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いま私たちが感じている人や世の中の壁・境界とは/「BORDER|郡 裕美」

展示ギャラリーに入ると真っ暗で、何も見えない。
暗闇に、光線のようなものがあることがわかる・・・

ようやく数分すると眼が慣れてきて、暗い空間の中に2つの長方形の光線だけが浮かぶ展示空間があるだけとわかる。

何もないところなのだが、光の線だけで、何か仕切りといくつかの空間ができている。いや、そのように感じているだけで、実のところ何もない。

建築家で美術家の郡 裕美さんの作品〈BORDER〉。今回のギャラリー展示は堂々のこの一点にのみ。

有名なところでは越後妻有や瀬戸内の芸術祭で作品を公開しているジェームス・タレルが用いた手法と同じく、人の眼の網膜が、光の入る量を調整する機能を逆に利用して体感させるものである。
その中でこのインスタレーションは、建築家ならではの視点が活かされている。

ある場所があって、そこに空間を作るということは、建築士や大工さんが、仕切り・壁・結界つくって場を切り分けているだけのこと。

だから、実のところ、何もなくても境界を引いただけで空間は出来上がってしまう。

そういう意味では、境界線や壁とは、ただの”概念”に過ぎない。

この作品内に数分いるだけで、私たちは普段見過ごしているその概念のカラクリ、つまり世界の真理を瞬時にわかってしまうことだろう。

今も、外に出た現実の世界でも、私たちは、何も存在しない壁や境界線に、ただ分け隔てられているだけなのだということを。

身をもって体感させる、徹底的に無駄を省いた渾身の一作。

400年前、戦国の世の武将たちに価値観の転倒を仕掛けた茶人・千利休の茶室〈待庵〉もこのような、感じだったのかもしれない

※写真は、何もない光線に囲まれただけで、何か囚われた雰囲気になる私。

BORDER|郡 裕美
[ +1 art(プラス・ワン・アート)]

2023年2月12日(日)まで(PM 12〜7、最終日 〜PM5)

休廊 日・月・火【但し 2/12(日)は開廊】

〒542-0012 大阪市中央区谷町6−4−40
PHONE 06-7712-6685

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