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自然共生地域支援とは

私の研究室では「自然共生地域支援」というキーワードを用いて授業や研究を展開しています。改めて、そのキーワードを用いている背景を説明してみたいとおもいます.

自然とそうでないものの区別はない
まず、私の自然との関わりに関する考え方の源流には「霊長類研究」があります。人間は、霊長類(ニホンザル・チンパンジーなどのサル類)から進化したと考えられています。ヒトとは何か、社会とは何かを考える上で、人に近い霊長類の行動生態を参照するという手法は、人や人社会を直接みることではわからない気づきを与えてくれます。

霊長類の行動や生態を研究する方法は主に2つに分かれます。一つ目は、自然界に棲む彼らのありのままの姿を観察する方法。2つ目は、実験条件下での彼らの行動を観察する方法。それらの結果から真理を導き出します。私は前者の、野外で自然環境の中で生きる彼らの行動から生態について学んできました。そこで私が最も気づかされたことは、人も動物も皆、自然を構成する一部であるということです。私以外の他者、人間以外の生きも、つまり多様な種が多様で複雑な関わりをもつ社会が「自然」だと思っています。

法律で自然を保全しようとなると、境界が必要となり、「国立公園」とか「○○保護区」といった区分が生じてきますが、個人的には、ここからが自然、ここからが人工物、といった区分をつくることは難しいのではないかと思っています。六本木ヒルズは人工物でできていますが、ヒルズを構成する敷地内にはたくさん樹々や草花が自生したり植樹されたりしており、それらは自分たちの力で花を咲かせたり実を実らせたりしています。人為的に持ち運ばれた樹々や草花は「自然」じゃないと思われるかもしれませんが、野生動物たちが生きる世界では、樹々は種を落とし、野生動物たちに運んでもらったり、果実は動物たち食べられて様々な場所に運ばれます。人が自然の中の一部だとすると、気に入った苗を育て、運んで好きなところに植える。それも自然の一コマだと考えます。

自然から私たちは何を「享受」しているか
六本木ヒルズには木通(アケビ)が植えられていました。ちなみにこれは食べられる果実です。ですが、これは誰にも食べられずに、ただ実っていました。人々はそのアケビの実をみて「変わった実がなってるな」とか、綺麗な花だな、と思っているかもしれませんし、アケビの実を見ても何も感じずに通り過ぎているのかもしれません。私たち人間以外の生き物に対して人がどのような反応をするか。これは、過去の「私」以外の生き物との関わりの多寡と関わっているように思います。

 少し前の時代は、多くの人々は周りに存在している種々の生き物と不断の関わりをもっていました。春になると筍を掘り、花々を摘んで家に飾り、たきぎや薪を拾ってきて煮炊きをするなど、加工される前のありのままの生き物を利用していたといえます。一方、都市部にも樹々や花々は存在しますが、それを摘んでいいのかがわかりません。つまり、そうした多種多様な生き物の所有者がわからない=私たちにとって利用可能なものかがわからないのです。そういう意味では、生き物との関わりがほとんどなく、その利用可能性を実感しないまま、「自然を大切にしよう」と言われても、無理がありますね。

自然共生地域支援
矢口芳生は「共生システム論」の中で,「共生」とは,人と「自然」とのコミュニケーション(自然および生態系のメカニズムに「統合」されること=環境的持続可能性)と,人と「人・社会」とのコミュニケーション,社会・社会環境が創り出す自然・自然環境と自然・自然環境と社会・社会環境とが織りなす土地柄=「風土(文化)」と人とのコミュニケーション,これら3面の融合を前提にした協創の「場・地域」のもとでの労働様式(協働)のことであり,その労働様式に基礎をおいた生活様式(協生)のことである.としています。人と自然とのコミュニケーションをどう高めるか(自然を大切にしよう、触れよう運動のような)、という一面に囚われるのではなく、人および人社会・自然・文化を生み出す風土との連動のあり方を考えることが、共生の営みだと思っています。

その観点で、人と社会と自然と文化とが織り重なった生活が続いている地域が、自然共生地域であり、そうした暮らしが成り立たなくなっていくことに危機感や課題意識をもっている人々を支援することが、自然共生地域支援だと考えています。自然と共生することが埋め込まれた地域に立ち、私はどのようなものに反応するか。その感性をその場にいる他の人々と共有し、違いを知ることが、いずれは自然や社会における「共生」の多様性を生み出すと考えています。

したがって、私の研究室では、自然と関わりの深い地域に自身の身を置いて、そのフィールドで感じることを、大事にしています。

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