岸田政権の防衛産業振興策は失敗に終わる


例によって有識者がいない「有識者会議」です。

防衛力強化で30日に有識者会議 メンバーに中西京大院教授ら―政府
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022092201215&g=pol

> 政府は22日、防衛力の抜本的強化に向けた「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の初会合を30日に首相官邸で開くと発表した。メンバーには中西寛京大院教授や翁百合日本総合研究所理事長らを選んだ。
>有識者は次の通り。
 上山隆大総合科学技術・イノベーション会議議員▽喜多恒雄日本経済新聞社顧問▽国部毅三井住友フィナンシャルグループ会長▽黒江哲郎元防衛事務次官▽佐々江賢一郎元駐米大使▽橋本和仁科学技術振興機構理事長▽船橋洋一国際文化会館グローバル・カウンシルチェアマン▽山口寿一読売新聞グループ本社社長。

 この中で経済安保、防衛産業、サイバーなどの分野、特に海外の事情に通じた本当のエキスパートはいません。失礼を承知で申し上げれば現場や最前線を知らない「偉いジジィ」ばかりです。

 岸田政権は安全保障にまともに取り組むつもりはないのでしょう。防衛産業に関して言えば、海外の実態を知っている商社のOBを入れるべきだったでしょう。
 逆に言えば当局は民間の知恵をあてにしていないということでしょうが、では行政、政治が関わってきて現在の惨状を是としているのでしょう。
 
 その「有識者会議メンバー」の山口寿一読売新聞グループ本社社長の読売新聞の記事です。親分が有識者会議のメンバーのためか、
まるで官報です。

防衛装備品の輸出「国主導」で推進、国家安保戦略に明記へ…防衛産業の立て直し図る
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220924-OYT1T50271/

>政府は、年末までに改定する国家安全保障戦略に、防衛装備品の海外輸出を「国主導」
で推進する方針を明記する調整に入った。政府が外国との受注交渉に全面的に関与し、防
衛関連企業への財政支援を導入する方向だ。事実上の企業任せだった手法を転換し、輸出
拡充を図る。

 そもそも政府、防衛省含む官庁に軍事産業の取引や振興のエキスパートはほとんどいないし、数少ない改革を志したエキスパートはパージされました。まるでソ連崩壊語のロシアで市場経済の専門家なしで、経済を再生しようとするかの如くです。 

>03年以降、100社超が防衛分野から撤退した。
>政府は自衛隊以外への販路拡大を助け、防衛産業の経営基盤を強化する必要があると判断
した。

>装備品の輸出や技術供与は許可制だが、現在、相手国との受注交渉などは主に企業が行
っている。官民一体で交渉に臨む外国との競争に敗れることも多く、交渉段階から政府が
積極関与することで、官民で売り込む体制を目指す。

そもそも官の側にそういう経験のある人材は皆無ですし、やる気もありません。実は現在の海外の軍事見本市への防衛省のパビリオンにはぼくは多少関わっていました。
ですが、装備庁は義務的にブースを出すだけでパビリオンで「店番」しているだけです。
他国のブースやカウンターパートに接触して、積極的に情報をとるとかは殆どしていません。パビリオンでバンケットやって装備庁長官や偉い議員の先生招いてシャンパンで乾杯するのが仕事だと思っています。

>企業への財政支援策としては、相手国の要望に合わせた装備品の改良や仕様変更が必要
な際、費用の一部を企業に支援する制度を創設する案が有力だ。売却後も、企業による継
続的なメンテナンスと合わせ、装備品の使用について自衛隊による教育・訓練を行うこと
も検討する。

そもそも他国の何倍も高く、品質や性能が低い装備が売れるわけがない。
官の側に装備開発を指導する当事者能力がありません。
あれば軽装甲機動車を主力APCにするとか機関拳銃や小銃擲弾を開発、装備化しません。

企業の方に海外市場に打って出るつもりがありません。例えば軍用トラックはい可能性がある最右翼ですが、メーカーにその気はない。いすゞにしてもトルコの合弁企業ではタトラベースの軍用トラックを生産している体たらくです。
軍用トラックも企業が多すぎます。それを統廃合する気は未だに全く無いでしょう。
こういう現実を「有識者」会議の皆さんはご存知ないでしょう。

>3原則の運用指針は、移転する装備品の用途を救難や輸送、警戒監視などに限っている。
護衛艦や戦闘機などは輸出できず、輸送機や車両などが想定される。今後、こうした制約
の緩和の検討も進める見通しだ。

そもそもこの規制ザルです。本来禁止されていたウクライナへの防弾装備供与はNSCの一声で可能となりました。であれば規制は何だったのか、ということになります。いい加減なスキームだったということです。そのようないい加減さで、新しいスキームができるものですか。

