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「歩くだけで稼げる」 STEPNのビジネスモデルを図解してみた

「歩くだけでお金が稼げるゲーム」という意味不明なものが存在する世界になってしまったのだが、そのビジネスモデルをきちんと考察してみると非常に面白かったのでシェアする。

(※ 2022/4/3 コメントを頂いたので一部修正)


暗号通貨界隈で最近話題のSTEPNというゲームは Move to Earn をコンセプトにしており、歩くだけでお金が稼げるという意味不明なビジネスモデルを持つ。歩くという日常の行為を行うだけで、何故かお金が稼げるのである。

ゲーム内容的にはポケモンGOのようなものであり、リアル世界を歩いた分だけゲーム内コインを貰うことができる。そしてこのゲーム内コインはゲーム外で換金することが出来るため、結果的に歩いているだけでお金を稼ぐことが出来る。

初めてこれを聞いた時、「いやいや所詮一日5円とかでしょ」と思っていたのだが、ユーザーの投稿を見ている限り、多い人だと一日8万円以上稼いでいたり、わりと普通のユーザーでも一日5000円〜1万円程度稼いでいたりする。バブリー過ぎて、ちょっと意味がわからない。

数年前に少し流行った「歩くことでポイントが貰えるサービス」では、一日1円とかのレベルだったので、その違いに驚かされている。

さすがに意味がわからなかったのでビジネスモデルを考えてみたら、なるほどこれなら確かに一日1万円稼げてもおかしくないな、という気持ちになると同時に、とても危ういなという気持ちにもなったので解説していく。

※ 筆者はSTEPNの中の人ではないため、内容の正しさは保証できない。気になる点があれば適宜ご指摘いただきたい。

ゲームの概要:10万円払って開始する投資ゲーム

STEPNを始めるためにはSOLという暗号通貨を使ってゲームで利用する「靴」を購入する必要がある。

その靴が、現在(2022/3/15)の価値で10万円ほどする。非常に高い。

とはいえ他のゲームと違うのは、この靴自体を転売できるという部分である。ゲームリリース時(2021/12)と比べて靴の価格が3倍程度になっていることを考えると、靴を買うという投資ゲームと捉えることも出来る。

そしてこの靴を持った状態で「歩く」もしくは「走る」ことで、ゲーム内で利用できる「GST」というコインを手に入れることが出来る。これがゲームの基本的なルールとなる。

他にも細かいルールとしては、靴の種類やレベルによって手に入れられるGSTが増減したり、靴は使えば使うだけGSTを得るための効率が落ちる、といったものがある。また、GSTを利用して新しく靴を生み出す(≒ガチャ)こともできる。

もうひとつ大事な概念があり、このGSTはゲーム外で換金できる。それによって、歩く→GSTを得る→GSTを換金して日本円を得るといった活動が可能となる。

ここまでをまとめると
・ゲームを始めるには靴(10万円以上)の購入が必要
靴は株のように価値が上下し、一種の投資となる
歩くことでコインを得ることができ、このコインは円に換金出来る
といったものであり、参加には費用はかかるものの、一種の投資を行いながら「歩くことでお金が稼げる」ゲームといえる。

図解と解説

コインの創出

大前提として、GSTは無から生み出される。つまり、運営側は何のコストも支払うことなくGSTを生み出すことが出来る

としたときに、運営側が不正な行為をしてしまうとGSTが無限に生み出されてしまう。そのようなことがあると、運営側は儲かるかもしれないがGSTには何の価値もなくなってしまう。そのため、運営側が不正な行為をしないための仕掛けが必要となる。

そこで、STEPNの世界においては「歩く/走る」ことでしかGSTを手に入れることができないというルールが強制されている。このことにより、運営側が不正にGSTを生み出すことを不可能にしている。

※ 正確には、端末のGPSの不正等でGSTを不正に生み出すことは出来ると思われる。とはいえこの部分は運営として不正監視をしていると思われる

ここで大切なことは、GSTは運営が付与するわけではないということである。通常のゲームであれば運営側が保持しているGSTをユーザーに付与するという仕組みがとられるが、このようなゲームにおいては「ゲーム内の法律」によってコインが創出される。つまり、運営側の存在関係なく、ゲーム世界のルールによってGSTが創出される。

つまり、GSTの創出において運営は一切関知しないという選択を取ることによって、運営側の不正によるGSTの価値低下を防いでいる。

ゲームのルールによるコインの価値の保護

歩くことでGSTを得ることが出来るだけでは、GSTが世の中に増えすぎてしまい、GSTのインフレが発生してしまう。この場合、GSTの価値がなくなってしまうため、インフレを防ぐための仕組みが必要となる。

この仕組みが、GSTを利用した靴の修復や靴の生成である。STEPNでは歩くごとに靴の性能が劣化していくルールになっているのだが、この性能劣化はGSTを利用して回復することが出来る。また、GSTを利用して新たな靴を生成することも出来る。これは靴の修復や生成にみせかけた、運営側によるGSTの回収行為と捉えられる。

つまり、GSTを与えるだけでなく、事あるごとにGSTを回収することによって、運営側はGSTのインフレを防いでいる。

(追記)なお、靴の修復や生成で利用されたGSTは自動的に破棄されている。詳細は下記参照。
https://whitepaper.stepn.com/tokenomics/gst

