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beautiful with a story

発表のたびにニュースとなるのが日本の食糧自給率です。カロリーベースで38%は、諸先進国と比べ極端に低く、食糧安全保障の観点からも回復が国家的命題になっています。まったく同感ですが、こうした産業空洞化は何も食料分野や農業に限ったことではありません。

日本繊維輸入組合の「日本のアパレル市場と輸入品概況」2020年版によると、2019年のアパレル製品の輸入浸透率は98.0%に達しました。つまり、家庭のクローゼットに下着を含めて100枚の服があるとすると、メイドインジャパンはたったの2枚。1990年には約5割が日本製でしたから驚くべき急落ぶりです。

人件費など生産コスト削減を理由に、国内の繊維工場が中国ほかアジア諸国に仕事.を奪われた結果です。たしかに同等レベルの技術であれば、それも仕方ありません。

しかし、海外の有名アパレルブランドが寄せる日本の繊維工場の技術力への信頼は厚く、日本の工場に製造委託しているケースは多々あります。とはいうものの、そうした日陰の下請け仕事だけに甘んじていたのでは日本の繊維産業の衰退は避けられません。


メイドインジャパンのファクトリーブランド商品を、適正価格で販売することで国内工場の自立を促し、人材育成や技術伝承への道筋をつける――こうした事業目的を掲げ、工場直結アパレル&インターネット通販事業「ファクトリエ」を運営するのがライフスタイルアクセントの山田敏夫さんです。

熊本の老舗婦人服店を営む家に生まれ、日本製高級服を丁寧に販売する両親の商いを間近に見て育った山田さんは、世界を知ろうと大学時代にフランスへ留学しました。「ブランドの元祖」とも呼ばれるグッチに勤務していたとき、外国人の同僚から「本物のブランドはものづくりからしか生まれない。日本はどうしてアメリカの真似ばかりして、ものづくりをおろそかにするのか」と言われたといいます。

実家の誠実な商いと、海外に出て初めて知ったブランドの本質、日本の繊維工場の衰退という現実ーーこの3つが山田さんの起業のエレメントとなりました。

2012年に50万円の資本金で創業すると、700以上の名もなき工場を回ってきました。その中から世界で戦える一流の技術を持ち、価値観を共有できる工場と提携し、メイドインジャパンのファクトリーブランド「ファクトリエ」を立ち上げたのです。

現在、提携工場は49社。その提携基準は次の6点。「100年後もともに歩んでいきたい工場のみと提携します」という山田さん言葉のとおり、この点に妥協はありません。

1.高い品質基準を持っている
2.商品へのこだわりと愛情がある
3.工場内の清潔さ(整理・整頓)
4.新しい商品開発に積極的である
5.仲がよく、仲間への思いやりがある
6.非効率さをいとわない探求心がある

事業モデルを構築する上で山田さんが着目したのが従来の流通構造でした。日本では従来、糸や生地の産地、資材卸、縫製工場、アパレルメーカー、問屋や二次卸、小売りとそれぞれが単独で機能し、複雑な流通構造が形成されてきました。リスク分散のためですが、多層にわたる中間マージンによる高コスト構造を余儀なくされました。

山田さんはここにメスを入れました。企画デザイン、生産管理をファクトリエが行い、商品は一部のオーダーを除き、すべて同社が買い取ります。販売はインターネットを通じた注文に応じて自社倉庫から配送します。価格に関しては、同社が在庫リスクを持ちながらも、決定権を工場に委ねました。それにより、作り手は自らの技術を存分に生かしたものづくりに安心して取り組めるようになりました。

販売価格は工場出荷額の倍掛けとし、たとえば5000円ならば1万円で販売します。これにより百貨店に並ぶ有名ブランドとほぼ同等の品質のものが半額、ものによっては4分の1程度の価格を実現しています。

店舗は国内に東京・銀座と実家のある熊本、名古屋、そして台湾に2店。「フィッティングスペース」と言うとおり、試着によって商品のディテールやサイズを確認でき、設置されたタブレットで注文すると、後日届けられるという仕組みです。

店舗には工場で使われている素材や機械が展示され、職人たちのものづくりへの思いに触れられます。またスタッフからはコーディネート提案などファッションアドバイスだけでなく、どんな工場で、どんな作り手が、どんな思いを込めてつくられているのか、どれほど高い技術が駆使されているのかを私たちは知ることができます。

店舗入り口のサインにある「beautiful with a story」とあるように、ファクトリエのお客様への約束は「語れるもので日々を豊かに」。まさに商品というモノ一つひとつにコトが込められ、モノにモノガタリが添えられています。


価値観を共有する日本屈指の工場と共に挑むファクトリエの商品開発で順守される基準が次の6点。物語性豊かな商品の根本がここにあります。

1.語りたくなる商品である
2.ベーシックなデザイン
3.想いや技術がつまっている
4.着心地がいいこと
5.長く愛用いただけるもの
6.環境に優しいもの

これらこそまさに「ファクトリエというブランドの存在価値であり使命」と山田さん。「私が目指すのは資本性と社会性の両立です。資本性とは誇りあるものづくりにより、工場の経営が上向き、事業を継続・発展させること。社会性とは、それにより新たに繊維産業を志す若者を増やし、日本に本物のブランドを育てることです」。

ブランド名「ファクトリエ」とは、ファクトリー(工場)とアトリエ(集まる場所)の造語。作り手(工場)と使い手(顧客)を結ぶ繋ぎ手である同社の元に、同じ価値観を持つ多くのお客様という“仲間”が集います。

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