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梅ふふむ、春信と荷風と千葉の旅 2022年2月26日

 真夜中のタイムラインに、千葉市美術館さまのツイートを見つけました。
 世界に二点しか現存しない鈴木春信《夜の梅》がご覧頂ける稀な機会です、前回は十五年前、次はいつになることか‥。
 スマホの画像にも、それは何とも妖しき趣き。肉眼で実物を見るしかない‼️千葉には子どもの頃に行った記憶があるだけですが、これは行くしかないでしょう。

市ヶ谷駅からの釣り堀、行ってきます

 近々行かねばと思っていたのです、千葉には。
 敬愛する小説家、永井荷風の人生の終焉の地が市川でした。江戸川の川辺に、遠く空を見る荷風の写真が遺っています。預金通帳を入れたボストンバックを手に持って。
 丁度、中公文庫の『葛飾土産』を読みはじめたところでした。
 錦糸町、新小岩、市川、船橋。小説に登場する地名は、今まさに千葉に向かわんと乗り込んだ総武線の沿線なのでした。
 11時に市ヶ谷から新小岩で急行に乗換え、昼前には千葉駅に到着しました。まずは腹ごしらえ、腹が減っては歩けません。駅ビルのベトナム料理屋さんでカオマンガイをいただきました。

デザートのマンゴープリンも美味し

 千葉市美術館には徒歩で15分程度とのことですが、千葉市モノレールがあるので乗ってみることにします。葭川(よしかわ)公園駅まで二駅の短い旅でしたが、東京モノレールとは違う吊下げ式なので、なんとなくゆらゆら感、空中散歩で街を見る感覚がありました。途中「人妻A子」と云う看板が、とても気になりました笑。

千葉モノレールに乗ります
県庁前行きに乗ります
サフェージュ式懸垂型モノレール、というそうです

 葭川公園駅前は、どこか手塚治虫チックな近未来デザイン。美術館通りを5分程歩いて行きます。

 千葉市美術館は中央区役所との複合施設で、展示室だけでなく、ホール、アトリエ、講座室などがあり、観るだけではないアートへのアプローチが愉しめるようです。

元は銀行だったビルディング

 一階にはホール、喫茶室、ミュージアムショップ。7階、8階が企画展示室とのこと、エレベーターで上がります。

ジャポニズム、世界を魅了した浮世絵

 ジャポニズムと云われる作品とその原点となった浮世絵作品を同時に鑑賞することで、西洋の美意識を大いに揺り動かした浮世絵独特の視点に気付くことができました。素晴らしい展示です。

 北斎の波のダイナミックな誇張。橋脚を中心に捉え、橋の上下にある時間を同時に描く広重のすみだ川。花火を、鳥を、まるで空中から描いたかのような視点の遊び。降る雨を描くことは、それまでの西洋画には殆どなかったそうです。

 そして、黒。静かでありながら、何ものにも染まらぬ強い色。
 いよいよ目的の作品、鈴木春信の《夜の梅》と対面です。

鈴木春信《夜の梅》

 ‥‥‥‥。
 言葉がありませんでした。

 ひんやりとした夜風を首すじに感じて‥深い深い夜の闇に咲く白梅に手燈を向けて眺める遊女のように、いつしかわたしもふうっと顎を上げてしまうのでした。
 何を思うのか、誰を想うのか‥。
 夜の闇は、悲しみを食べてくれるのでしょうか。

 朱の色が、また良いのですね。ゆらゆらと揺れる小さな灯りと、梅と女と。 
 朱の濃淡のゆらぎで、黒い夜がより深く、ぴったりと静止しているように見えました。夜の怖さでもあり、優しさでもあるように。

 《夜の梅》が展示されている壁の丁度向かい側の壁にもう一つ、鈴木春信の作品がありました。広間の角と角に離れていながら、惹かれ合い、見つめ合うかのように。

鈴木春信《雪中相合傘》

 同じくメトロポリタン美術館所蔵の《雪中相合傘》です。この絵もだいすき。揃って観ることが叶い幸せです。
 《夜の梅》とは対照的な白の背景、雪の世界ですが、やはり男性の外套の黒、女性の帯の黒が画面を引き締めています。
 黒という色の美しさを、浮世絵人は使いこなしていたようです。

ロートレック《ル・ディヴァン・ジャポネ》

 春信の黒に触発されて描かれたであろう、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの作品です。
 わが母はこの絵がとても好きだったようで、物心ついた頃から、複製画とともに暮らしていました。狭いマンションの壁に、いつも黒衣のマダムの横顔がありました。今も実家に居ることでしょう。
 ポストカードを買いました。久しぶりに、母にお便りしようと思います。

 浮世絵と、そこから発想を得た絵画と。並べての鑑賞はとても面白いものでした。絵師にも画家にも、それは幸せなひとときだったのではないでしょうか。 

 モノレールできた道を、感動に浸りながら歩いて帰ります。歩けば喉が渇きます。

千葉の地酒が愉しめる駅ナカBAR

 千葉駅構内に、千葉の地酒を揃えたお洒落なBARを発見しました。
 一杯目は、舞桜こだわり純米「チーバくん」。
 二杯目には、夜の梅を思いつつ、「梅一輪 純米酒」をいただきました。

市ヶ谷、夜の釣り堀に粘る人あり

 夜の帷は下りて、市ヶ谷駅に戻って来ました。

 夜の梅枕の下に手を入れて 清瀬

 愉しい大人の遠足、千葉篇はこれにて終了でございます。次回は、荷風の足あとを追ってみたい。モノレールの先にも乗ってみたい。そしてまた、美味しい地酒をいただきたい。
 ちょっと遠出の美術館、行く価値有りです。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。またお会いできますように。

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