ネコゴコロとヒトゴコロ その4


わざとする

 パソコンのキーボードの上にわざと乗ってきてくつろぐ猫に困った経験はありませんか?猫が乗りたがるのは、キーボードだけではありません。たたんでいる途中の洗濯物、読んでいる途中の新聞紙、時には掃除中のロボット掃除機の上でだってくつろいでみせたりします。
 彼らはなぜわざと邪魔をするような行動をとるのでしょう。
 第一に考えられるのは、私たちの気を引くため。
「んもう、どいてどいて」と叱っても涼しい顔。結局、ブラッシングをさせられたり、遊びにつき合わされるのがオチなのですが、それでも憎めないんですから困ったものです。
 そんな彼らの人間コントロール術は、私たちも大いに学ぶべきところがあります。
 やり方は意外と簡単。猫たちと同じようにわざと何かすればいいのです。
 例えば会社の同僚と仲良くなりたいのであれば、書類などを渡すついでに、わざと相手から何か私物を借りるのです。それなりの理由をつけて、相手が愛着を持っていそうなペンや腕時計を借りましょう。それだけでOK。
 猫の示威行動と同じように、自分の存在を相手にアピールすることができます。でも、それだけではありません。
『拡張自我』という心理学用語があります。人は自分だけでなく、自分の持ち物や自分に属する物までを自分であると思う傾向があるのです。特に、愛着を持っている所有物は、もはやその人の一部分になっていることさえあります。
 その人の一部になるのは物だけとはかぎりません。家柄や学歴、肩書なども『拡張自我』の対象になります。定年退職したお父さんの中には一気にしょぼくれてしまう人がいますが、それは拡張していた自我が一気にしぼんでしまったような気がするからなのでしょう。
 また、愛犬や愛猫を失ったあとにペットロス状態になってしまうのも、自分の一部を失ってしまったような気持ちになるのが原因だと思われます。それだけ『拡張自我』には強い愛着があるということ。

 それだけに、相手の物を借りることは特別な意味合いが生じます。愛着のあるものに触れるということは、その人に触れるのと同じ効果が生まれるからです。相手と握手をしたりハグするのと同じ効果があるということ。握手やハグをすると、互いに親しみが増しますよね。心を許し合う関係にもなれます。『タッチング効果』ともいいますが、ふれ合いにはそれだけの力があるのです。
 でも、握手はまだしも、ハグをするのは日本人としては抵抗があります。
ハラスメントの問題もあるので、おいそれと触れることはできません。それが物を借りるだけでできるのがこのテクニックの特筆すべき点。愛着のあるものを貸し借りすることで、2人の間にある越えられない壁をいとも簡単に消し去ることができるのです。
 だめ押しに、返却の際は借りたものをホメること。相手は自分がホメられたようで嬉しくなります。しかも、直接本人をホメるわけではないので、お世辞に受け取られないという利点も。是非お試しを。


 

  

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