記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

はぐれ悪魔超人コンビの話

 なんだかんだで「男」の物語が好きだ。しかし「こういうキャラいいよね~」という好みがあっても、じゃあその具体例はと言われると、結構困ってしまうことが多い。机の引き出しの中身が、とっ散らかってしまっている。
 だから、インプットを意識していなかった頃に摂取したものを、思い出した端からなるべくしっかり言語化しておきたい。

 「キン肉マン」に登場する、アシュラマンとサンシャインの話をする。
 二人のヴィランの友情と決別の話、あるいは、光堕ちの代償の話だ。

 キン肉マンに登場する「超人」という種族は、「正義超人」や「悪魔超人」といったカテゴリに分類される。アシュラマンとサンシャインは、キン肉マンの「黄金のマスク編」に登場した悪魔超人だ。ファンタジー作品における魔族みたいなもんで、基本的には悪徳を是とする連中である。
 アシュラマンは、3つの顔と6本の腕を持つ超人、サンシャインは、全身が砂でできたゴーレム人形のような超人だ。初登場時の彼らは、あんまり特筆すべきことはない。強敵ではあったが、ヒーローに倒されるヴィラン以上のキャラ性は特になかった。

 アシュラマンとサンシャインは、次の「夢の超人タッグトーナメント編」において、「はぐれ悪魔超人コンビ」として緊急参戦する。このタッグトーナメント編は、Eロイス:砕け散る絆で友情を忘れてしまった正義超人たちを元に戻すため、キン肉マンが奮闘する話だ。なので、「友情」というものに強いフォーカスが当てられる。
 キン肉マンチームの友情を目の当たりにし、絆の力の存在を認め始めるサンシャイン。しかし、それを認めないアシュラマンとの連携に乱れが生じ始める。戦いが進み、アシュラマンを見捨てれば勝てる、という局面になって、サンシャインはアシュラマンの命を優先してしまう。「悪魔にも友情はある」と叫ぶサンシャインに、アシュラマンも涙を流し、愛や友情というものの存在を認め、負ける。

 まぁここまでは良い話なのだ。
 だが、次の最終章「キン肉星王位争奪編」において、アシュラマンは正義超人に加入する。一人で。人気のあった悪魔超人はどんどん正義超人になっていく時代だったのだ。でもサンシャインからすれば、そりゃないだろという感じである。

 続編のキン肉マンⅡ世で、このサンシャインの孤独が拾われる。
 この時代において、悪魔超人の勢力は完全に衰退していた。正義超人に憧れて脱退する超人も多く、指導者になるような悪魔超人がほとんど残らなかったのだ。サンシャインは「去る者は去れ!」と叫び、ひとりで特訓を続けていた。
 ちなみにこの頃サンシャインは、超人の孤児を拾い、弟子として育てている。「顔が3つあるイケメン」と、どこかアシュラマンの要素を感じさせる超人で、サンシャインの感情の重さがなんとなく滲む。まぁ、彼も最終的には正義超人になっちゃうんですけどね……。

 大阪の串カツ屋で飲んだくれていたサンシャインだが、そんな彼の元に電撃的なニュースが届く。アシュラマンが、悪魔超人として復帰したのだ。しかも、30年前の若々しい姿のままで。
 感激したサンシャインは、アシュラマンに会うため、巌流島まで泳いでいくのだが、アシュラマンからは「悪魔超人に戻っても、お前とはもう組まない」と冷たくあしらわれる。

 それでも、サンシャインは健気にアシュラマンのセコンドに名乗りを上げ、彼の戦いを見守ろうとする。
 で、まぁなんやかんやあって、アシュラマンとキン肉マンⅡ世の戦いが始まるのだが、そこでアシュラマンの過去が明かされる。

 キン肉マン本編終了後、アシュラマンは結婚し、ひとりの子供をもうける。正義に目覚めた彼は、自身の息子も立派な正義超人に育てようと、指導を続けていた。しかし、息子は徐々に悪魔超人としての残虐性に目覚めていき、最終的には自らの母をも惨殺してしまう。アシュラマンは魔界の長の責任として、息子を粛正する。
 この悲劇は、すべて自らが悪魔超人であることから目を逸らし続けたために起こったこと。アシュラマンはそう考え、妻と息子への贖罪のために、ふたたび残虐な悪魔超人として戦う決意をする。アシュラマンが全盛期の若い肉体を手に入れていたのは、その後、エピソードの黒幕と取引をしたためだった。

 アシュラマンは、キン肉マンⅡ世を終始圧倒するが、ふとしたきっかけからⅡ世の姿が自らの息子と重なり動揺、最終的には敗北する。
 その後、黒幕はアシュラマンの信義に反して、正義超人たちとの約束を反故にしようとしたため、アシュラマンは黒幕の企みを阻止する。が、アシュラマンも力の源を奪われて元の老いた姿へと戻ってしまう。

 家族を失い、正義を失い、そして力を失ったアシュラマン。だが、そんなアシュラマンの身体を、同じように老いたサンシャインが支え、「悪魔にも友情はあるんだぜ」と寄り添う。
 アシュラマンの子殺しの苦悩とかが解消されたわけではないんだけど、長年の離別を経て、ようやくこの二人が元の関係に戻ってこれたわけだ。

 アシュラマンと息子のエピソードは「正義に目覚めたヴィラン」が辿るその後として、あまりにも救いがないが、それはそれとして好きだ。結局は、「悪の業」からは逃れられなかったという話でもある。発露の形は違うけど、MCUのスカーレット・ウィッチとかと同じ結論かなと思う。
 一方のサンシャインは、「悪魔超人としてはちょっと甘いところがある」と見せておいて、実は一番悪魔超人としてのアイデンティティに迷わなかったというキャラ造形が好きだ。アシュラマン含め、正義に転向した悪魔超人はみんな「正義超人の友情に憧れて」と言うが、サンシャインは一貫して「悪魔にも友情はある」と言う。悪魔超人のまま、友情を体現できるのはサンシャインの方だ。

 読めばわかると思うけど、サンシャインはアシュラマンのことが大好きである。サンシャインは「悪魔六騎士」のリーダーのはずなのだが、その割にはしょっちゅうアシュラマンの方を立てているし、主導権はいつもアシュラマンの方が握っているように見える。
 アシュラマンは「魔界のプリンス」と呼ばれ、悪魔超人の中でも高貴な家柄の出身である。サンシャインは、きっとアシュラマンの方がリーダーの器だと思っていたし、将来的にはアシュラマンが悪魔超人を率いる指導者になると信じていたんじゃないかと思う。
 しかし、実際にはアシュラマンはサンシャインに比べると悪魔超人としてのアイデンティティが弱いところがあって、サンシャインの方がよほど揺らがないものを持っている。
 このあたりは僕の解釈であって、公式ではないんだけど、アシュラマンとサンシャインの関係については、僕はこういう風に見ているし、そういうふたりの関係が好きだという話だ。

 僕は友情の中に、「こいつこそ俺たちのリーダーに相応しい」という信頼があるのが好きなんだろうなと思った。戦隊モノでは普遍的に発生するエピソードだし、5D’sの遊星と鬼柳の関係もそんな感じだ。
 ちなみに今回は、Ⅱ世におけるアシュラマンとサンシャインの話をしたかったので、現在連載中のシリーズについては意図的に省いて話をしている。有識者の方々ごめんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?