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持続可能な社会づくりと自然共生

 「持続可能な開発(発展)」に関する理念には,2つの潮流があるとされています.ひとつは「世界自然資源保全戦略(1980年)」に示されたもので,生態系や生命維持システムの保全,生物多様性の保全,種や生態系の持続可能な利用という自然や環境を適正な水準に保つことを前提としているもの.ふたつめは,開発途上国における人間の基本的ニーズに基づく参加型開発や「持続可能な開発」論の流れを発展させたもの.です.
 その理念が様々な国際会議を通じてブラッシュアップされ,実践のステージにあるのがいまの時代だと考えられます.

 日本では世界の潮流からやや遅れる形で,環境省が中心となり「持続可能な開発(発展)」の実現が進められてきました.2007年6月に策定された「21世紀環境立国戦略」でも,地球規模での環境問題の深刻化を,地球温暖化の危機,資源の浪費による危機,生態系の危機の3つの危機として捉え,これらを克服して持続可能な社会を構築する必要があると述べられています.

 持続可能な社会とは,「健全で恵み豊かな環境が地球規模から身近な地域まで保全されるとともに,それらを通じて世界各国の人々が幸せを実感できる社会を生活を享受でき,将来世代にも継承できる社会」だという.この実現のために,「低炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」これらへの統合的取り組みを,関係者の参加と協働により行い,持続可能な社会の「日本モデル」を構築するとした.
                以上、21世紀環境立国戦略(H19年度)より 

 ここで「自然共生社会」が出てくるわけですが,ここでは,自然の恵みと享受が継承できる社会を「自然共生社会」とされています(私は,この考え方自体に,人間と自然との間の距離を感じてしまいますが.「自然共生地域支援とは」を参照).ただ,重要なことは,統合的取り組みであるということです.

私たち人間も地球という大きな生態系の一部であり、地球によって生かされている という認識の下に、統合的な取組を展開していくことが不可欠である。自然との共 生を図りながら、人間社会における炭素も含めた物質循環を自然、そして地球の大 きな循環に沿う形で健全なものとし、持続的に成長・発展する社会の実現を図るべ きである。
                以上、21世紀環境立国戦略(H19年度)より 

 低炭素社会,循環型社会,自然共生社会を統合的に進めていくためには,矛盾する部分も出てくると思います.その矛盾をどう乗り越えるか(解決するか),同時に達成できるような解を見つけ出せるかということが持続可能な社会づくりの肝とも言えるでしょう.また,それらはひとりで達成できるものではなく,当然,人々と協力し合って進めていく必要があります。ですので,持続可能な社会づくりを念頭においた自然共生社会の達成には,自然の恵みや享受の感性を育むだけでなく,矛盾を解決したり,相互に学び合う態度が醸成されていることが求められます.私は,身体的なアクティビティを混ぜたワークショップが,こうした態度の醸成に有効なのではないかと考えています.

 近年はSDGsの認知が進み,国内外でSDGsに関連した活動が進められていますが,私は,「持続可能な社会」という言葉に違和感を感じています.「持続可能な」という言葉は,社会ではなく「地球」に接続してこそ,地球によって生かされている という認識の下に、統合的な取組を展開していくことが可能になるからです(この点は,同研究科の松岡広路先生からのご教示).また,持続可能な「社会」と言われると,人以外の生き物は排除されている(あるいは境界がある)感じを受けます.
 持続可能な地球を意識した社会づくり,となるとなんだか大きすぎて自分ごとと考えられなくなりますが,考えるクセをつけることから始めてみるしかないのかなと思います.

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