夏に殺される

この記事は、実際に人の命を奪う可能性がある。
決して記事の内容が悪いわけではない。しかし、読む前に、読めば心を壊す可能性があるという事前注意が欲しいし、読んだ後には精神的なフォローが欲しい。まぁ読まずとも、センセーショナルな見出しの時点で防ぎようがないのだけど。
これ、若者や子どもが読んだら結構な割合で自死する人が出てくると思う。

なぜなら、僕も自死しようとした経験があるから。

一回目は高校生の頃。
二回目は大学生の頃。

理由は、自分は生きていても幸せになることはできないと感じたから。
なぜなら、家の中、学校、ネットコミュニティ、あらゆる生活の中で、常に、疎外感を強く感じていたから。

高校生の頃も、大学生の頃も、同じセクシャリティを持つ友達は1人もいなかった。
友達と楽しく話していても、いつも皆のことが怖かった。自分のことをもし友達が知ったら、きっともう彼らと話すことは出来なくなる。そう思い込んでいたから。だから極力友達も作らなかった。詮索されたくないから、人に興味も湧かなくなっていった。美術室や図書館に逃げ込んで一人の時間を過ごすことが多かった。


大学生の頃、ある仲の良い友人が彼女と2人で歩いていた。僕は彼らと自転車ですれ違った。彼らは僕のことに気付いていないようだった。僕は声をかけようかと思ったが、邪魔をしては悪いと思ってやめた。しばらく自転車を走らせるのだが、その友達と彼女のことが頭から離れない。幸せそうな二人は、これからたくさん楽しいことをして、友人にも祝福されて、結婚すれば家族にも喜ばれて、子供が産まれたら二人は新しい家族になる。そんなイメージが頭の中を勝手に巡り出した。
自転車を漕ぎながら僕は気がついたら一人で泣いていた。なぜだか分からなかった。なぜこんなにも惨めな気持ちになるのか、友達の幸せを祝ってやれない自分のことが、物凄く情けなかった。そんな自分が友達と同じように生きられる訳がないと、その時悟った。
思えば、当時Twitterが流行り出した頃だった。Twitter黎明期、みんなが個人的なネタをつぶやく中、友達がゲイを侮蔑するようなネットスラングをよくツイートしていたのを覚えている。僕はそれを目にする度に、自分と家族が否定される激しい苦痛を感じた。ネットの世界でも自分の本心を吐露することが出来なかった。現実でもSNSの中でも友達と普通に接することが僕には無理だった。やがて自暴自棄になり、部屋に閉じこもって大学にも行かなくなった。そして死のうとした。


中高生の頃、一番仲の良かった友人がいた。彼には僕のセクシャリティのことや好きなクラスメイトのことを自分自身もまだよく分からないままに少し話したりしていた。けれど、僕自身もよく分からないのだから、彼もわかるわけがない。変な奴と思われたけれど、彼は優しかったのでよく一緒に時間を過ごした。彼の恋愛相談にも乗ったりしていた。そのうち、僕は自然と彼に恋心を抱くようになり、卒業するまで好きだった。僕は耐え難いほど苦しかった。ようやく作れた友達との関係を自分で壊すかもしれなかったから。自分はまともな人間関係を築くことができないんだと自分を呪った。彼や他の人とも会うのが怖くなって学校に行けなくなった。全てが色褪せて見えて、死にたいと思うようになり、実際に行動した。家族に相談なんて出来なかった。なぜなら、大好きな家族であっても、僕と違う世間を生きていることを知っていたから。世間には僕のような人間はいないことになっていて、もし見つかれば嘲笑われる、そんな現実を家族や友人、テレビやニュースを通していつも目にしていたから。
彼は僕の気持ちに気付いていたと思う。それぞれ大学に進学した後は時々会っていたが、しばらくして疎遠になった。
数年前、彼が結婚したという話を彼と僕の共通の友達から聞いた。相手の方は彼から何度も話を聞いていた女性だった。友達は結婚式に呼ばれていたけれど、僕は式に呼ばれなかった。理由は分からなかったけれど、彼にとって僕は最早生きる世界が違う人間になってしまったんだと思った。僕はそう自分に言い聞かせて、動揺する自分を納得させた。今はただ彼の幸せを願う。


昔の僕は弱かった。
今もすごく弱い。
この強烈な夏の暑さにも殺されそうになっている。



※これは2022年の夏に書いた記事です。

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