またそういう規制撤廃にしても企業にやる気がありません。

>米政府は、米企業製の装備品を同盟国などに有償提供する「対外有償軍事援助(FM
S)」制度で輸出を増やしている。交渉は政府間で行い、トランプ前米大統領は積極的に
「セールス役」を務めた。必要な訓練などもパッケージで提供する。経団連は4月、防衛
省に「日本版FMS」の創設検討を要望していた。

米国の制度はある意味特異なわけですが、それすらも知らずにそれを猿真似しようしている。例えば英仏独、ロシア、UAE、あたりのシステムを研究することが先でしょう。
例えばヨルダンは国営兵器工廠は一種の投資会社で、現業は海外のメーカーと組んだジョイントベンチャーが行っており、輸出も増やしています。
経団連なんて「軽くてパーな神輿」だった経営者の上がりの「象の墓場」ですよ。彼らに見識なんてあるはずがない。


防衛産業振興についてはぼくが2005年、いまから17年前に東京財団の委託で政策提言として上げています。
「国営防衛装備調達株式会社を設立せよ」
http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2005/01023/pdf/0001.pdf


その序文とエグゼクティブサマリーを紹介します。

■■序 文
我が国は過去長期にわたり、世界第二位の「軍事費大国」であった。この「軍事費大国の意味するところは、多額の防衛費用を使ってきたが、それに見合うコストパフォーマンスが得られていないということを意味している。
諸外国の相場からみれば3倍~10倍といった法外な兵器、装備の単価が放置されてきた。しかも防衛用の研究開発費は諸外国に比べて少なく、また試作品などの製造数や試射なども非常に少ないにもかかわらずである。
しかもそれらの兵器、装備は有事、準有事に際しては法的には殆ど使用できかなった。それは防衛庁・自衛隊が単なる一行政機関でしかなく、我が国に有事法制がなかったことに起因する。ヘリボーン作戦も、落下傘降下も、陣地の構築も、戦闘機の民間空港使用も、野戦病院の設置も、遺体の仮葬も認められていなかった。護衛艦はいまだ臨検も許可されず、航空自衛隊は敵の爆撃機が領空内に侵入してきても爆弾を投下するまで、攻撃ができなかった。
つまり、自衛隊が防衛のための行動を行うと、その活動の殆どは違法行為になる。有事の際、自衛隊の現場の指揮官は法に触れても、自己の使命を果たすべきか、はたまた公務員として法律の遵守をし、国民が目の前で殺され、祖国が侵略されるのを傍観するしかなかった。 故金丸信長官時代には事務次官が「防衛出動が発令されていない場合、目の前で国民が殺されても自衛隊は救出をしてはいけない」信じられないような旨を公式に発言している。
このような状態では自衛隊がまともな軍事ドクトリンを構築し、それにそった合理的かつ、実戦的な装備体系、低コストで装備を調達するといった意識を持つことは不可能であった。2004年に亡くなった元統合幕僚議長の栗栖弘臣氏は1978年に、「有事に際しては自衛隊が超法規的に行動する可能性がある」と述べた。所謂「超法規的発言」である。
これは正に防衛庁・自衛隊の存在の根元に関わる問題であった。この発言が問題ありとして同氏は統幕議長を事実上解任されたが、氏の主張はまさに正論であった。
ところが政治の場では、氏の意見は省みられることはなく、その後も防衛問題は与野党の国会対策の取り引き材料としか認識されてこなかった。また他国の国防相に当たる防衛庁長官は単なる一年生用の大臣量産ポストとしてしか認識されず、ほぼ半年ごとに交代してきたため、防衛庁・自衛隊を監督することができなかった。このため自衛隊の管理は防衛庁の背広組と言われる内部部局任せであり、政治家が防衛庁・自衛隊を掌握するという本来の意味でのシビリアン・コントロールはなされてこなかったのである。
このような環境が防衛庁・自衛隊の意識、常識を大きく歪め、世界の軍事常識から遠く離れた独自の「常識」を持つに至った。まともな法的環境下での軍事的立案が出来ないのであるから、空理空論の防衛計画がまかり通ってきた。例えば74式戦車は国鉄(現 JR)の貨車での輸送を前提にそのサイズが決定されたが、自衛隊が有事に国鉄の車輌を利用できるという根拠になる法令はなく、また国鉄職員が有事に自衛隊の装備輸送のために働かなくてはならないといった法令もなかった。旧陸軍には鉄道連隊があり、参謀本部の動員課では有事に備えて鉄道ダイアの作成をおこなっていたが、陸上自衛隊にはそのような部署も機能もない。つまり空理空論の上に具体的な装備の開発、生産、運用を行ってきたの
である。
また、先の戦争では陸海軍の反目が敗戦の大きな要因だったにも関わらず、統合幕僚会議は単なる三自衛隊調整機関とされてきた。このため三自衛隊の互いの協力体制が全くと言っていい程整備されてこなかった。
このような無責任な環境下で、自衛隊は装備の調達に関しては高価で見栄えのする正面装備の購入に偏り、それを効率的に使うための兵站、指揮通信システム、ソフトウエアなど見えにくいものには、費用をかけなかった。また、最新式の兵器が導入される反面、維持費だけは莫大にかかる半世紀も前の米軍供与兵器がいまだに使われている。高価な正面装備も調達後に技術の進歩にあわせて改良、近代化されることも殆どなかった。更に、他国では将兵に供与するのが常識であるセーターなどの基本的な被服さえ支給されてこなかった。
つまり、自衛隊は戦争を前提にデザインされた軍隊ではなかったのである。
なお、本論では必要と思えるもの以外、防衛庁・自衛隊用語ではなく、軍事用語を用いる。これは本論が英訳を前提として想記しているため、用語を変換することによるニュアンスの変化を防ぐためである。また日本語においても誤ったイメージの固定を避けるためである。例えば「兵站」を「後方」と呼ぶとイメージが全く異なる。だが、英語にすれば同じ logistics である。また巡洋艦、駆逐艦、フリゲイト、コーベットなど各種の水上戦闘艦を「護衛艦」とひとくくりし、諸外国から誤解を招く語句も多い。
小泉内閣になり、やっと有事法の制定を始めとして、多数の改革が次々と行われ、石破前防衛庁長官の言う「存在する自衛隊から行動する自衛隊」へと変化が始まった。


