サラリーマンが発する悲しき光のショー『夜景』

「綺麗な夜景ね……」

「君の方が綺麗だよ」

「やだ~もう~」

おい。そこのカップル。ちょっとここ座れ。

いいか。君たちが見ている光の群れは確かに綺麗だ。

でも、よく考えてほしい。

あの光のいくつかは残業しているサラリーマンが発しているものだ。

空を見上げてごらん。綺麗な星が見えるね。

あの中にはすでに爆発した星もあるという。光が地球に届くまで時間がかかるからだ。

下を見下ろしてごらん。

あのビルの光の下では爆発した星と同様、すでにサラリーマンがくたばっているかもしれない。

あの光はとっても尊い、悲しき光なんだよ。

だから、「綺麗ね……」とか言ってイチャイチャしてるヒマがあったら、静かに手を合わせなさい。

手を合わせて、残業しているサラリーマンに感謝するんだ。「残業して尊い光を提供してくれて、かつ経済に貢献してくれてありがとうございます」と。

くたばっているサラリーマンには般若心経を読みなさい。心を込めるんだよ。

そして、祈ろう。「世のサラリーマンが一刻も早く帰宅できますように」と。

その祈りが叶うと、光の数は少なくなる。でも、早く帰ったサラリーマンは家族団らんを楽しんでいるハズだ。それこそ本当の「素晴らしい夜景」だと言えるんじゃないかな。

さいごに光を提供してくれているサラリーマンへ。

あなたたちの発する光のおかげでカップルの愛がどんどん深まっています。

綺麗な夜景を見たカップルたちはいずれ、結婚するでしょう。そして子供を産む。

そうです。残業しているサラリーマンは「少子化に貢献している」ということです。

なんと健気なんでしょう。光のショーを見せながら、経済を回しているだけでなく、少子化対策までしてくれているなんて。

しかし、同時にあなたたちの残業が日本の労働生産性を落とす原因にもなっています。

労働環境が悪くなればなるほど、人手は足らなくなっていき、移民政策もうまくいかなくなるでしょう。

あちらを立てればこちらが立たず。

なので、少々光が寂しくなってもかまいません。早く家に帰ってください。

夜景を見る方も、見られる方も、どっちもウィンウィンで行きましょうね。

よし。そこのカップル、行ってよし。

ワシの目の前でキスだけはするな。頼むから。

#エッセイ #夜景 #サラリーマン

働きたくないんです。