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人生いろいろ、サンマだって……

♫いのち短し 恋せよ乙女
あかき唇 褪せぬ間に
熱き血潮の 冷えぬ間に
明日の月日は ないものを♪

大正歌謡の名曲「ゴンドラの唄」の歌詞。黒澤明監督の代表作の一つ「生きる」で、主人公を演じる志村喬がブランコを漕ぎながら口ずさむシーンはあまりにも有名です。

♫サンマ食べたし 値段は高し♪

この晩夏の食卓を歌にするなら、こんな感じでしょうか。記録的な不漁により、日本の秋の味覚の代表格であり、庶民の食卓を豊かなものにしてきたサンマは高嶺の花となっています。

この写真は、数年前に撮った群馬・高崎の奇跡のスーパー「まるおか」の売場POP。同店のモットーは「おいしいものだけを売る」ですから、品質がその基準に適わなければ売場には並ばず、満たすのであれば値が張っても品揃えします。それをお客様は知っているから、安心して購入します。期待外れがないからです。

一方、最初の写真はあるスーパーマーケットで今日見かけたサンマです。一尾138円、二尾で276円。二度見するような安さですが、よく見ると解凍物。昨年獲れたものでしょう。それでも手に届く金額です。その店の品揃えの意思を感じます。

さらに横を見ると、新物が498円。しかし、いかんせん小ぶりで身にも張りがありません。今年の不漁ぶりを感じさせる姿です。

しかし、同店の品揃えからはサンマを食べたいというお客様のニーズになんとか応えようという意思を感じさせます。そこには商人としての誠実が込められているように思います。

かたや、まるおかの品揃え方針もまたしかり。方向性は異なりますが、やはりお客様へのまごころがあります。今年はどのように対応しているのかと電話をしてお聞きしたところ、「今年に限らず」と強調した上で、このようにおっしゃいました。

「うちではサンマの季節を迎えたら、たとえ新物の入荷が遅れても、冷凍物は売場に出しません。何より旬を、新物のおいしさをお客様に感じていただきたいからです。もちろん仕入れるのは値が張っても、身が大きく脂ののったものだけです。なぜなら当店のお客様は安さよりもおいしさを求めていらっしゃるからです」

どちらが優れているという話ではありません。どちらも、己の商いに対して真摯であり、お客様に対して誠実です。なぜなら、そこに商人としての哲学があるからです。

人生いろいろ、サンマだっていろいろーー打ち合わせ先で覗いた店で見つけたサンマで思ったのは、おおむねこんなことです。

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