本論では、更に防衛費の合理的な活用と、コスト削減とコストパフォーマンスを追求するために防衛庁と防衛産業界の間に、株式会社形式の防衛装備調達会社(JDEC、Japan Defense Equipment Corporation Ltd.仮称)の設立を提言するものである。
なお、本論は学術論文ではないこと、および一般国民にも読みやすい形にするため、一々脚注を付けることは行わず、参考文献などは末尾に添付してある。

■■エグゼクティブ・サマリー
防衛装備を効率的に調達するために、防衛庁と産業界の間に防衛装備の調達に対して全ての責任を負う国有の、株式会社形式の防衛装備調達会社(JDEC、Japan Defence Equipment Corporation Ltd.:仮称)の設立することを提言する。
官庁は生産効率や人件費、時間=費用というコスト意識が希薄である。防衛庁と防衛産業界は天下りなどを含め、過度の癒着関係にある。また防衛産業は防衛庁の厳しい統制下におかれており民間産業としての自由度が少なく、実質的に国営企業化している。このため生産効率が極めて低い。
そこでコスト意識を持ったもち、民間企業的手法や PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ、官民の連携、Public Private Partnership)、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ、Private Finance Initiative)などの手法も活用するなどして、防衛費の抑制と効率的予算の執行を目指す。また FMS(対外有償軍事援助、ForeignMilitary Sales)含む防衛関係の対外交渉や兵器や軍事品目の輸出入の管理を防衛装備調達会社に一元化することにより行政の縦割りを排する。
防衛装備調達会社は経営者に民間人を迎え、防衛庁・自衛隊、経済産業省、外務省、国土交通省、民間企業、特に防衛部門を持つ商社や金融機関などから広く人材を登用する。
省庁からの採用にしては採用者が出身省の省益にこだわる出向という形は避け、転職と言う形をとる。防衛問題は防衛庁のみならず複数の官庁が関わってくるため、所轄官庁は内閣府とする。これにより縦割り行政の弊害を防止する。また契約本部技術研究本部、防衛施設庁などを一部ないし、全部、防衛装備調達株式会社に組み込む。
つまり我が国の防衛安全保障分野において広い意味での民営化を行い、防衛行政、防衛産業の効率化を行うわけである。
政府の財政事情を鑑みれば今後防衛費の拡大は難しく、中長期的にみて防衛産業は不況業種であり、既に防衛産業から撤退している企業も出始めている。そこで防衛装備調達株式会社の下に、今後維持が難しい企業の防衛部門や特殊な技能持った下請け企業を集約して子会社する。また業界再編を行い、政策的に重要な企業に関しては政府が黄金株を保有しこれを支配する。さらに兵器、装備の調達だけではなく、情報の収集・発信、広義におけるマーケティング、訓練、教育、整備機関などの運営、人材派遣、アウトソーシングなど行い幅広分野で、民間手法の導入を通じてコスト削減を行い、防衛費を抑制する。



■本日の市ヶ谷の噂■
作家、故大藪春彦氏の末期の作品は、床井雅美氏らがゴーストで執筆との噂。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?