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ユミさん(仮名)へ

ユミさん。お久しぶりです。

私のこと、覚えていますか? 五年前、プリザーブドフラワーを箱に詰めていく日雇い派遣で4日間、一緒に働いたきよさんです。

そうです。休憩時間に『アンパンマングミ』をむさぼり食っていた男です。

早いものであれから五年も経ちました。ユミさんと過ごした4日間は昨日のことのようにステキな思い出として残っています。

あなたの綺麗な髪、やたらと狭い肩幅、時折見せてくれる笑顔、今でも忘れることができません。たまに夢に見ます。あなたは夢の中では常に他の男といますね。嫌がらせはやめてください。

嫌がらせと言えば、あなたは最初の休憩時間、まだ自己紹介もままならない状態で「就職した方がいいですよ」という当時の私にとって、死の宣告とも言える助言をしてくれましたね。

私はその助言を「未来の旦那になる男がこんなことではダメだ」という好意的なものと受け取りました。

なので、就職しました。そして、再びフリーターになりました。

ユミさんの期待に応えられなくてすみません。私はどうしようもないダメ人間なのです。

でも、私がそんな人間になってしまったのは、ユミさんにも責任があると思います。

その理由をこれから述べます。

私は仕事一日目にして、ユミさんにすっかり惚れてしまいました。だから、連絡先を聞きたかった。でも自分に自信がなく、根性までない私は聞くことができません。

でも勇気を振りぼって私は三日目の昼休みに言ったでしょう。「ラインしてるんですか?」って。あれは「ライン交換しましょう」の意味なんですよ。

なのに、あなたという人は「してますけど、なにか?」みたいな態度で私を見ましたね。

空気を読んでください。そのときはユミさんから「ライン交換しましょう」って言うべきだったのですよ。まったく。

まだまだ言いたいことがあります。

最終日に社員の人が「一週間後にまた仕事ありますので、よかったら来てください」と言ってましたよね。

私はあなたに聞きました。「ユミさん、一週間後仕事あるらしいですよ。また来ますか?」と。

するとあなたは言いました。「多分、来ると思います」

それは私にとって『再会の約束』です。ドラマでよくある「1年後、愛し合っていたら再びここで会いましょう」のヤツです。

私は再会したときにお食事に誘い、連絡先を交換しようと思っていたのです。本当ですよ。

なのに、あなたは来なかった。約束したのに。

あなたとはそれっきりです。

あなたといつか会えることを信じて、助言通り、私は就職しました。

あなたに相応しい男になるため、根性なしでコミュ障なのに営業職を選びました。

一日100件飛び込み訪問の鬼営業セミナーに行きました。
朝礼で上司にメンチを切られ続けるブラック企業で働きました。
コミュ力を鍛える目的でカフェ会に行き、自己啓発セミナーやアムウェイに誘われました。
英語を勉強してTOEIC925点を取りました。
本をたくさん読みました。自己啓発書もビジネス書も、吉田松陰が死の間際に書いた『留魂録』も、『学問のススメ』も、幕末志士がこぞって読んだ『言志四録』も、読みました。

男らしい男になるためです。あなたに相応しい男になるためです。

でも、もう限界です。自分には合わない無理を長年してきて、疲弊してしまいました。

あなたはSNSをまったくしていないようなので状況はわかりませんが、ユミさんほどの別嬪さんを男が放っておくワケがありません。もう30歳手前ですし、結婚でもして2子くらいもうけていることでしょう。

あのとき私たちが再会できていたら、連絡先を交換していたら、私の人生は変わっていたと思います。

ユミさんと付き合って、仕事も続けて、責任感のある立派な男になっていたでしょう。

なので私がダメ人間なのはユミさん、あなたの責任です。どうしてくれるんですか。

どうにもなりませんね。っていうかユミさんは普通に仕事をしていただけで、まったく悪くありませんね。私ですね、悪いのは。

あれからも好きな人はできましたが、今でも深く心に残っているのはユミさんだけです。

ユミさんのおかげで苦手な営業職に就き、本来思っていたものとは違う人生を歩めた。そういう側面もありますが、やっぱり私はあなたと一緒にいれる人生がよかった。

ユミさんきっかけで始まった「立派な人間になるための人生」には最近終わりを告げ、自分らしい人生を始めることにしました。

なので、この手紙を最後にユミさんのことは忘れることにします。

ユミさん、ありがとう。さようなら。

もう他の男と一緒に夢に出てくるのはやめてください。お願いします。

#エッセイ #恋文

働きたくないんです。