Trovatoreさんの質問「志賀原発1号機の基準地震動600ガルは解放基盤表面での地震動だそうですが、解放基盤表面から地下2階の床面までの地震動の伝達を計算し、それを地下2階床面に入力して建屋全体の揺れを計算したうえで耐震性を評価するという手順なのか。北陸電力広報担当者の発言の意図はそのようなものか、それとも建屋全体が600ガル以下で揺れているという意図だったのか」への回答 世の中の素人は、専門が耐震解析でない研究者・エンジニアでも、地震加速度の三次元的空間分布や実際の耐震解析・耐震補強の知識は、ない

質問

2024年3月17日 19:53
Trovatoreさんからの質問
志賀原発1号機の基準地震動600ガルは解放基盤表面という地下の仮想的な表面での地震動だそうですが、解放基盤表面から地下2階の床面までの地震動の伝達を計算し、それを地下2階床面に入力して建屋全体の揺れを計算したうえで耐震性を評価するという手順なのでしょうか。北陸電力広報担当者の発言の意図はそのようなものだったのでしょうか。それとも建屋全体が600ガル以下で揺れているという意図だったのでしょうか。

回答

耐震解析の手順はそのとおりです。

たとえば、東海第二原発では、
・解放基盤面(地下370 m) 1009 gal.(振動周期0.02秒の値、振動周期依存性地震加速度応答スペクトルあり)
・原子炉建屋地下二階床面(地下10 m) 486 gal.(振動周期0.02秒の値、振動周期依存性地震加速度応答スペクトルあり)
・原子炉建屋三次元的地震加速度分布解析
 多質点系耐震解析コードの入力として、原子炉建屋モデル化と地下二階床面の振動周期0.02秒の486 gal.の振動周期依存性地震加速度応答スペクトルを与え、計算し、各階各領域の振動周期依存性地震加速度応答スペクトルを計算します。
 ひとつ階が上がると振動周期依存性地震加速度応答スペクトルの絶対値は、約20 %増加、ですから、四階床面では、地下二階の振動周期依存性地震加速度応答スペクトルの約二倍(0.02秒の値は、約1000 gal.、0.1-0.3秒の値は、2000 gal.)、屋上では、振動周期依存性地震加速度応答スペクトルの四倍(0.02秒の値は、約2000 gal.、0.1-0.3秒の値は、4000 gal.)になります。
・各階各領域の機器・配管の耐震補強解析
 つぎに、各階各領域の機器・配管の耐震補強のための計算入力は、その機器・配管の幾何学的モデル化とその階・領域の振動周期依存性地震加速度応答スペクトルを与え、機器・配管の各部位に生じる変位・応力・ひずみを計算し、耐震補強の仕方によって、変位・応力・ひずみが最小になる補強条件を求め、実際の現場では、補強材(支持構造材、油圧シリンダ、メカニカルスナバー、アンチロックなど)を計算条件どおりに組み込みます。
・日本の原発の一般論としての耐震解析・耐震補強の総費用
 一基約500億円。

記事の表現から、北陸電担当者は、志賀原発2号機の原子炉建屋全体が最高600 gal.で設計されていて、それ以下なら、耐えられると考えているように読み取れました(志賀原発1号機の場合、実際は、四階床面で、0.02秒の値で約1200 gal.、屋上で約2400 gal.)。
世の中の素人は、専門が耐震解析でない研究者・エンジニアでも、三次元的空間分布や実際の耐震解析・耐震補強についての知識は、ありません。

参考文献
耐震設計理論は『原子力耐震工学』(鹿島出版、2014)参照。
私の「耐震論」についてはnote本欄バックナンバー記事・写真参照。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?