マイスイートメモリーズ
甘い痛み、という言葉がある。
しかしこれは、甘く熟れた果実ほど、猛毒になり得るというだけの話に過ぎない。
甘さは痛みに変わる。
むしろ、痛みを伴わない甘さなど存在しない。
これは、
人間が愛する人と出会い、かけがえのない時間を過ごし、そして別れるというこの世界にあまりにもありふれたその事象ーーそのものの話だ。
もう戻れない過去について。
私は愚かにも、それがもう戻らないものなのだと気づくまでに、多くの時間を費やしてしまった。
過去は戻らない。
空は青い。赤信号は止まれ。ミルキーはママの味。それはそんなものと同等に自明の事実である。
しかし人は、過去は戻らないという事実だけは、容易に信じることはできない。
それは敗北を意味するからだ。
何への?
いや、それは…自分で考えた方が良いよ。
本当に大切なことは誰にも教えちゃいけないんだって。誰も知らないから、それはこんなにも光り輝く宝物なんだよ。
そう言ったのは、愚かで可愛かった頃の私だ。
あの頃の私は、強く望めば何もかも手に入ると本気で思っていた。
根拠のない自信に満ち溢れ、常に危うく、強かだった。
あの頃の私は、強く望めば何もかも手に入ると本気で、思っていた。
しかし、ついに君だけは手に入らぬままだった。
その剥き出しの魂があまりにも綺麗で、怖かった。
思えば最初から、終わりの予感に満ちていた。
なのに。
だから。
具体的なことは、だからここには書かない。書いてやるもんか。
未だ脳裏に焼き付いている君のどんな素敵な瞬間も、絶対に絶対に絶対に描写しない。
教えたらあなたの人生が変わっちゃうもの。
そんなのは癪だから。
君に何かを伝えることは、もうずいぶん前から諦めている。
どんな言葉を選んでも、すべてを溢さず伝えることは不可能だからだ。
伝えたいことがあまりにもあるせいで、何も伝えられないなんて、笑っちゃうよね。
もう君はいないけれど、あの時確かに私は一人じゃなかった。
私は一人じゃなかった。
その事実が、今の私を生かし、そしてゆっくり殺してる。
君がいて嬉しかったんだ。
では。
明日から無敵の私。
アデュー。
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