このようなゲームにおいては、報酬の付与と報酬の回収のバランスをどう担保するかがキモであり、運営側はこのルール策定において経済学者等々を含めた本格的な設計を行っていると思われる。機会があれば裏側の話を聞いてみたい。

運営側の収益源

(追記:この項目の内容を一部修正しています)
運営側の収益源は幾つかあるが、わかりやすい収益源は「靴の販売益」および、ユーザーが生成した靴の売上から得られる手数料となる。

とはいえ、一番大きいものはトークン売却益と考えられ、STEPN経済圏がどの程度発展するかが重要と言える。

ゲーム外の販売所におけるコインの価値の保護

ところで、主にSTEPNで利用される通貨であるGSTは誰によって買われているのだろうか。現時点では1GST400円程度であり、一日20〜100GST程度手に入れることが出来るというゲームバランスを考えると、わりと高価な部類にあたると考えられる。

もちろん、ゲームのユーザーがより効率的なプレイを行うためにゲーム外部の取引所でGSTを購入することも考えられるが、そのようなユーザーは稀であると考えられる。

とした時に考えられるのは、運営側による購入である。つまり、ゲーム外の取引所においてゲーム内コインの買い支えをすることによって、ゲーム内コインの価値を担保していると考えられる。

つまり、
・靴の販売によってSOL(ゲーム外でも使える通貨)を得る
・ユーザーが売り出したGST(ゲーム内で使える通貨)を運営側がゲーム外で購入する
といったサイクルを回すことで、GSTの価値の安定を図っていると考えられる。

追記:運営側の買い支えについてはあくまでも筆者による推測。誰が購入しているかを正確に追うことは不可能なため、中の人に話を聞いてみたい。

考えられるリスク

STEPNが安定的に運営されるためには、創出されるGSTと回収されるGSTのバランスを取る必要がある。このバランスが崩れると、ゲーム外で販売されるGSTの量が増え、GSTの価値の下落に繋がってしまう。

これらを防ぐために運営側によるGSTの買い支えは一定続くと思われるが、これは勿論持続可能なものではない。新規ユーザー数が減る、もしくは、運営側が元々保持している資金が切れた時点で買い支えはなくなり、GSTの価値が下がる可能性が高くなる。

楽観的なシナリオでいえば、ゲーム内の創出と回収のバランスがうまくとれるといったケースであるが、ゲーム内でのレベルが上がるにつれてGST創出の効率が上がっていくことを考えるならば、創出が回収を上回るタイミングが来るのは比較的早いと思われる。

また、既存ユーザーの退会もリスクとなる。退会時にはGSTを売りに出すことが通常だと考えられるため、コアユーザーの退会が続くとGSTの売りが強くなる可能性が高い。とすると、GSTの価格下落に連られる形でのさらなるユーザー退会というマイナスのループに陥る可能性がある。

これを防ぐ手段としては、GSTをSTEPN以外のゲームでも利用可能にするという展開が考えられる。とはいえ、他社がGSTのに依存する可能性は低い。なぜなら、同じモデルで自社でコインを発行するほうが儲けられる可能性が高いからだ。としたときに、運営側による第二、第三の矢としてのゲームのリリースが求められる。

また、最悪のケースとしては、運営側が回収していたGSTの売出しというものが考えられる。運営側が逃げ切りを図るのであれば可能性はゼロではないが、倫理的に考えて必要数以上は行わないとは思う。

GSTの価値が上がりすぎた場合に運営側がGSTを売り出すことは考えられるが、誰にとってのメリットもないのでこのケースは無視できると思う。

未来について

比較的リスクが多いゲームではあるが、Move to Earn という発想自体は面白く、一定程度続くゲームになるのだとは思う。とはいえ、現在のように一日数万円稼げるゲームであり続けるかでいえば、その可能性は低いと考えている。

そもそもとして、なぜ歩く(走る)だけでお金が稼げるのだろうか。つまり、このゲームの本質は、「歩くという行為に対する値付け」ではないだろうか。

歩くという行為に対して一定の金銭的価値があると感じる人がいるからこそゲームが成立しているのであり、現時点ではそこに投機的な価値が含まれていることは間違いないが、最終的には多くの人が感じている「歩くという行為に対する金銭的価値」に集約していくはずである。

それが現実的に幾らになるのかは興味深いが、個人的な予想としては1キロ数十円〜100円程度の価値になるのではないだろうか。これは現在のSTEPNの1/20〜1/50程度の価値だと思うが、それくらいの価値はあるように思える。

歩く=移動と捉えるならばもっと低い価値であることは自明なのだが、歩く=運動=カロリー消費/ダイエット/健康と捉えるならば、その価値は移動よりは高くなりそうに思えているからだ。

どのような未来になるかはわからないし、事業として今後成功するのかも私には読めない未来だが、人が「歩く」という行為に対して幾らの値付けをするのかという答えは見てみたいなと思う。



P.S. Web3.0の分野を一緒に造ったり語ったりする友人知人がほしいです。気軽にメッセージいただけると嬉しいです。


まいにちのご飯代として、よろしくお願いします。