平坦なメロディー、サビでは爆発するような感情と激しい雷雨のような後悔をぶつけるようなメロディー。その対比を描きたかったんです。
それらを表現するため、ボイスはおっぱいがでかい狐子を使用しています。狐子は感情的な表現がとても得意なのと単純に見た目が好きだし何よりエロい自分の曲に最も合うボイスなので、愛用しています。

ピアノの音作りに関して、てがみパートでは少しこもったような音になっていましたが、綴パートではアタックを上げて、力強く鍵盤を叩いて鮮明に聴こえるような音作りをしています。
何故かと言うと、大人になって現実への解像度が上がってしまったからです。そのせいでMIXが大変だった。
大人の世界は辛くて厳しくて、自分はこんなにも弱いことに絶望して、大人の自分から見る子供の自分はあまりにも眩しすぎて、まるで宝石のように光り輝いて見えている。でも今の自分には輝きすらないし、元から宝石なんて無かったんじゃないかと葛藤して、今にも押しつぶされそうな感じを出せていればいいなと思います。

てがみパートではシンプルな4つ打ち伴奏でしたが、綴パートでは4つ打ちをベースとしながら段々激しく、時々16分のアルペジオが出てきたり、終盤では1オクターブ上がったりなど、曲の展開や主人公の心情に合わせてどんどん変化していきます。
プロトタイプでは全編4つ打ちだったのですが、これではあまりにも退屈だと思ったので頑張りました。

コード進行もただの小室進行ではなく、

C♯m7Aadd9Bsus4E

と、このように7thやadd9を用いることで、最終的にEで解決はするけど、少し宙に浮いたようなコード感となっており、ずっと夢を宙ぶらりんにしていることを表現しています。
マイナーとメジャーがカッチリハマった王道な小室進行も良いし、こんな浮いたようなコード感の小室進行も良い。小室進行は無限大の力を持つコード進行だと思います。これがお手軽エモ進行です。



まとめ

この「てがみ と 綴」という曲は、自分の中でも特に大切な1曲となりました。
TwitterのリプライやYouTubeやニコニコのコメントで暖かい言葉と感想をいただき、本当に感謝しています。ありがとうございます。

そして、長文乱文となりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
もし解説で気になった点などあればお気軽にTwitterまでお問い合わせください。

気が向いたら、過去曲や新曲が出た時に記事を書こうと思います。

ではでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?