見出し画像

伊藤、前に出ろっ!

「もともとはプロボクシングで世界チャンピオンを目指していたんですが、2勝3敗で引退。それから30歳まで就職経験なしでアルバイトを転々とするフリーター。普通なら手遅れ、、、ですよね」

そう振り返るのは、ユニークなデザインで人気を集めるTシャツ店「戦うTシャツ屋伊藤製作所」を経営する伊藤康一さん。2004年にネットショップとして起業、2008年には東京・谷中に実店舗を開業しました。

独特な味わいある絵柄が特徴で、このデザイン力を生かして2011年には「邪悪なハンコ屋 しにものぐるい」を同じくネットショップと谷中で展開しています。
 
経験を無駄にしない

「ここまでやってこられたのは、これまでの経験から学んだことを無駄にしなかったからだと思います」と言う伊藤さんは、プロボクサー引退後、アルバイト情報誌の制作ほかアルバイトで働き、懐が厳しくなると親に仕送りを頼む生活を続けていました。

転機は2004年、インディーズTシャツ(個人や小規模法人によるオリジナルデザインのTシャツ)を制作し、ネットで販売しているクリエーターたちのイベントに足を運んだときのことでした。伊藤さんは、アルバイト情報誌の制作に携わっていたのでイラスト作成の知識はあり、ウェブ制作も商品撮影に必要なカメラ撮影もたまたま趣味でやっていました。

これならいけると思った伊藤さんは、アルバイトを続けながらTシャツをつくり、即売イベントに参加、ネットショップを開設。しかし、初めて商品が売れたのは、それから3カ月後のことでした。

けっして幸先の良いスタートではありませんが、伊藤さんは「売上げゼロとは全然違う」と前向きに捉えました。ついにはアルバイトを辞めて実家に戻り、本腰を据えて取り組み始めたのです。

「ボクシングの試合で打ち負けて、体がだんだん動かなくなってきたときでした。『伊藤、前に出ろっ!』と、トレーナーが繰り返し叫んでいる。『もう、どうなっても知らないからなっ!』と心の中で思いながら、自分の残っている最後の力を使って相手を押し返していったら、、、最終ラウンドまで持ちこたえ、判定で勝てたことがありました。

もし、あのとき前に出なかったら、そのまま相手の勢いに飲まれて負けていたでしょう。前に踏み出せば、後はなんとかなる。とにかく、そのときできる自分の精いっぱいをやればいい。このとき、『一歩踏み出す』ことの大切さを学びました。この経験は、その後の僕の人生でも大事な場面で役に立ってくれています」

起業の成否を分けるもの
 

企業は生き物です。多くの企業が生まれ、そして多くの企業が死んでいきます。その平均寿命は短く、起業後1年以内に倒産する企業の割合は30~40%、3年以内に倒産する企業の割合は70%、10年以内に廃業する企業の割合は9割以上と言われています。

それゆえ、起業を志望しながらも行動に起こさない人は数え知れません。起業の成否を分けるものは何か--。伊藤さんの事例は、3つのポイントを教えてくれています。

一つは「小さく始める」こと。たいてい最初は失敗するから、何度でもやり直せるようにすることが大切です。アルバイトを続けていたから、3カ月も売上げがなくても伊藤さんは続けられました。

そして「行動する」こと。考えてから行動するのではなく、行動してから考えるのです。

ある起業志望者から伊藤さんは、「伊藤さんみたいな人になりたい」と言われたといいます。しかし、彼は何も行動しませんでした。「彼は一歩前に出られなかったんですね」と伊藤さんはその人を評しています。

最後に「言い訳しない」こと。「行動しない人は『お金がない』『時間がない』『年だから』とできない理由ばかり並べ立てますが、どうすればできるかを考えるべきです」。

「人生を充実させるために一歩踏み出してください。人生にはKO負けも最終ラウンドもないらしいですよ」と言う伊藤さんの穏やかな表情の奥に秘める情熱。それこそ、起業に欠かせないもののようです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?