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住職の茶番

住職が檀家さんを連れて、仏壇を買いにくるときがある。

これは仏壇屋にとって最悪だ。

住職は檀家さんに威厳を見せつけたいので、「あれ付けろ、これ付けろ、オマケにあれも付けろ、そして半額にせえ」と無茶苦茶言ってくるからだ。

さすがにすべては無理だが、ある程度叶えられると、住職は檀家さんから感謝され「さすが先生っ! ついてきてくれてよかった!」となり、お布施が弾み、威厳も保てる。

しかし仏壇屋は儲けが減り、売った人は社長に嫌味を言われ、お局さんから3日くらい嫌がらせを受ける、という売る側からするとなにひとつメリットがない。

住職付きのお客さんは非常にやっかいなのである。逆に買う人目線から言うと、仏壇を買う際は住職に付いてきてもらった方がいい。仏壇屋にかなりサービスしてもらえる。

★★★

昔からの大得意先である住職が店に来た。

「今度、檀家さん連れて仏壇買いにくるから」住職はそう言った後、ある提案をしてきた。「この金仏壇にするから定価をもっと高くしろ」

??? この金仏壇にするって、あんた、選ぶのは檀家さんでしょ。

「うまく話をして、定価を高くしたこの仏壇に決めてもらう。で、ワシが『半額にしろ』ってお前に言うから、ちょっと『うーん』とか言え。で、ワシが『頼むわ』って言うから、そこで『わかりました。住職にはお世話になってるんで』って言ってから渋々な感じで半額にせえ」

なんと住職は台本を拵え始めた。

要は、「ホラ、ワシがついてきたら半額になったやろ」と、檀家さんからの感謝を引きだそうとする魂胆なのである。マジで汚ねえ、コイツ……

半額なんてありえないのだが、定価を高く設定することで店側も損をしないように配慮してくれている。さすが寺の住職。思いやりが溢れてるね……ってアホか。

確かに誰も損をしないが、それって檀家さんをダマすことになりはしないか。しかも、買う仏壇もこっちで勝手に決めてるし……

でも、大得意先の住職だから言うことを聞くしかない。しかも仏壇の値段なんてあってないようなモンだし。ということで、定価を高くしたプライスカードを作り、その日を待った。

★★★

後日住職が檀家さんを連れて来店した。ターゲットは50代くらいの夫婦だ。

入り口から順番に見ていく。「高いね~」夫婦はビックリしていた。

半額にする予定の金仏壇はまだまだ先だ。夫婦をさり気なくその仏壇まで連れていかないといけない。住職の手腕が問われる。

「おう、これええと思うで」

住職は半額にする金仏壇を指差し、夫婦を連れていった。さり気ない感じではなく、かなり露骨である。住職……ヘタクソ。

「う~ん。なんだかなぁ……」夫婦は気に入っていない様子だ。

「い、いや、これはええ仏壇でっせ」住職は焦りながら言う。

「金仏壇ってあんまり好きじゃないんですけど」

「ウチの宗派は金仏壇って決まってるんでっせ」

「でも、眼がチカチカするんですよね」

このような理由で金仏壇を嫌悪する人は多い。完全に住職のリサーチ不足である。

「ぷぷぷ、失敗しそう」と私はワクワクしつつ、成り行きを見守った。

「いや、こ、この金は浄土を表してるからこれでええねや」住職はさらに焦る。

「うーん。やっぱり黒の唐木仏壇がいいかな。さっき見たヤツ」

「この金仏壇がええで。これにしとき!」住職は怒り始めた。

「店員さーん。これいくらになります?」檀家さんは必死の住職を無視し、唐木仏壇を指差した。

「そうですね。2割引きでどうですか?」私は提案した。

「は、半額にならへんかな!」予定が狂った住職は横槍を入れてきた。これは予定とは違う仏壇なので、定価を高くしていない。半額なんて絶対に無理だ。

「無理です」私は言った。「2割です」

「ほ、ほな、仏具を付けたってくれな!」住職はかなり焦っている。

「もちろんつけます」私は冷静に言った。「全員につけてますから」

「経机も付けたってくれ!」住職はなんとか威厳を保とうと必死だ。

「もちろんです」私は付け加えた。「全員につけてますから」

「定価を高くして、住職の鶴の一声で半額にし、威厳を保つ作戦」は見事に失敗に終わった。「住職がついてきて得した感」も出さないように私は話をした。汚い住職に対しての、私なりのお仕置きである。

結局、住職がついてきた意味はまったくなかった。横からグチャグチャうるさかっただけである。威厳もクソもねえ。ざまあみろ。

住職はすっかりスネてしまったみたいで、その後は一言も話さなかった。

こういう住職を見ていると、若者の仏事離れも仕方ないのかなぁと思う。

皆さんも住職を連れてくるのは良いことだが、言われた通りするのはやめときましょう。

その住職も仏壇屋と一芝居打ってるかもしれない……

#エッセイ #住職 #仏壇 #茶番

働きたくないんです。