見出し画像

優しい世界の中のリアル 1

新作タイBLドラマ「Bad Buddy Series 」を視聴。

さすがの出来である。
中盤あたりから可愛さがもう止まらない。
しかし可愛いだけでなく、そこにはしっかりとした現実のドラマがあった。
それは僕の中のBL史を更新するものだった。

基本的にタイBLに悪人は登場しない。
みんないい人で、明るくて自信家、いつも笑っていて、他人に寛容な精神を持っている。シリアスさに欠けると言えばそうかもしれないが、そんなお国柄?雰囲気はBLとの相性がめっちゃ良い気がする。
ナチュラルに、やさしい世界を作ることができるから。

優しい世界とは、差別が無く、温かで、人が自分らしくいられる世界。
僕にとってはファンタジーでしかない世界観だけど、それを実写のドラマで大真面目にやっているのがタイBL。そしてそれは着々と進化を続け、世界中に伝播している。

近年話題を呼んだ「2gether」はBLでありながらもはや普通のラブコメになっていた。
同性愛に付き物の葛藤や性愛のタブーが一切描かれず、LGBTという言葉さえ無い世界線のお話のようだ。そんなあらゆる障壁のない世界で、皆が恋に一直線に進んでいく。
これまでのタイBLとは決定的に異なっていると感じ、衝撃的だったのだが、僕はいまいちついて行けずにいた。だって現実ではなく理想郷だから。妄想の世界の話に思え、人間では無くただのキャラクターに見えてしまった。

しかし、これをドラマでやり切る意味は感じる。
たぶん、そんな矛盾は分かりきった話で、だからこそ夢を見せている。その夢が現実となるように先陣を切って進んでいるわけだ。
それに、もう古い世界を描くのはもはや済んだことなのだ。常に視聴者は新しい世界を欲している。
それから、さらに言うならば、実際のクィアに対する配慮とも言える。済んだ話を繰り返されることは、本人たちにとってはかなり鬱陶しいもので。たとえば今更悲しいゲイの物語を演じられても、ダサすぎるし、過去を蒸し返すなという気持ちにもなる。悲劇は過去の話で、過渡期の限定的なものであり、いつまでも悲しい話を繰り返すことはむしろ再生産につながる場合もある。

「2gether」以降の世界では、クィアへの差別や葛藤を描くことができなくなった。
ひとつに、新しい理想の世界を描くことは大きな意味がある。次に、僕らが古い過去を繰り返すことを望んでいないから。「2gether」において元々優しい世界だったタイBLが完全体になったように思えた。

しかし、「Bad Buddy Seriese」(以下BBS)はまた違う世界を見せる。
それは一見ラブコメであり、しかし現実と地続きのシリアスな愛の物語になっていた。

⚠︎ここからはネタバレ含みます。


ストーリーを軽く要約すると、

主役二人は幼なじみで、家が隣同士にも関わらず、親同士がなぜか物凄く憎み合っている。
そのせいでお互いの感情を表に出せず、友達にもなれず敵同士を演じなければならない。その間、一方はもう一方に好意を持っていたが、親の目がありずっと隠していた。
しかし大学で親から離れて生活するうちに、やがて自然と友達になり、お互いに絆が生まれ、惹かれ合い、恋仲になる。
ただし、大学でもお互い仲の悪い学部同士であり、周りの目を気にして敵同士を演じなければならない。
二人は友達にも知られず密かに愛を育む。
固い絆はやがて周囲を変え、ついに二人の仲は学部生公認となる。

お互いの仲を秘密裏に深める、このクローズドな関係性は、まさに同性愛者やクィアが強いられている人間関係そのものに思えてならなかった。

印象的なセリフがある。

「二人だけの時は隣にいられるのに、誰かがいると、ただ話すことすら命懸けみたいに感じる」

素直に共感できる言葉だ。

注目したいのは、これが同性愛についての言及ではないということだ。

親同士や学部間の対立があり、周囲の目があるところでは関係を隠さなければいけない、といった文脈での言葉なのである。
男同士であるから隠さなければならない、といった意味はまったく含まれていないのだ。
その証拠に、友達や家族に打ち明けるシーンでは全く否定的な描かれ方は無く、特に同性だからと反応を取り立てて描くシーンもない。本人たちも同性であることを気にする様子が一切見て取れない。

上手いと思った。
クィアへの差別が無い、描けない、理想の空想世界においてもなお、差別はあるはずなのだ。それを描くことで、現実に生きる僕の共感も呼び込み、ドラマに一気にリアリティーを感じることが出来た。

なにか不思議な感覚にもなった。
過去の生々しい悲劇を描くことが禁じられた世界で、空想の嘘の悲劇により、もう一度かつての悲しみを追体験させられるような。
しかし不快では無かった。
だって実際に世界中では、未だにそれは繰り返されているから。きっとまだ、忘れるべきでは無いことだから。

後半のストーリーはもっと革新的だ。
これまでおよそBLでは描かれなかった女性差別についての話が出てくる。


、、、めちゃくちゃ長くなりそうなので、2につづきます!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?