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昨日は楽しい夜だった。
画面越しでないとなかなか会えない友人が3年半ぶりに日本に帰ってきて、地元で旧友とお酒を飲んでたくさん話した。

3年半前を思い出して、その頃から変わったことがたくさんあって、みんなで感慨深くなったり、その変化の中で勇気を出したことや傷付いたり傷つけてしまったりしたことを話して慰め合った。

3年半前、私の記憶が正しければ、集まりの中の2人はそれぞれのパートナーと生活するために日本を離れて異国で生活することを決意し、1人は後に夫となる(予定)人と出会ったばかりで、1人はその時お付き合いしていた人と将来を見据えた話をするために少し早く宴会を後にした。たくさんの幸せと可能性を感じさせる日だった。
(自分は何にも変化せず成長もしていないように思うけど、きっとそんなことはないんだと思う。いつも大抵自分のことは卑下してしまうし、正しく客観視はできていない。)

全員揃わなかったけれど集まることができた面々で、3年半前の夜過ごしたのと同じ場所で、同じような食事をして同じようにお酒を飲んで過ごした。話せてなかったことを話し、聞いてもらいたい話を聞いてもらった。長く付き合っている面々なので、ここでしか話せない話がたくさんあり、彼らからしか聞けない意見や励ましがある。
お互いにただただ受け止め合うことができて、恐れずに意見が言い合えるのはとっても有り難いことだなあと思う。

いまだにドラマティックなことがたくさん巻き起こる私の日々を、面白がって、時には叱ってくれる。どこまでも変わり者の私を受け入れて、いつも一生懸命な姿勢を認めてくれる。彼らと会った後はいつも、いつもよりもう少し自分が好きになる。

楽しい夜だった。

*

5月2日に病院に行った時の話。

この日も先生とのやりとりや先生の説明を記録したくて音声を録音させてもらうつもりだった。そのつもりでiPadのボイスレコーダーを開いておき、録音をすぐに開始できる状態にしておいた。また、長谷先生と話したいという母のためにすぐにiPhoneで電話をかけられるように準備をして待合室にいた。待合室では村上春樹さんの新作を読みながら水を飲んで過ごしていた。

番号が呼ばれて(どこの病院もそうなのかわからないが、最近はプライバシーを尊重してあまり名前では呼び出さないらしい)長谷先生の診察室に入った。
挨拶をして母が電話を繋ぎたがってることを伝えたら、「先に診察をしても良いですか」と言われ間も無く検診台のある鍵付き扉の診察室に移動した。
下着を脱いで検診台に座り、検診台が動くがまま私の股が開いていくのをできるだけ平常心でやり過ごす。
あれは何度やっても慣れない。患者と医師の間にあるカーテンもあったほうがいいのか無いほうがいいのか正直わからない。

長谷先生がカーテンの向こうから「長谷です、大丈夫ですか?では中診ていきますね、器具入りまーす」と声をかけてきて、淡々と診察が行われていく。まず器具で視野を確保し、膣内と子宮の入り口の状態を目視で確認する。長谷先生はただ器具のかちゃかちゃとした冷たい音だけが聞こえる時間をなるべく作らないように配慮してくれているのか、単純に状態を実況しているのか、意図ははっきりとわからないけれど、都度話しかけながら診察を行う人で、目視で膣内を確認しながら「多分大丈夫だね、腺がんはほぼ心配いらないと思います」と言った。確実なことはもちろん実際に円錐切除を行なって見ないとわからないのだけど、この一言で大分気持ちに余裕が出る。

確認した部分をコンパクトデジカメで撮影する音が聞こえた。
その写真すごく見たいです、あとで見せてください、と言いかけたけど、一旦黙っておいた。この時お願いしそびれたから、見るチャンスを失ってしまった。

そのあとエコーと触診が行われた。触診の時、先生は「少し直接触りますね。ごめんなさい、失礼します。」と言ってから診察を進めた。
謝ることないのになーと思いながら、丁寧に断りを入れてくれたことに好感を持った。
膣内を触診しながら下腹部を軽く抑える行為を何度が繰り返し、短時間で診察は終わった。おそらく触診では問題のありそうなしこりや腫れがないことを確認していたんだと思う。

診察台がまた動き出す。腰とお尻に当たる部分が元の位置に戻ってきて腰が支えられ、それぞれの脚がのっているフットレストの部分が左右に開いた位置から中央に戻ってくる。自動的に股が閉じていく。
背もたれが倒れていた状態から上がってきて、それと同時にフットレストが下がって行く。身体は傾いて横たわっていた状態から着席の状態に戻り、検診台は椅子の形に戻る。

何回経験してもこの一連の動作が完了するまでの時間は何とも言えない気持ちになる。毎度、危ないから検診台が完全に止まるまで動かないでという指示を受けるけど、正直パッと立ち上がることもできるわけで、機械によって動かされていることがもどかしくて、そして少し滑稽に思える。

ともかくそうして診察が終わり、下着とズボンを履き靴も履き直して元の診察室に戻った。

戻ってから活字で埋められた書類が6、7枚机に登場した。手術の内容説明、各種同意書、手術や全身麻酔についての注意事項、およびリスクについてなど医師の義務として必ず説明しないといけないことが細かく記された書類だった。

長谷先生は全ての書類に記載されている内容をなぞりながら、改めて今回の病気のこと、手術のことを丁寧に説明してくれた。この内容については次回少し詳しくこうと思う。というのも、今手元に実際の書類がない。具体的にどういった内容を説明されたのかを確認する術がない。普段なら音声データを聞き返しながら、記録を文字にして行くのだけど、実はこの日録音ができてなかった。

書類の説明が終わり、母と長谷先生が電話で話しをして(話というか挨拶)、診察室を後にした後、待合室に戻ってiPadの録音を停止しようとしてやっと気付いた。何かの拍子に録音が止まってしまっていた。今考えても勿体無い。


考えたって仕方のない事ばっかりだ。



28th June 2023

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