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和ろうそくで若冲をみる_#1

「『日本の絵画を知る』和ろうそくで見る伊藤若冲」という、無鄰菴さんで行われた特別講座。ちなみにわたしは美術系の大学出身でもなく、山縣有朋(無鄰菴は山縣有朋の別荘)について詳しくもなく、和ろうそくが何でできているものなのかもいまいち良くわかっていないような人間だ。

ただ美術館や博物館でガラス越しに実物を見ていると、どんな想いで描かれたり依頼されたものなのかとか、実際にはどういうところに飾られていたのかとかいうことが気になって、テレビで特集なんかがあると見てみたり、ゆかりの場所や人物について調べてみたりすることはある。なので「和室の床の間に飾ってある掛け軸をろうそくの灯りで見られる」なんて、もうそれだけでものすごくワクワクする。


無鄰菴の二階の和室には20人ほど。簡単に挨拶が済まされ、早速若冲の掛け軸が床の間にかけられる。実際に箱から出して飾られるところを見るのも新鮮だった。和やかな雰囲気でどこから参加されているかとか、若冲展は観たかといった話のあと、学芸員の方でも”こんな形で見るのははじめて”と話されていて、ますます貴重な機会に感じる。

まずは一幅目。竹藪から出てきた雄の鶏がこちらを向いている「竹に雄鶏図」。若冲の鶏と言えば繊細で細密でものすごくリアルなイメージだったけれど、墨で描かれたものはまた印象が全然違う。たっぷりの墨で黒々とした尾羽が力強くてワイルド。40代の頃の作品らしく、青物問屋を弟に譲って絵を描くことに専念しだした頃のものだろうか。驚くことにフラッシュ無しなら写真を撮ってもいいとのことで、みんなが一斉に携帯やカメラを構える。通常の電灯のまま、前後を入れ替わりながらひととおり眺め終わると和ろうそくに火がともされ電気が消された。

隣にいるひとの顔は判別がつくけれど、それも3人目ぐらいまで。4人目以降は暗くてよく見えないほどの明るさのなかで、こちらを覗き込む鶏が浮かび上がる。掛け軸のかかる壁と絵が描かれた紙の色が同じに見え、墨の部分だけがより際立つ。正面に座るとちょうど目線が合う高さになり、ろうそくの灯りがゆらゆらと揺らめいて、それにあわせて絵もゆらゆらとして表情が変わって面白い。ひたすら暖炉の火が燃えているところを収めた動画があるけれど、それと同じようにずっと見ていられそうな光景だった。

二幅目は一面の墨に白く浮かび上がるしゃれこうべが描かれた「髑髏図」。
掛け軸を出しながら、こっちはさらにすごいですよ、とニヤリとされるので期待感が高まる。蛍光灯の下で見る髑髏はすこし怖い。なんでこんな絵を、という近寄りがたい雰囲気で、インパクトはすごいけれど美術館で並んでいても立ち止まってずっと眺める、という感じではないなぁと思ってしまう。ところが、ろうそくの灯りで見ると全く印象が変わって驚いた。

ちょっとかわいい…?と暗がりの中で誰かがつぶやく。先ほど感じた怖さもどこかへいってしまい、妙に親近感を感じる。

この絵は常に飾られるものではなく、法要などの折々に出されたのではないかというお話で、若冲も親しい故人の思い出話に花を咲かせながらこの絵を眺めたりしたのだろうか、と思うと感慨深い。ろうそくの灯りの色が優しくて暖かい。見終わってしまうのが名残惜しい。部屋にいる全員が思わず黙って見つめてしまうので不思議な雰囲気なんだけど、それぞれが思い思いに絵に集中しているような空間だった。

どちらの掛け軸も法蔵寺さん所蔵のもので年に一度の寺宝展にてお披露目される。今年は2月7日から11日の5日間だそう。ちなみに8日は若冲の「お誕生日会」もあるそうだ。


今回の講座は二部制になっており、二階で掛け軸を鑑賞したあと、一階で和ろうそくのお話を聞かせていただいたので、後半は和ろうそくについて書こうと思う。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!