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     初心に戻って


 私は時々、日本語教師になりたい方や、なりたての方に、アドバイスを差し上げる講座を行っているのですが、先日たいへん感心したことがありました。

 その方はまだ養成講座も始めたばかりで、「て形」や「た形」などの文法用語はもちろん、何から教えたらいいのか分からない状態だったのですが、知り合いの方に頼まれて急に日本語を教えることになりいささかパニック状態のようでした。「先生の本を買ったのでそれを使って教えたいのですが、最初に何を言えばいいんでしょう、やっぱり最初はひらがなをおしえないといけませんか?」と私のほうに問い合わせをしてくださいました。

 教える対象の方は、仕事のために日本に住み始めたばかりの方でまだかんたんな挨拶ぐらいしかしらないとのこと、また、完璧に日本語をマスターしたいのではなく、日常生活に必要な日本語が話せるようになりたいとのこと。それならば、最初は生徒さんがすぐ使いたいフレーズの練習をして、その後は生徒といっしょに学ぶような気持ちでテキストブックを1課から説明をいっしょに読みながらやっていけばだいじょうぶですよ、とアドバイスをし、最初の1,2回分のレッスンの教え方を簡単に紹介しました。
 講座の終わりには、明日は緊張します~と笑顔でおっしゃっていましたが、翌日のレッスン終了後には早速レッスンがうまくいった、また継続したいと言われたとの報告してくださり、わたしもほっとしました。

 「しばらくは先生の助けが必要です~」とおっしゃってその後も2回、3回と指導させていただきましたが、レッスン後に話を伺ってみると、日本語を教えるだけでなく、玉子焼きの作り方を披露したり、買い物についてのアドバイスもしたとのことでした。また、テキストブックをかなり飛ばしてやや複雑な文を教えたそうです。そんな難しい文法をもう教えちゃったんですか!と私が思わずびっくりしてしまったのですが、生徒さんには大好評だったようで、つぎからつぎへとその仕事の友達がレッスンを申し込まれ、しまいには生徒さんたちの働いている会社から、出張費を払うか来て教えて欲しいとまで言われたそうです。

 日本語を基礎から教えるというようなとかしこまった授業ではなく親身になって助けてくれるおばさん(というにはかわいすぎるかたなのですが)という感じが生徒さんたちには受けたのではないかと思います。

 思い出してみれば、わたしも最初の頃はそんなことがよくありました。日本語教師になりたての頃はどんな文法が難しいのかきちんと把握していなかったので、生徒のリクエストに応えるまま未習の文法や語彙をランダムに教えていました。また、日本在住の生徒さんたちとは、よく一緒に買い物やレストランに行って実践練習もしたものでした。
 不思議なことに、教える回数が増えれば増えるほど、文法の説明が上手になるのに反して、型破りな事をしなくなってきたような気がします。

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 もちろんその方も、便利なフレーズを超えて文法の活用などを教えるときには、壁にぶち当たってしまうかと思いますし、プロの日本語教師として教えるには、生徒が覚えやすいようにカリキュラムを立てるのが必要だと思います。しかし、教える文法の順序が多少ハチャメチャではあっても、生徒の身になって生徒が知りたいことを教えることの重要さをあらためて実感しました。

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